桜の国チェリンと七聖剣【百九】
「フォンの旦那ぁ、とりあえず細けぇことは置いておいて……。今は『仕事』の方を優先しやせんか?」
組織の一員と思われる男は、困り顔のままポリポリと頬を掻く。
その発言を受けたフォンは――まるで時が止まったかのように、全ての行動をピタリと停止させた。
「……『細かい』、だと? 違う違う違う。私は細かい人間ではない。貴様等があまりに大雑把過ぎるのだ。いいか? 先ほどのように小さな間違いを正すことは正しい行い、つまりは『小さな正義』だ。それを常日頃から積み上げていくことにより、いずれは世界平和という『大きな正義』が結実する。……ふむ、これはいい機会だな。貴様には、もう一度教えてやろう。そもそも『正義』とはな――」
よほど正義というものに執着があるのか、彼は延々と語り続けた。
「あー……。また始まったよ、旦那の『最大幸福正義論』。……バレル陛下ぁ、やっぱりパートナーを代えてくれやせんかねぇ? とにかく相性が最悪なんでさぁ……」
いつも演技がかった男は、今回ばかりは真剣に嫌そうな表情を浮かべていた。
「そっちのあなたは……ディール=ラインスタッドね?」
会長は微塵も警戒を緩めることなく、げんなりした様子の男に声を掛けた。
「おんや、あっしのこともご存知なんですかぃ……?」