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301.口ゲンカ





「……私、プレッシャーに弱かったのか……」


 天敵に指摘されて、ようやく。


 ようやくセイフィは自覚した。


 ――全然自覚がなかったし、振り返ってみれば。


 確かにそうだった。

 大事な局面では、大抵しくじっていた。


 教師採用試験もそうだ。


 筆記も。

 実技も。

 応用も。


 試験の後になって気づく。

「あそこ間違った」「ああすればよかった」と。


 後悔するのだ。

 普段であれば間違えないようなことを間違えて。


 ゼオンリーの言う通りだ。


 いつしかちょっと諦めるようになったと思う。

 試験なりなんなり、大事な時に「でも失敗するかも」と、自然と思ってしまうようになった。


 おかげでプレッシャーはあまり感じなくなった。

 代わりに、試験に本気で臨むのが、怖くなったと思う。


 全力なんて――出せている気がしない。


「その歳まで自覚がないってのも……まあいい。

 案外そんなもんだよな。自分のことなんてよくわかんねぇよな」


 いささかショックを受けているセイフィに対し、ゼオンリーは追撃をしなかった。


 昔なら絶対にしたはずなのに。

 やはり彼も大人になったということだろう。


「サーフとか教えてくれなかったのか? おまえあいつと仲良かっただろ」


 ――サーフ・クリケット。


 ゼオンリーの同期で。

 セイフィにとっては彼も先輩に当たる。


「試験の前に『落ち着いて頑張ってね』とはよく言われたけど……」


 核心に触れることは、全然だ。


「あいつ気づいてないのか、それとも……まあ言えねぇ気持ちもわかるけどな。

 言ったって有効な解決法があるのか、って話だしな」


 その通りだ。


 自分はプレッシャーに弱い。

 そう言われて自覚したところで、じゃあどうすればいいのか、という問題は残るわけだ。


 そんなのセイフィだってわからない。


「……ああぁぁぁぁ……」


 セイフィは頭を抱えた。


 振り返れば。

 振り返れば振り返るほど、己のしくじりをどんどん思い出す。


 緊張に負け、失敗し、落ち込み。

 簡単なミスを連発して。

 

 そんなことを何度も何度も繰り返してきた。


 他はいい。


 特級クラス時代は単位で困ったことはないし、実験や開発も優秀だった。

 当然部屋も綺麗に保っていた。

 自分を助手にしたい、という教師も多かった。


 魔術も得意だった。

 正直、ゼオンリー以外の土魔術師には負けない自信さえあった。


「おい、落ち込むなよ。俺のせいみたいだろ」


「落ち込むわよ……あ、そういえばあんた!」


「なんだよ」


 思い出した。

 どんどん思い出す。


 正直――絶対にないとは思っていたが。


 しかし他の者には言われたことがある。


 ――「ゼオンリーってあんたに気があるんじゃないの?」と。


 この天敵にはよく絡まれていたので、そう邪推された。

 冗談じゃない、と思ったものだ。


 あの頃はよく邪推された。


 だが。


「あんた私みたいな奴にばっか絡んでたでしょ!?」


 思い返せば、そう。


 ゼオンリーは、セイフィ含む特定の生徒によく絡んでいた。

 半ばケンカを売っているような感じだったが……。


 しかし、そう。

 そうだ。


 今謎が解けた。


「あんた何なの!? 不器用すぎない!?」


 あのメンツを思い出すと、一歩足りない者ばかりだった。


 自分も含めてだ。


 優秀だけど、あと一歩足りない。

 優秀だけど、どこか抜けている。


 ゼオンリーはそんな者にばかり関わっていた。


 あれは、ゼオンリーなりの激励だったりアドバイスだったりしたらしい。


 当時はケンカを売っているとしか思えなかったのだが……。


「うるせぇな。この俺が声を掛けてやっただけで有難いと思え。

 そもそも俺は、人の面倒を見るのに向いてねぇだろ。この性格だぞ。俺自身だって難儀してんだ」


「あんたはクノンがいるでしょ! ちゃっかり可愛い弟子とか取って! 何が人の面倒を見るのに向いてない、よ!

 その通り向いてないわよ! でも言葉くらい選んでよ!」


「うるせぇな! 弟子取ってから少しは落ち着いたんだよ、これでも!

 だいたいその辺のガキなんて弟子にしたって、俺が潰してたぞ! あれはクノンが並みのガキじゃなかったから耐えられたんだ!」


「――あんたら何やってんの?」


 いきなり始まった口ゲンカに横槍が入った。


 いつの間にか、二人の傍にはレーシャが立っていた。


 呆れた顔をして。





 ゼオンリーとレーシャは、屋敷の外に出てきた。


 まだ空は暗い。


「本当に予想外だったぜ。必要な話だけするつもりだったんだが」


 あくび交じりにぼやくゼオンリー。


 やはり昔馴染みと会うと、話すことが尽きない。


「徹夜?」


「ああ」


 夜通しクノンと話した。

 これもまた、話すことが尽きなかった。


 それに、朝一番で王城に帰る予定だった。

 だから寝るのもまずいと思ったのだ。


 寝過ごしたら、余計な者に会う可能性も高くなるから。


 だが、さすがにちょっと疲れた。

 セイフィと話したことが、堪えた。


 若い頃は言い合いも平気だったが。

 あの頃より歳を取った今は、学生時代のノリはきつい。


 精神的にも肉体的にも。


「あんたが起きてきてくれて助かったぜ」


 レーシャが来なければ自力で帰るか、と思っていたのだが。


 どうやら王城まで送ってくれるつもりで早起きしたらしい。


「それより、セイフィにあの話したの?」


「した」


 あの話とは、六ヶ国合同計画のことだ。


 今は開拓地に住んでいるレーシャも、あの話は知っている。


「返答は?」


「聞いてねぇ。つーかすぐに決められるようなことじゃねぇだろ」


 優れた魔術師なら、すぐに察するだろう。


 新しい魔術学校を作る。

 それはつまり――グレイ・ルーヴァの反感を買うかもしれない、と。


 彼女のやり方は気に入らない。

 だから新しく学校を作る。


 そんな理屈が成り立ってしまうから。


「進捗はどうなの?」


「それは知らねぇ。

 ただ、思ったより上の連中がが乗り気みたいだ。


 だから案外形になるのは速いかもな」


「ふうん」


 レーシャは不敵に笑う。

 ゼオンリーも邪悪に笑う。


「――来年? 再来年? さすがにもっと先かな?」


「――何にせよ面白くなりそうだよな」


 六ヶ国合同計画。


 それはつまり、六ヶ国にいる国一番の魔術師たちが集うということだ。

 そんな連中が学校を作る、ということだ。


 各国の王宮魔術師クラスが集う。

 そう考えていいだろう。

 

 文化が違う。

 歴史が違う。

 国ごとに必要とされる魔術が違う。


 ――知らない魔術を知ることができる。

 ――それも、普通なら絶対に知ることができない魔術を。


 そんなの楽しみでしかない。





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― 新着の感想 ―
やっぱクノンって凄いんだなぁ。 ゼオンリーって何歳なんだろ。
一見楽しそうだけど、ディラシックの歴史的経緯といい、6カ国噛んでいる辺りといい、乱世の切っ掛け作ろうとしてない?
>グレイ・ルーヴァの反感を買うかもしれない それはないだろう。でも俗物な権力からいかに守り抜くのか肝だと思うね。六ヶ国の魔術師たちが一丸となって権力者層に対抗しなければ絶望的かと。
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