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298.やはり師はすごかった





「――結論から言うと、おまえの情報通りの魔道具はまだ開発できてねえ」


 あとは魔術師同士の話となる。

 なので、ミリカには外してもらった。


 たぶん彼女も、姉を追ってちょっと地下に行くのだろう。


 心なしか嬉しそうだったから。

 いつもなら、追っ払うゼオンリーに一言二言はあるものなのに、なかったから。


 まあ、それはいいのだが。


「場所移します? たぶん誰も来ないと思いますが、誰が来ても不思議じゃないですよ」


 食堂に残ったクノンは、場所の心配をした。


 まだ夜が深いわけではない。

 だが、食事時はもう過ぎている。


 魔術学校から連れてきた者たちも、もう食事は済んでいる。

 だから来ることはないはずだ。


 が、確証はない。


 ゼオンリーは誰かと会うと面倒だと言っていたので、一応聞いてみた。


「俺がいつも泊まる客間がある。これ食ったら移動しようぜ」


 と、ゼオンリーはパンとスープに手を付ける。


「――ここで食う野菜、めちゃくちゃうまいよな。こういう具材の少ないスープだと旨味が際立つ。

 ここに来る王宮魔術師は、あの光る種の解明に夢中だぜ」


 さらりと言った。


「皆さん、結構頻繁に来てるでしょう?」


 そうじゃないと、この開拓地の状況。

 そしてあの温室の説明がつかない。


 魔道具技術の粋を尽くした、あの温室。

 クノンが確認しただけでも、二十を超える魔道具を発見した。


「来てる。

 食い物はうまい、自由に魔術が使える、研究したいことも意外と多い。

 人が少ないおかげで人目も少ないしな。


 それに開拓事業の手伝いや工夫は、今後いかようにも活かせる。これに関しては資料作りさえ始まっている。


 俺たちは半ば城勤めみたいなもんだからな。

 たまには息抜きもしたいが、いちいち許可を取らないと許されない。


 で、ここだ。


 ここならロンディモンドが簡単に許可を出すからな。

 ちょっとした旅行感覚で来るには丁度いいんだ。いろんな意味でな」


 ちょっとした旅行感覚で来ているらしい。

 王都を離れてはいけない王宮魔術師たちが。


「ここ、未来の僕の領地なんですけど。あなた方は僕の領地をどうするつもりですか?」


 思った以上に発展している、開拓地。

 とんでもない技術を尽くした温室。


 たぶんクノンが知らない、気付いていないだけで。


 いろんなところに手が入っていると思う。


「さあ? それを決めるのはおまえだろ?」


 果たして本当にそうだろうか、とクノンは思ったが。


 まあ、今ここでゼオンリーに抗議しても仕方ない。


 それこそ抗議するのであれば、ロンディモンド総監に言うべきだろう。


 ……言いづらいにも程がある相手だが。


「いっそディラシックみたいな魔術都市を作るのも面白いんじゃねぇの?」


「いや、あれは無理でしょう」


 あれは世界一の魔女グレイ・ルーヴァのお膝元だから成り立っている。


 もし彼女がいなくなれば。

 きっと荒れるだろう。


 魔術は力だ。

 それを力で抑える者がいるから、法と秩序が成り立っている。


 抑える者がいなくなれば、めちゃくちゃになるだろう。

 暴走する者が多発するはずだ。


「おまえがグレイ・ルーヴァの代わりになればいいだろ」


「師匠……」


 ゼオンリーはわかっていて言っている。


 できるわけがない、と。


 その通りだ。

 今目の前でニヤニヤしている師にさえ、クノンはまだ勝てないのだ。


 このレベルと、これ以上のレベルを。

 しかも数百人規模を、たった一人で抑えるなど。


 できるわけがない。

 それをやっているグレイ・ルーヴァがとんでもない存在なのだ。


 伊達に世界一などと言われていない。

 彼女の実力、恐ろしさは、歴史が語っている。


 逸話なんて数えきれないほど残っている。

 嘘か本当かはわからないが。


 しかし、嘘みたいな話が本当である場合もあるのだ。


 グレイ・ルーヴァとはそういう存在なのだ。


「俺の弟子ならそれくらい言ってほしいもんだがな」


「今適当に言ってるでしょ?」


「わかる?」


「長い付き合いですから」


「まあ飯食いながら小難しい話もないだろ。


 それと、領地の心配はいらねぇよ。

 あの姫さんがいるからな、意外と王宮魔術師(おれたち)の手綱をちゃんと握ってるんだぜ?」


 そうであることを願うばかりだ。


 ミリカには負担を掛けるが、今のクノンにできることは。

 しっかり学んで魔術学校を卒業することだ。


 それから、この地を盛り立てるのだ。

 彼女とともに。





 食事を終えたゼオンリーと、客間にやってきた。


 と言っても、ここもベッドくらいしかない空き部屋だが。


「――師匠ってやっぱりすごいですね」


 改めて思い知らされる、師の力。


 ルーペのような魔道具を五つ見せられ。

 クノンは素直に、尊敬の念を抱く。


 実に緻密。

 実に精巧。


 普段の横柄なゼオンリーとは似ても似つかない、細かく小さく繊細すぎる魔道具たち。

 

 一目でわかる。

 クノンが真似できないほど複雑怪奇な仕掛けが施されている、と。


「あの温室も見ましたよ。あんな大掛かりな物も作れるし、魔道飛行船も作れるし、こんなものも作れるし。

 なんか……思った以上に僕と差があるんだな、って改めて思いました」


 いつか追いつける。

 追いつきたい、追い越そうと。


 そう思っていたゼオンリーは、しかし。


 クノンの想定以上に先を行っている。


「あたりまえだろ、俺の仕事なんだから。


 ……と言いたいところだが、これらや温室に関しては王宮魔術師(どうりょう)の知恵も大いに借りたものだ。

 飛行船も一人で作ったわけじゃねぇしな。


 同じ研究者、同業者と一緒に考えて開発したんだ。


 おまえとやってたことを、相方を変えてやった結果だな」


「え? 僕というものがありながら他の人と開発を? 嫉妬しちゃうなぁ」


「嫉妬するほど仲良くねぇよ。

 めちゃくちゃケンカしながらやった。ストレスが半端ねぇぞ。イラつきすぎてハゲるかと思ったぜ」


「……もうちょっと人との付き合い方を考えましょうよ」


 と、まあ。


 余談はさておき。


「――すごいけど、なんでしょうこれ……」


 ルーペ越しに見る、世界は。


 確かにおかしなものが見える。


 見える、が……。


「確かに僕の『鏡眼』とは違うものが見えますね……」


 魔道具による「鏡眼」の再現は、できていない。


 だが、代わりに。


「鏡眼」では見えないものが見えてしまう。


「どれが一番近い?」


「う、うーん……僕の場合見づらいのもあるので、正確には……」


 ルーペを見るのは、魔力視だ。

「鏡眼」で見れば、「鏡眼」の視界で見てしまうので、それはできないのだ。


 少し離れただけでよく見えなくなる魔力視。

 近くはいいが、距離が空くとダメなのだ。


「でも、これかなぁ」


 と、クノンはレンズが少しだけ赤みがかったそれを取る。


 それは、世界の色が違って見えるルーペ。


 色が若干違うが。

 でも、これは「鏡眼」と同じ理屈で変色しているのではなかろうか。


「なるほど……炎魔蜻蛉(エンマトンボ)の眼を使ったレンズか。虫の視界に似ているのか、それとも『鏡眼』の仕組みと似ているのか……」


「僕としてはこっちが気になりますが。なんか色付きの線が見えるんですが、これは……?」


「それは残留魔力の痕跡が見えるやつだ。魔術師を追跡することができる」


「へえ! 仕組みは!?」


「闇魚の一種に光麗魚ってのがいてな。そいつが持っている光を放つ部分を素材に使っている」


「全然聞いたことない! やっぱり魔道具の世界は広いなぁ!」


 ――弟子と師の話は、尽きることはなかった。

 




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― 新着の感想 ―
師匠はちゃんと伝えるべきことを全部伝えてくれるからやり取り見てて癒やされるなあ… 酒カスが直接伝てる前提の話しぶりだからやっぱミリカと領民がクソなだけなんだろうな…
[一言] あれ?魔道具に生き物の死体の一部を使って生前の能力を再現するって造魔学…になるのか?
[一言] 酒カス…
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