桜の国チェリンと七聖剣【百八十四】
「ハプ博士、何を……!?」
「ははっ、そう構えないでくレ。この<涅槃水晶>は、戦闘用じゃなくて完全な補助用――『未来の吉凶』を占う魂装なんダ」
「未来の吉凶を占う魂装、ですか?」
「うむ、珍しいだろウ?」
「は、はい」
そんな能力は、聞いたことがない。
間違いなく、相当レアな魂装だ。
「かつて『最強の剣士』を目指していた私は、まったく戦闘向きじゃない魂装にひどく落胆したヨ……。しかし今となっては、本当にこれでよかったと思ウ。この力のおかげで、たくさんの危機を乗り越えてきたからネ」
透明なクリスタルを彷彿とさせる<涅槃水晶>――彼はそれを正眼の位置に構えた。
(……綺麗だな)
さすがは千刃学院のOBというべきか、とても自然で美しい立ち姿だ。
「『百聞は三文の徳』と言ウ。一瞬のことだから、見逃さないようにネ?」
ハプ博士が<涅槃水晶>に霊力を込めた次の瞬間――透明な刀身がどす黒く濁り、大きなヒビが走った。
「ッ!?」
それを目にした彼は、ギョッと目を見開いた後、ホッと安堵の息をこぼす。
「ふぅ、危ない危なイ……。やっぱり、ここが限界ラインのようだネ」
「えっと、どういうことでしょうか?」
「占いの結果――これ以上アレンくんのことを調べた場合、私は何者かによって殺されてしまうようダ」
「何者かに殺される!?」
なんだかいきなり、物騒な話になった。
「さすがの私も、今回ばかりはちょっと焦ったヨ。どうやら、本当に『ギリギリのライン』に立っているみたいだネ」
ハプ博士はひび割れた刀身をジッと見つめながら、しみじみとそう呟いた。
占いの結果は、刀身の欠損具合で視るようだ。