桜の国チェリンと七聖剣【百七十】
魂装<億年桜>の能力――『完全再生』。
これは億年桜の持つ莫大な生命エネルギーを対象に付与し、その者の傷を完全に再生するものだ。
バッカスはこの力を使って、リアの心臓を再生し、ローズたちの体を蝕む猛毒を消し去り、つい今しがた自身の負傷を全快させた。
不治の病に侵された彼が、常人と変わらぬ生活を送れているのも偏にこの力のおかげである。
ただ一つ、途轍もない霊力を消費するという欠点こそあるものの……。
ズタズタに引き裂かれた心臓さえコンマ数秒で元通りにするその力は、もはや『回復』を超え『再生』の領域へ踏み込んでおり、かつては『無敵の魂装』として恐れられたほどだ。
バッカスが<億年桜>を解き放った今――その霊力が完全に尽き果てるまで、彼が戦闘において死ぬことはない。
「ぬぉおおおおおおおお……ッ!」
バッカスはひたすらに猛攻を仕掛け、
「この化物が、貴様の時代はとっくの昔に終わったのだ……! いさぎよく死ね!」
「そんなボロボロの体で、よくもまぁそんなに動けやすねぇ……ッ!」
フォンとディールは、真っ向からその勝負に応じた。
(まだ、じゃ……っ。小僧らが安全圏へ飛ぶまで、まだ倒れるわけにはいかん……ッ)
バッカスは唇を噛み切り、薄れゆく意識を強引に支配下へ置く。
一対二という悪条件の中、
「桜華一刀流――連桜閃ッ!」
「ぐっ、盾鯨ッ!」
「こ、の……毒龍の死撃ッ!」
「ばらら……ぬるい、ぬるいわァ゛!」
老兵は元世界最強の名に恥じぬ、見事な大立ち回りを演じた。
しかし――研ぎ澄まされた桜華一刀流の斬撃を繰り出すたび、億年桜はその美しい花弁を散らしていく。
それはまさしく命の花びら。
一枚また一枚と落ちるたび、『死』は着実に迫っている。
そうして一分・二分・三分と経過した頃、
「ば、ばらららら……! ここまで距離を稼げば、もはや手を出せまい……ッ!」
自身の戦略目標を達成したバッカスは、ニィッと口角を吊り上げた。
飛空機に乗り込んだアレンたちは、遥か遠方の海上を飛んでいる。
あれはもう<浄罪の砂鯨>と<九首の毒龍>の射程外。
彼らの無事は、完全に確保されたと言っていいだろう。
「……あぁ、確かにその通りだ。もはや私とディールの能力では、どうすることもできん。しかし、それはまた『逆』も然りだ」
「……どういう意味じゃ?」
「ふっ、言葉通りの意味だ。ここまで距離が離れれば、貴様とてもう『盤面』に干渉できんだろう?」
フォンは不敵な笑みを浮かべ、懐に忍ばせた小型無線機を取り出す。
「――こちら、フォン=マスタング。第一目標をバッカス=バレンシアから変更、現在上空を飛行するアレン=ロードル一派とする。総員、大至急魂装を展開し、最大出力をもって目標を抹殺せよ!」
彼がそう命令を下した次の瞬間、
「な、なんじゃ、これは……ッ!?」
分厚い雲の中から、とてつもない数の飛空機が姿を現し――アレンたちを挟み撃ちにしてしまった。
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