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第零話 最強の陰陽師、死す


 ――――どうしてこうなったのか。


 平安の怪夜。

 燃え落ちていく屋敷の中で、死に瀕するぼくはそれだけを考える。


 呪符たる人形(ヒトガタ)のほとんどを失い、式神はすべて封じられた。

 切り札の鬼神も倒された。その骸は屋敷を潰し、今も青い炎を上げ燃えている。

 左腕を失った。もう完璧な印は結べない。

 肺は煙で焼かれ、真言すら唱えられない。


 歴代最強の陰陽師と称えられ。

 『百鬼夜行』『生ける地獄門』と恐れられ。

 年若い姿で百年を超える歳月を生きたぼく。

 その末路がこれだった。


 幼い頃から力を求めた。

 それさえあれば何も失うことはないと思ったから。幸せになれると思ったから。

 望み通りに力を得て、ぼくは最強になって。

 そして、すべてを失った。


 謀略と裏切り。

 それが、最強を殺した者の名だ。


 思えば、すべて仕組まれていたのだろう。

 弟子達を人質に取られたことも。

 朝廷を敵に回さなければならなくなったことも。

 そして……泣きながらぼくを討つに至った、あの子のことも。


 見事だった。

 黒幕がどこの貴族か皇族か知らないが、本当に見事に、ぼくは窮地に追いやられた。


 最強なんてなんの役にも立たなかった。


 力だけではやはり限界があったのか。

 策謀を巡らし、常に大勢を味方につけるよううまく立ち回るべきだった。


 ぼくに足りなかったものが、今でははっきりわかる――――狡猾(こうかつ)さだ。


 わかったから、もう大丈夫。

 次は(・・)うまくやる。


 震える右手で不完全な印を組む。

 灼けた喉でささやきのような真言を唱える。

 大事にとっていた一枚の呪符が、煙の中に浮かび上がる。


 今生の最期に使うは、秘術。

 転生の(まじな)い。


 やり直すんだ、もう一度。

 これから先、日本(ひのもと)がどう変わるかはわからない。いやそれどころか、まったく別の国に生まれる可能性も高い。

 だけど、今度は失敗しない。

 次の生こそ――――ぼくは幸せになるんだ。


 呪符が光を放つ。

 倒れるぼくを中心に、魔法陣が現れる。

 意識が遠のいていく。


 そしてぼくは――――、

書籍版が発売中です!

各巻にはウェブ版未掲載の書き下ろしが収録されています。

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