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東方幻想入り  作者: コノハ
世界の脅威
43/112

出撃と私

 遠くから見ていた地霊殿は大きく見えなかったのだが、近づけば近づくほどにその大きさがわかっていく。まるで宮殿のような荘厳な建物。そのくせ、入口は一つで、しかも入り口の荘厳な扉に続く道は細く、その下には先ほどと同じ溶岩の海が広がっていた。溶岩の海からは、灼熱の炎柱が何本も噴き上がっている。

 レイムが道の前に降り立ったので、私もあとに続いて降りる。

 上空からはよく見えなかったけど、道の前には三人の人がいた。

 真ん中にいるのは、さとり。右にいるのは、猫さんの耳を着けた女の人。もう一人が、額に立派な角を持つ、体操服を着ている女性だった。

「さとり、首尾は?」

「大丈夫。

 澪、紹介するわ。こっちが、私のペットの火焔猫燐。お燐と呼んであげて」

 そう言ってさとりは右の猫さんの耳を着けた人の名前を教えてくれた。おりん。……ペット?

「はじめまして、おりんさん。私はミオ・マーガトロイドといいます」

「あたいはお燐。よろしくなっ!

 ……にしても、あんたがねぇ」

 挨拶も軽く終わらせると、おりんは興味深そうに言った。

「何がですか?」

「ん? ここじゃ結構有名だぞ、あんた。色々と噂は尽きないし」

 噂? なんだろう。良くない噂……というわけではなさそうだ。おりんの顔をみればわかる。

「お燐、あまりそのような話はよしなさい」

「はーい、さとりさま」

 破天荒そうな言葉遣いや性格に似合わず、おりんは素直にそう言った。さとりが主人、だからかな。私は自分の後ろにいる東野を見る。じっと立って、何も言わず、まるで人形か道具のよう。

 私が、こうしたんだ。

「……レイム、色々あったみたいね」

「まあね。手駒が手に入ってよかったわ」

 レイムは薄く微笑んだ。それは誰の事だろう。私のこと? それとも、東野?

 どうしてそんなことを思えるのだろう。どうして、私を責めないのだろう。優しいからだろうか。ひたすらに勝利を求めているからだろうか。

 わからない。レイムが何を考えているのか、まるでわからない。

「……澪、こっちが星熊勇儀。あなたの護衛よ」

 そうさとりに紹介されると、ゆうぎは私の方にずい、と近づいてきた。ものすごく大きい人だった。百八十センチはあるだろうか。

 その人が、しゃがんで私と視線を合わせた。

「勇儀はお前を守ってやる。だから、お前は果たすべきことを果たせ」

「果たすべき、こと」

 私の果たすべきこと。

 それは、なんだろう。私には何が果たせるのだろう。

「解放団、潰すんだろ? 勇儀は手伝うぞ」

 潰す。そう、彼らにもう二度と悪いことなんてさせない。美沙お姉ちゃんを危険にさらさないために。ケイネの生徒のような子供を二度と出さないために。幻想郷のみんなに恩返しをするために。

 私は、戦うのだ。この体が千切れても、吹き飛んでも、何が私に起ころうとも。

「ありがとう、ゆうぎ。私、やるよ」

 しっかりと、私はゆうぎに宣言した。そうすると、彼女は微笑んで、私の肩をぽん、と叩いて立ち上がった。

「霊夢、その後ろのはどうする?」

 ゆうぎはレイムにそんなことを聞いた。

「ん? ああ、あとで連れて帰るわ。まあ、そんなことよりも、澪に今からの流れを説明しなきゃね」

 そう言って、レイムは幣を振るった。白い光が私たちの前に現れ、それはやがて地図になった。

「まだ説明してなかったの?」

「すぐ済むでしょ。だからここで確認の意味も込めてね」

 さとりの批難するような声を、レイムは軽い口調で流した。

「まず、ここが地霊殿前」

 ある地点を指してレイムが言った。地図の読み方なんてしらないから、全くわからない。でも、きっと誰か先導してくれる人がいるはず。

「今から鬼の街を通って、旧地獄へ行くわよ。旧地獄の最奥、無間地獄が奴らの居城よ。ここで奴らを討つわ」

 ゆうぎとおりんが嫌な顔をした。

「二人とも、どうしたの?」

「お前は知らない……のだろうな。無間地獄って言うのはな、何もないだだっ広い空間に永久に一人でいさせられる地獄だ。なんたってそんな場所に……」

 ゆうぎが暗い顔をして言った。

「そんなの、酷い」

 私は思わず、そう言っていた。

「そうだよ。だから、よっぽどの悪人じゃないとそこには落とされない。五百年に一度あるかないか、くらいだよ」

 私は疑問に思った。

「……無間地獄はいくつもあるの?」

「前に使われてたのと、今使われてるのとで二つしかないな」

「それじゃあ、いつか人で溢れかえるんじゃないの?」

 五百年に一度なら、二千年もあれば楽しくおしゃべりとかできそうなものだけど。

「……人が、一人きりで五百年も何もないところに閉じ込められて変にならないと思うか?」

 私はぞくりと背筋に冷たいものが走った。

「……だから、無間地獄には狂った極悪人の霊体が浮いてるんだよ。普通、そんなところ人間が入れるものじゃないし入って取り憑かれないわけもない」

 そんなところに、私が。大丈夫かな。

「……さらに詳しい手順を説明するわね。鬼の街道でかなりの攻撃が予想できるわ。けど、澪と勇儀は正面突っ切って、旧地獄まで行って」

 勇儀は頷いて、私の頭に手を乗せた。

「絶対に守ってやる。安心しろ」

 私は頷いた。

「旧地獄に着いたら、澪は勇儀について行って。勇儀は無間地獄の入口前まで向って」

「無間地獄はどうすんだ? 正直閻魔様くらいしか……」

 ゆうぎの懸念に、レイムは口角を上げて答えた。

「あんたの前にいるのはどこの誰? 博麗の巫女、博麗霊夢よ? 結界、空間断絶、封印術なら任せなさい」

 一瞬ゆうぎは驚いたような顔をして、それから大笑いした。

「はっはっはっ! それはそうか、愚問だったな」

「そうよ。澪も、あなたも、何も気にすることはないわ。存分に戦いなさい。

 後始末は基本的にお燐と萃香に任せるわ」

 スイカ?

「スイカって、どうして?」

 私は思わず聞いてしまった。みんなが小さく笑う。なんだか、急に恥ずかしくなった。

「はは、萃香ってのは人の名前よ。いっつも酒飲んでる飲んべえだけど、やるときゃやるわ」

 すいか、さん。私、失礼なことしちゃったかな。

「ま、大丈夫よ。心配しなくて。さとりたちはここでお燐や萃香が運んできた外来人を保護しといて。念のため、拘束を忘れないでね」

 さとりは頷いた。東野のそばまでくると、じっと彼のことを見る。それから、私の目を見た。

 ぞっとするような、咎めだてするような視線が向けられた。

 でもそれは一瞬で、すぐに普段と同じ優しい目に戻った。

「……澪、この人に『さとりについていけ』と命じて」

 やっぱり、さとりには全部見破られた。

「わかった。東野、さとりについていって、何か言われたら従って」

 私の言葉に、東野はうやうやしく礼をした。

 まるで、咲夜のようだった。

「了解いたしました、マスター」

 咲夜も、レミリアに洗脳されたのだろうか。そんな想像をした。

「じゃあ、こっちにきて」

 さとりはそう言って東野を屋敷の中へと連れて行った。

「さ、私たちも作戦をはじめましょう。澪、勇儀、よろしくね」

 私とゆうぎは頷いた。

「澪、ついてこい」

「うん」

 ゆうぎは走って、私もついて走る。

「頑張ってね」

 レイムの励ましの声を背中に聞いて。

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