桜の国チェリンと七聖剣【八十七】
「まぁ『神聖ローネリア帝国への対応』については、これまで何度も討論を交わしてきたことだから……。今回もまたいつものように、次回以降の会談へ持ち越しって感じね」
会長は短くそうまとめた後、
「ただ、問題は次よ。今日の午後、会談もいよいよ終わろうかというそのとき――誰もが想像だにしなかった事態が起きたの」
真剣な表情を浮かべ、『本題』の話へ踏み出した。
「アレンくんも知っての通り、かつて五大国の一角を担ったテレシア公国は、神聖ローネリア帝国に落とされてしまったわ」
「……元日の一件ですね」
魔族との同盟を発表した帝国が、突如五大国へ一斉攻撃を仕掛けたあの大事件。
ここリーンガード皇国はもちろんのこと、世界各地でたくさんの血が流れた地獄のような一日だ。
「そうよ。そして、これはまだ公にされていない情報なんだけれど……。実はあのとき、偶然テレシア公国に滞在していた『七聖剣』がいたの」
その情報は、完全に初耳だ。
「男の名はフォン=マスタング。『正義の心』を持つ、恐ろしく強い剣士よ。彼は魔族と神託の十三騎士と交戦した後、消息不明になっていたの。残念だけれど、激しい死闘の末に戦死した――誰もがそう考えたわ」
会長はそこで一息をつき、
「だけど今日、死んだはずのフォンが極秘会談の場に姿を見せたの。しかも、例の黒い外套を身に纏ってね」
とんでもないことを口にした。