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365.約十日ぶりの登校





「クノンだ! クノンがいるじゃねぇか!」


「え?」


 早朝。

 久しぶりに魔術学校へやってきたクノンは、大声で名を呼ばれた。


 男の声だ。

 ちょっと興奮を帯びた感じの声だ。


 誰かと思って意識を向けると――


「ベイル先輩?」


 そう、遠くから走ってきたのは、「実力」代表ベイル・カークントンである。


 それも一人じゃない。

 彼の後ろにはあと二人いる。


「おまえやったな! やりやがったな!」


「は、はい?」


 いきなり「やりやがった」と言われても。


 なんだ?

 約一週間来なかった間に、自分は何をやったんだ?


「――クノン君! 君は今までどこで何をやってた!?」


「――え!? 実験!? ずっと!? ……じゃあしょうがないか」


 興奮気味のベイルに。

 続く彼らに。


 クノンは戸惑うばかりだった。





 魔人の腕開発実験が無事終了し、三日が過ぎた。


 一昨日の晩から昨日の夕方まで。

 ロジー邸にて、実験のことを話し込んだ。


 ロジー、シロト、アイオン。

 そしてクノン。


 気付いたことの検証や意見のすり合わせ。

 四人の話は尽きることなく、本当に丸一日、ずっと話をしていた。


 それから解散し、家で眠り。

 今日である。


 十日ぶりの登校になるだろうか。

 例の睡眠の商売を手放したので、気兼ねなく不在にすることができた。


 で、久しぶりに学校へ来たのだが。


「落ち着いてください、ちょっと皆さんの顔から話までもが見えません」


 ベイルを含めた三人ほどに囲まれている。


 三人とも「実力」の生徒だ。

 男ばかりでがっかりだ。


 彼らに悪感情はない。

 が、興奮しているのは間違いない。


 いったい彼らに何があったのか。

 そして自分は何をしたのか。


 内心ちょっと身構えつつ、彼らの話を待つ、と――


「そういや話していいんだよな?」


「発案だから大丈夫だろ」


 発案?


 そんな囁き声の後、ベイルは言った。


「魔建具、公表されたぞ」


 クノンは納得した。


 あれが公表されたのであれば。

 それは興奮もするだろう。


 土魔術師なら。


 むしろそうなってくれないと張り合いがない。


 よくよく観察すれば。

 ベイルを含め、彼らは三人とも土属性である。


「ついに公表されたんですね」


 魔建具と言えば。


 去年の秋、新入生セララフィラと開発した魔道具だ。


 商業ギルドとの擦り合わせや、値段、売り出し方など。

 それらのことはセララフィラに任せた。


 商業ギルドでの話し合いがあり、契約を交わし。


 それから造魔学を学んだり。

 遠征に出たり。

 先日の魔人の腕開発実験があったり。


 そんなこんなで、あっという間に数ヵ月が過ぎている。


 あの魔建具が、ついに公表された。


 つまり。

 セララフィラは無事、大きな案件を成功させた、ということだ。


 まあ、心配はしていなかったが。


 彼女には使用人マイラが、商才溢れる素敵な女性がついているから。


「どんな感じですか? もう見たり触ったりしました?」


「数日前に公表されて、即座に使用ライセンス契約をした。

 それから、俺たちはずっといじってる」


 なるほど、とクノンは頷く。


 魔道具に夢中になると、徹夜くらいはあたりまえになってしまうから。


「で、これから建ててみるつもりだ」


「え、これから?」


 建ててみる。


 というと、徹夜してたくさん試作した魔建具を。

 これから披露する、ということか。


「いいなぁ! 僕も一緒に行っても!?」


「ああ、いいぞ! 発案者の意見も聞きたいしな!」


「俺の建造センスを見せてやる!」「私の美しい家具センスに酔いしれなさい」「俺は古代ルビュランタス文明を髣髴とさせるレトロなデザインによる温かみのある家をイメージした建築物が好きだが今回は別のにしたぜ!」などなど。


 盛り上がる先輩方と一緒に。

 クノンは試作魔建具の見学へ向かうのだった。





 魔人の腕開発実験のレポートを書く予定だったのだが。


 まあ、こういう予想外の誘惑があるのが、魔術学校。


 いつも通りである。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 1人意識高いのがいるなww
[良い点] 更新再開ありがとうございます! そしてさすクノ いや、特級の先輩方もそうか すぐに遊びたがるんだからw
[一言] 更新が嬉しい。
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