桜の国チェリンと七聖剣【九十六】
「ふぅー……」
俺は大きく息を吐き出し、体からじんわりと漏れた闇を引っ込める。
「お、落ち着いてくれたかしら……?」
「……すみません、少し気が立ってしまいました」
頭を軽く左右に振り、ゆっくりと気持ちを落ち着かせていく。
「それで……いったい何故、リゼさんの名前があがったんですか?」
彼女と極秘会談の間には、なんの関連性もないはずだ。
「私もまだ詳しく聞けたわけじゃないんだけれど……」――会長はそう前置きをしてから語り始めた。
「七聖剣の四人が『郵便配達』の任を与えられたあの日、リゼ=ドーラハインが聖騎士協会の本部に姿を見せたらしいの」
「リゼさんが本部に……?」
「えぇ、そうよ。四人の七聖剣が口を揃えてそう証言したらしいから、まず間違いないわね。多忙を極める彼女が、わざわざ足を向けたということは……。きっと聖騎士長様とお話する予定があったんでしょう」
「……そうかもしれませんね」
多忙なリゼさんは分刻みのスケジュールを送っており、あの天子様ですらアポイントを取るのには苦労するらしい。
そんな彼女が直接出向いたということは、当然それなりに『大きな用事』があったのだろう。