桜の国チェリンと七聖剣【百八】
「詳しい事情については、後でちゃんと説明するわ。だから今は、あの裏切り者との戦闘に備えてちょうだい……!」
会長がそう言って剣を抜き放つと、フォンは露骨に顔を歪めた。
「シィ=アークストリアよ。お前は――いや、お前たちは何やら大きな勘違いをしているようだな。……仕方がない。この際、はっきりとその間違いを正してやろう」
「……何かしら?」
「私は決して、薄汚い『裏切り者』ではない。ただ七聖剣を抜け、神聖ローネリア帝国と協力関係を結んだだけだ」
「「「「「「「「……?」」」」」」」」
この場にいる全員が、フォンの謎理論に首を傾げた。
「……フォンの旦那ぁ、一般的にそれを裏切りっていいやすよ?」
彼の仲間と思われる男が、至極真っ当な突っ込みを入れると――フォンはそれを鼻で笑った。
「馬鹿が、頭の辞書をしっかりと更新しておけ。『裏切り』とは、善なる者が悪の道を進むことだ。私のこれは『自分の正義』を全うするため、異なる組織へ移っただけに過ぎん。言わば、正義から正義への転身。――決して裏切りなどではない」
「そ、そうですかぃ……」
……理屈っぽいというか、細かいというか。
とにかくフォン=マスタングという剣士は、いろいろと気難しい男のようだ。