桜の国チェリンと七聖剣【百七十三】
追記:2020/09/05
本日最新話を更新します。
【ほぉ、『とてつもない大変革』か。それはなんというか……面白そうじゃのぅ!】
【……おい、何か妙なことを考えていないだろうな?】
【――よし。決めたぞ、バレル! 儂がお前さんより早くその子どもを見つけ出し、この桜華一刀流を仕込んでやろう!】
【バッカス……私の話をちゃんと聞いていたのか? 『破壊の子』は邪悪の化身、存在そのものが罪なんだ。そんなやつをさらに強くしてどうする? お前はこの世界を滅ぼしたいのか?】
【馬鹿たれ! 生きることは、決して罪にならん。それに子どもというのは育つ環境によって、善にも悪にも染まるもんじゃ】
【知っているか? 昔から『類は友を呼ぶ』と言う。すなわち、邪悪の周りには邪悪が寄り付く。お前が破壊の子と出会う頃には、そいつはもうどうしようもない極悪人になっているだろうな】
【はぁ……バレルよ……。お前さんは本当にマイナス思考で、どこまでも根暗な男じゃのぅ……。たとえもし、そやつがどうしようもない悪ガキに育っておったとしても、剣を振るう楽しさを――剣術の真髄を解すれば、たちまちのうちに真人間となるに決まっておろうが! そうなればきっと、『プラスの大変革』を起こしてくれるじゃろうな!】
【……やはり私とお前は、考え方から生き方から、何から何まで全く噛み合わんな】
【ばらららら! バレルが破壊の子を殺し、世界に安寧をもたらすか。儂がその子どもに剣術を叩き込み、世界に大変革をもたらすか。どちらが先に目的を果たすか、一勝負いこうではないか!】
旧友――神聖ローネリア帝国が皇帝『バレル=ローネリア』とのやり取りを思い出しながら、バッカスは会心の笑みを浮かべた。
「悪いな、バレル! どうやら『あの勝負』は、儂の勝ちのようじゃ! 『この一手』で時代は、世界は、歴史は――大きく揺れ動くぞ!」
一足早く勝ち名乗りをあげた彼が、右手をスッと伸ばせば――そこへ億年桜のはなびらが集い、鮮やかな桜の太刀が生まれる。
「――小僧ッ! これが『最後の稽古』じゃ! よぅく見ておくがいい!」
バッカスは腹の底から大声を張り上げ、長年連れ添った愛刀をゆっくりと振りかぶった。
「桜華一刀流奥義――」
遥か大空に狙いを定め、『生涯最後の斬撃』を繰り出そうとすれば、
「何をするつもりか知らんが、貴様に手出しはさせん!」
「あっしらを無視せんでくださいよぉ!」
フォンとディールは大地を蹴り付け、すぐさま妨害へ入る。
「究極絶対防御――円環の砂くじ……ッ!?」
純白の盾を展開し掛けたところで、フォンはすぐさま自身の誇る最強防御術を解除した。
(あ、あり得ん……ッ)
この斬撃を防ぐという行為が、いったいどれほど無謀で愚かなことかを悟ったのだ。
「へへっ。いくら『幻霊の真装』っても、こっちにゃ『数の理』がありやすからねぇ……! <毒龍の――」
「――馬鹿野郎、ディールッ! 『格の違い』を理解しろ!」
フォンは素早くディールを蹴り飛ばし、自らも瞬時にその場を跳び退いた。
その直後、
「――鏡桜斬ッ!」
鏡合わせのようにして、幾億の桜の刃が空を斬り裂いた。