桜の国チェリンと七聖剣【八十八】
「『例の黒い外套』って……。七聖剣が、黒の組織に入ったってことですか!?」
フォン=マスタングという剣士が、いったいどんな男かは知らないけれど……。
正義の聖騎士から悪の黒の組織へ。
それは最低最悪の裏切り行為であり、到底許されるべきものじゃない。
「えぇ、どうやらそうらしいのよ……。彼は自らの口ではっきりと『アレン=ロードルに殺された、かつての十三騎士グレガ=アッシュ。その後釜として、俺は組織に加わった』と説明したらしいわ」
「……グレガ、か」
かつてヌメロ=ドーランの屋敷で剣を交えた、危険極まりない男だ。
(本当はセバスさんが『処分』したんだけど……)
彼の巧みな情報操作によって、あの一件の罪は全て俺がかぶっている。
「フォンの裏切りが発端となって、現地ではいろんな問題が起きたらしいんだけど……。その詳細については、まだ全然詳しく聞けてないの。さっきの電話は、本当にただ『会談が終わった』という一報だったから」
「なるほど、そうだったんですね……」
七聖剣が一人、フォン=マスタング。
どうして彼は、聖騎士を裏切って黒の組織へ入ったのか。
いったい何故、極秘会談の場に姿を見せたのか。
そこでどんな問題が引き起こされたのか。
聞きたいこと・知りたいこと・疑問に思うこと、それらが一気に頭の中をグルグルと巡った。
そうして俺が、難しい表情で情報の整理をしていると、
「――ねぇ。最後に一つ、アレンくんに『お願いごと』があるの。……聞いてもらえるかしら?」
彼女は何故か恐る恐るといった風に、最後の話を切り出した。