表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/465

303.プライドの問題





「肥料ではない、魔術的な効果で成長促進効果を与える魔道具。それを造るしかないんじゃないかって」


「……悪い、さすがにピンと来ない」


 生憎、カイユにはわからない。

 植物関係のことなど、まるで知識にないのだ。


 クノンが言っていること。

 恐らく半分くらいしか理解できていないと思う。


 しかし、だ。


 ピンと来ないが、違う主張は見えた気がした。


 クノンが焦る理由。

 逸る理由。


「でもそこまでやると、さすがにまずい気もしてて……」


 開拓地にあってはならない技術だ、と。


 クノンはその辺の線引きをして、行動を抑えている。


 それも、カイユは理解している。


 近い内にここを去るのだ。

 無責任にやりっぱなしになってしまうのである。

 

 だから、できるだけ問題の少ない方法で開拓を進めたい。


 そう考え、慎重に動こうとしているのだろう。


 それだけクノンがこの地を。

 この地にいる人を大切に思っている、という証拠だと思う。


 やりすぎて万が一があったら大変だから。


 だからこそ、だとも思う。


「――やれば?」


 と、カイユはクノンが撫で回している、大笑いおっさんの首を取り上げる。


 クノンがこれを撫でていた理由はわからない。

 そっちの理由はわかりたくもない。


「元からこの開拓地は普通じゃねぇ。もはや一個二個とんでもない物が増えたって誰が気にするんだよ。


 いざって時はミリカさんやここの連中がどうにか隠すだろ。

 バカじゃねぇんだから。


 それより――」


 カイユは、さっき気づいたことを告げた。


「それより、もはやプライドの話になるんじゃねぇか?」


「プライド?」


 ――クノンにとっては、予想外すぎる言葉だった。


 プライド?

 何が?


 カイユが言っていることが本当にわからない。


 なぜ生首を取り上げたのかも、わからない。

 次の生首に手を伸ばすがやんわり止められるのも、わからない。


「ここはいずれおまえの領地になるんだろ?」


「はい」


「だったら気に入らなくて当然だろ。

 誰彼構わず勝手にいじくり回されて、おまえが知らないところで勝手に成長してて。


 将来大切な場所になる予定なのに、おまえ自身はほとんど何も手を入れられない。触れられない。


 勝手に作られた場所だぜ?

 愛着なんて湧くわけねぇし、思い入れもあったもんじゃねぇ。


 俺だったら普通に怒ってる。他人の土地に勝手なことすんな、ってな」


 ――言われて初めて気づいた。


 そして、しっくり来た。


 そうだ。

 開拓地に来てから、ずっと、なんだか違和感があったのだ。


「そうか……」


 クノンは納得した。


 ――ここは自分の領地だ、という実感が、どうしても持てなかった。


 本当は、自分の領地だ、という爪痕を残したかったのだ。


 開拓を頑張るつもりで、たくさん魔術師を連れてきた。

 でもできることは少なかった。


 その上で、何ができるか。

 それをずっと考えていた。


 先を考えれば、派手なことはできない。

 するべきではない。


 色々思いつくが。

 それをやるのは、まだまだ時期尚早だと思う。


 けど、自分の成果を残したい。

 残すべきだ。 


 心のどこかでそう考え、だから割り切れなかった。


 小さな魔道具だけに抑えるのか。

 それとも大きな魔道具に挑戦するべきか。


 ずっとどちらにも寄り切れなかった。


 何かしなければいけない。

 そう焦っていた。


「カイユ先輩」


「なんだ」


「僕、我慢しなくていいですよね?」


「それは知らない。でもここはおまえの領地だろ?

 どうせ最終的にはおまえが責任を取ることになる。だから好きにすりゃいい」





 クノンは研究室を出て行った。


 幾分迷いが晴れたのか、すっきりした顔をしていた。


「……偉そうなこと言っちまったなぁ」


 大笑いおっさんの首を片手に、カイユはぼやいた。


 自分だって似たような問題を抱えているくせに。

 自分のことを棚に上げて、偉そうに語ってしまった。


 これからクノンがどうするか。

 何をするか。


 それはわからないが――きっと何かはするのだろう。


「……」


 大笑いおっさんの生首を見詰めて、思う。


 こんなの造って遊んでる場合じゃないんだよな、と。









 その日の夜。


 相変わらずばらばらの食事時を経た、この地ではもう深夜と言える時間帯。


 クノンは遠征組全員に召集を掛けた。


「だいたいあと二週間前後で引き上げたいと思います」


 なんだかんだで日数が過ぎている。


 ――皆それぞれやることはあるので、暇はしていない。


 ただ、少し物足りないとは思っていた。

 学校に残って実験なりなんなりしていた方が、まだ有意義だったかもしれない、と。

 

 それくらい、やり甲斐がない。

 

 これなら自分じゃなくてもいいだろう。

 そんな過ごし方をしてきた。


 自動荷車はよかった。

 だが、それだけではまだ足りないのだ。


 特級クラスに属するクノンの同期たちと、準教師である。


 向上心が高いのだ。

 だから、やり甲斐がないのは、少しつらい。


「それで――」


 眼帯の下にある瞳で、クノンが全員に視線を巡らせた。


 いつになく落ち着いた様子だった。

 開拓地に来てからは、常に、少し悩んでいる様子だったが。


 このクノンは、いつものクノンだ。

 学校にいた頃のクノンだ。


「残りの二週間、皆さんの時間を僕にください」


 元々そのつもりで来ている。

 だから、誰も文句は言わなかった。


 無言の返答を貰い、クノンは笑った。


「じゃあお願いしますね。


 まずハンク、明日の朝僕の部屋に来て。

 レイエス嬢とリーヤとセイフィ先生には明日メモを渡すので、それに沿って動いてください。


 カイユ先輩は、こっちの準備が整ったら動いてもらいますので、それまではご自分の研究を頑張ってください」


 具体的な指示が出た。


 ちなみに聖女の侍女であるフィレア、ジルニは勝手に動かせないので、何もない。


「ちょっと大掛かりな魔道具を造ろうと思います。


 その名も――多機能豊穣装置。魔的要素で豊穣の力を造り出すものです」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『魔術師クノンは見えている』好評発売中!
『魔術師クノンは見えている』1巻書影
詳しくは 【こちら!!】
― 新着の感想 ―
ん?カイユ先輩ってもしかして、例の二級の先生か?流石に違うか?
やっと話が動いたよ ためが長すぎるしそもそも王国側がホウレンソウせずに好き放題やったのが原音だろ最低限事前共有しとけよな… 寝取られもの中盤みたいな展開延々続けられてようやくかあ…
お、カイユ先輩鋭いですね。好きになっちまった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ