桜の国チェリンと七聖剣【百八十二】
「それからもう一つ、気になることがあってネ。これ、ちょっと握ってもらえるかナ?」
ハプ博士はそう言って、なんだかえらくゴツゴツとした握力計を取り出した。
「ささっ、遠慮なくギュッとやってくれたまエ!」
「は、はぁ……」
なんだかよくわからないけれど、とりあえず言われた通りに握力計をギュッと握り締めたその瞬間――『メギィ』という明らかにヤバイ音が響いた。
「……あれ……?」
「ほほぅ……!」
手元に視線を落とせば、取っ手の部分がグチャグチャにひしゃげた握力計があった。
とてもじゃないが、もうこれは使い物にならないだろう。
「す、すみません。なんか壊れちゃったみたいです……っ」
桜の国チェリンの観光でそれなりに散財したため、手持ちは非常に心許ない。
(握力計って、いくらするんだ!? 病院で使っているやつだから、めちゃくちゃ高かったりしないか!?)
頭の中に弁償と借金の文字がグルグルと巡る中、
「計測不能とは……素晴らしイ! まさか超高耐久設計の握力計をこうも簡単に握り潰すなんて、こちらの想定を遥かに上回るとんでもない馬鹿力ダ!」
ハプ博士は、鼻息を荒くしながら目をキラキラと輝かせた。
彼の口ぶりから察するに、ある程度この事態を予測していたらしい。
「あの、ハプ博士……?」
俺が説明を求めようと口を開けば、彼は「おっと、すまなイ」と笑った。
「実は、アレンくんの体を検査しているうちにとても面白いことがわかったんダ! なんと……君の筋繊維の密度は、常人の百倍以上! 所謂『特異体質』というやつサ!」
「特異体質……?」
「あぁ、そうダ! 普通の人間とは違った、『特別な構造の体』をしているということだヨ。例えば……かつて君と激しい戦いを繰り広げたシドー=ユークリウスくん、彼も特異体質だネ!」
シドー=ユークリウス、氷王学院所属の超天才剣士だ。
「シドーくんの場合はこう……とにかく『柔らかい』んダ! 全身の筋肉という筋肉が、恐ろしいほど柔軟なんだヨ! 大五聖祭の後、瀕死の重傷を負った彼の体を診たときは、そのあまりの柔軟性に思わず唸り声をあげてしまったものサ。『まるで女の子のような柔肌だネ!』と言ったら、強烈な一撃を食らったっけカ……。あれはいいパンチだったなァ……」
ハプ博士は何故か頬を赤く染めながら、恍惚の表情を浮かべた。
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(ちなみに……原作小説第6巻は、来年2月20日に発売予定となっております! お楽しみに! 原稿作業、頑張ります!)