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東方幻想入り  作者: コノハ
世界の脅威
27/112

異様な気配と私

 五日目の朝。私は身動きがとれない状態で目が覚めた。

 どういうことだろうか。

 何かあったのか。

 想像する。何があるだろう。レイムが私を縛る理由。

「……おはよう」

 私を見下ろすように、レイムが私を覗き込んでそう言った。彼女の顔はどこか申し訳無さそうだった。

「レイム、おはよう。どうして私縛られてるの?」

「覚えてないの?」

 頷いた。すると、レイムは難しい顔をした。

「……まあ、あなたが縛ってって言ったのよ」

「私が?」

 何故私がそんなことを? わからない、が……。

「私、壊れちゃったの?」

「そういうことではないのよ。でもねぇ」

 レイムはそういいながら、私の縄を解いていく。よほど緩かったのか、ちょっとレイムが手を動かすだけですぐに解けた。

「はい、お疲れ様。朝ごはんいるかしら」

「いらない」

 私は立ち上がった。レイムの言う通りなら一晩中縛られ続けていたはずなのに、僅かな痛みも感じなかった。どんどん、人から離れていく自分が嫌だった。もう一昨日に鬼を食べてから何も口にしていないというのに、まるでお腹が空かない。食べなくても生きていけることを喜ぶべきなのだろうか。

「何か食べなさいよ」

「何の味も感じない物を食べたくない」

 美味しくないものを感じないのはいいのだが、美味しい物を美味しいと感じない、というのはショックだ。 結局、今の私は泥水を飲むのとジュースを飲むのと、味覚の点では全く変わらないのだ。その事実がなぜか、食べることへの虚無感に繋がっていた。

「……ま、無理にとは言わないけど。私は朝食摂るけど、その間あなた何する?」

 何をしよう。外に出れば解放団に攫われて、またあの苦痛を味わなければならない。今日一日、ここにいなければならないのだ。家主の許可なしにうろつくわけにもいかないし……。

「……レイムと一緒にいる」

 私はレイムの手を掴んで、そう言った。

「そ、そう。でも私と一緒にいてもつまんないわよ?」

「色々聞きたいことがある」

 せっかくなのだから、色々と質問してみよう。全部答えてくれるなんて、思わないけど。

「そう。じゃ、今から私朝食の準備するわね」

「手伝う」

「でも……いえ、ありがとう」

 レイムはそう言って、台所に向かった。小さな、一人暮らし用の台所で、入口のふすまにはちゃぶ台が立てかけてあった。

「ちゃぶ台、持って行ってくれる? それだけしてくれたら十分よ」

「そう」

 私は紙みたいに軽いちゃぶ台を片手で持ち上げると、昨日レイムが夕食を食べた、外が見える部屋まで持って運んだ。ここは縁側から外に続いていて、昨日会議をしたところでもある。

 部屋の中央にちゃぶ台を置くと、私は座った。

 しばらく目を閉じて匂いを嗅ぐ。大豆の匂いがしていた。お味噌汁、だろうか。なんだか、すごく懐かしい気がする。ここに来る前までは毎日作ってたのに。

 もし、お父さんが私と一緒に暮らしてくれるようになったとき、毎日美味しいお味噌汁を作ってあげれるよう、頑張って練習していたのだ。

 まぁ、結局、全て徒労だったわけだが。

 ……お父さん。

「どうしたの、俯いて」

「お父さんのこと考えてた」

 レイムがお盆に一人分の朝食を持って部屋に入ってきた。

「ふうん」

 レイムはちゃぶ台に朝食を置くと、箸をとって食べ始めた。お味噌汁に、サンマの塩焼きに、ごはん。さすが神社、質素な生活を心がけているんだ。

「あなたのお父さん、いい話聞かないわね」

「……知ってるの?」

「アリスとエイキから聞いたわ」

 あの二人、意外とおしゃべりなのかな。いや、レイムはきっと偉い人なんだ。昨日の会議仕切ってたし、なんだか雰囲気が威風堂々としている。

「ねえ、レイムって偉い人なの?」

 私がそう聞くと、レイムは不思議そうな顔をした。

「気になるの?」

「うん。昨日、エイキとカグヤ、それにレミリアも参加してた会議を取り仕切ってたし」

 私がそう言うと、レイムは溜息をついた。

「偉くはないわ。ただ、幻想郷の外と内を分け隔てる、結界を制御してるってだけよ」

 そしてその結界は、この世界にとって重要なものなのだろう。レイムが上の人ならば、の話だが。

「レイム、すごい」

「博麗ならばできて当然よ」

 その言い方が、妙に引っかかった。まるで、そう、結界を守ることは義務であるかこような言い方だった。

「澪、あなたはお父さんに会いたい?」

 頷いた。

「自分からは、会いに行けないけど」

 私はもう死にたくても死ねない体になったのだ。だから、地獄にいくことはできない。

「だけど、今度は、私がお父さんを呼ぶの」

 しっかり、宣言した。いつか、いくら年月がかかったとしても、お父さんを呼び戻す。

「すごい決意ね。大変よ?」

「知ってる。でも、だからこそ」

 私は静かに言った。

「……ふうん。わかったわ。変なこと聞いてごめんなさい」

 レイムはごはんを食べ終わると、手を合わせた。そのあと、私のすぐそばまで来て、私の隣に座った。

「聞きたいことあるって言ってたけど、なあに?」

 優しく、聞いてくれる。

「……レイム、幻想郷って、何?」

 私の質問に、レイムは苦笑しながら悩んだ。

「そうね。違う世界、とも言えるし同じ世界だと言うこともあるわ」

 私は首をかしげた。どういうことだろうか。

「気になる? よね」

 私は頷いた。この世界のこと、もっともっと知りたい。知ればきっと、きっと何かわかるから。

「そうね。ここは、山の中なのよ。紫が張ってる結界と、博麗が貼ってる大結界の二つが、あるのね。それが、幻想郷とそうでないところを分けてるの」

「へぇ」

 つまり、厳密に言えばこの世界と元の世界とはつながっているのか。そして、山の中だから、マリサやアリスに幻想郷の全体を見せてもらったとき、海が見えなかったのか。

「でも、普通は入ることができないし、一度入ったら出ることができないの」

 そうなんだ。

「でも、例外があって……。それが、何の力も持ってなくて、迷い込んだ外来人」

 力を持っている外来人は、変わらず帰れないのだろうな。

「ふうん。解放団の人達は、その例外の幅を広げろ、って言ってるの?」

 私が言うと、レイムは頷いた。

「だいたいそんな感じ」

「でも、ホントかな」

 レイムは少しキツイ目をした。

「私の言うこと、信じられない?」

「違うの。御陵臣が私を虐めてる最中、物凄く楽しそうだったから、もしかしたら……」

 私の言葉を、レイムが引き継いだ。

「もしかしたら全部嘘で、他人で遊ぶための方便にしか過ぎないかも、って?」

「うん。他人を屈服させて、支配したいのかもしれない」

 ううむ、とレイムは唸った。

「ありえる。けど、でもそれじゃあ……」

 被害に遭った人が可哀想すぎる。そうレイムは言った。

「……なんとかして止める?」

「居場所もわかんないのにどうやって追うのよ」

 本当に知らないのかな。

「私のこと、助けられたでしょ?」

「まぁ、レミリアにあなたの匂いを追ってもらえたから。結局それも遅かったけどね」

 そう言って、レイムはため息をついた。

「にしても、結界の開閉はこっちにしかできないのは……確定で。足掻いても仕方ないのはわかってる……のにも、関わらず。

 幻想郷の人間よりも、外来人の方が被害が多いのは……もしかして、……ってことはあるかもしれない」

 私はじっと、レイムが考え終るを待った。待てども待てどもレイムは答えすっきりとした答えを出せなようだった。

「……もしかして、ね」

 そういって、レイムは立ち上がった。

「何が?」

「やつら、目的は別にあるのかも」

「そうだったら、どうするの?」

「とりあえず、事情を詳しく調べましょ。取り敢えず人里へ行きましょう。急いでるから飛んで行くわよ」

 そう言って、レイムは縁側から外に飛び上がった。私がほうけていると、レイムが不思議そうに私を見た。

「何やってるの?」

「私、飛べないの」

 そんなこと言わなくてもわかってくれるものだと思っていた。

「あなた吸血鬼でしょ? ほら、自分に翼があるとイメージしてみて」

 言われた通りイメージして見る。あんまり吸血鬼の力は使いたくないけど、このままだと置いていかれそうだったから、自分で飛ぶことにする。

 私の背中の皮を突き破って、新しい器官が生えるのを想像する。一つ羽ばたけば飛び上がり、もう一つ羽ばたけば前に進む、そんな簡単な翼を思い描く。

 出てくれない。それなら、もっとリアルに想像する。

 私の肩甲骨に流れている血液が、血管を突き破って肉と骨の間を流れる。その血が集まって、小さな塊を作る。

 ちょっと詳しく想像すると、その通りになった。

 その塊は成長し、私の背中を突き破る。背中から噴水のように血が出てくる。

「うわっ」

 レイムが小さく声を上げ、目を背けた。気に留めず、創造を続ける。その血液はやがて大きな翼の骨格になる。染み出るように骨格に膜ができ、やがて神経が繋がり、私の背中には大きな、血に濡れた翼が生えていた。軽く羽ばたいて、血を払う動作をする。実際は、血を吸収しているのだけど。

 周りを見る。大丈夫、汚してない。私は私の力を、完璧に制御できている。

「……できた」

 一度羽ばたいて、飛び上がる。自分で飛ぶ空は、存外素晴らしいものだった。日光を受け止めている翼には、焼け付くような嫌な感覚がするが、問題なく動かせる。バサリ、バサリと何度も翼を動かして滞空する。

「もう少しその、視覚的に優しめにお願いね、次から」

「わかった」

 私は青い顔をしているレイムにそう答えた。

「じゃ、行きましょうか」

 レイムはそう言って、まるで滑るように浮いて進む。私は初めての空中を手探りで、ただレイムについていくことだけを考えて進む。必死にバタバタと動かして明後日のほうに進んでしまったり、ゆっくりすぎて置いていかれそうになったり。必死の思いでついて行ったせいで、私が人里に降り立ったときには、すっかり疲れきっていた。

「はい、人里に到着!」

「ここが、人里」

 嬉しそうに両手を広げて私に紹介してくれたレイムに、私はそう答えた。

 表情は変わらないけど、私が発した声は酷く疲弊の色が出ていた。ほとんど無意識的に翼をしまうと、ゆっくりとした足取りでレイムの所まで歩く。

「……人があまりいない」

「そうね」

 私が見回して、ざっと観察してみた限り、ここは商店が多く立ち並ぶ、本来なら活気付いている場所なのだ。まだ朝も早いし、朝食の材料を買いに来た人がいてもおかしくないのに、誰もいない。看板が屋根の上にあるのに誰もいない店もあった。

 私は近くにあった商店の中に入る。

「ちょっと、澪?」

 レイムが不思議そうにして言った。私は目で大丈夫、と伝えると、奥に進んでいく。ここはどうやら金物屋みたいだ。食器からナイフ、包丁まで幅広く取り扱っている。

「ん、いらっしゃい。おじょうちゃん、何を探してるのかな?」

 店の中をうろうろとしていると、店の奥から職人気質のおじさんが出てきた。角刈りの頭にねじり鉢巻きという、いかにも、という風体がわかりやすい。

「色々と。ここ、人里?」

「ん? ……ああ、そうだけど。それがどうしたんだい?」

 私はガラスのケースに入れられた、日本刀に目を留めた。

「……人が少ないな、と思って」

 それから、外にいるレイムを見る。レイムは不思議そうにしていたけど、私の言葉を聞くと妙に納得した風な顔をした。

「あぁ、おじょうちゃん、知らないのか?」

「何を?」

 私は日本刀をさらによく観察する。金物屋って、こんなものも取り扱っているのか。知らなかった。

「最近人攫いが多くてな。用がない人は外に出ないようにしてるのさ」

「……誰がやったか、とかわかる?」

 さぁな、とおじさんは肩をすくませた。

「興味あるのかい、おじょうちゃん」

「まあ……私は、弱いから。攫われたくなくて」

「違うって。それだよ、それ」

 私が見ていた日本刀を指さしておじさんが言った。私は日本刀を見つめたまま、口を開いた。

「これ、良く切れる?」

「まぁな。でも、売れないぜ」

「……どうして」

 そう私が言うと、おじさんは私の後ろに回った。少しだけ警戒する。

「これは、武器だからな。おじょうちゃんが握るもんじゃねぇ」

「自分の身は、自分で守らないと」

 私がそう言うと、おじさんは笑った。

「ははは、いい心がけだな。だが、ま、今は大人に守ってもらえ」

 私は後ろを振り向いた。彼は、ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべていた。

「……わかった。助言ありがとう」

「おう、気にすんな」

 私はお礼を言うと、レイムの所までいく。おじさんがついてきた。

「おじょうちゃん、ちゃんと家に帰れるか? ……って、レイムちゃん。最近見てないけど、元気にしてるかい?」

 おじさんの口調は軽かったけど、物凄く親しみのある言い方だった。

「ええ。まぁ、おかげさまで。冷やかして悪かったわね」

「ああ、いやいや。俺も久しぶりに人と話せてよかったから、別にいいよ。それに、このおじょうちゃんが欲しがったものがものだからな」

 私、欲しがってなんてないけど。……でも、一番気になったのは事実。

「ふうん。……最近、出てないの? 源さん散歩が好きって言ってたじゃない」

 ゲンっていうんだ、このおじさん。

「まあな。でも、人攫いが多いのに出るわけにもなぁ。うちも娘がいるし、守ってやらねぇと」

 そう言って、ゲンさんは腕組みをした。その腕は筋肉で膨れ上がっていて、すごく強そう。

「ちゃんと守ってあげてね。やっぱり、攫われている人って多いの?」

 レイムの質問に、ゲンさんは頷いて、難しそうな顔をした。

「三件隣の佐藤んとこと、隣の八百屋の居候が二人、いなくなっちまった。それから寺子屋に通ってたガキ共も何人か」

 私はゲンさんが指さした方向をひとつひとつ見ていく。三件隣の家は見えなかったけど、隣の八百屋さんは、店を完全に締め切っている。ショック、だったのだろうか。

「かなり多いね」

「ああ。迷いこんだガキを引き取って、我が子のように可愛がってた連中、かなりショック受けてるな。……なあ、レイムちゃん。なんか知ってるか?」

 レイムは首を振った。

「ごめんなさい、今調べてる最中なの」

「そうか……。協力できることがあったら言ってくれ」

 ありがとう、とレイムは返した。

「源さん、色々とありがとう。また今度、フォークでも買いにくるわ」

「おう。ありがとよ」

 レイムは飛び上がって、遥か空中に行ってしまった。……私、この人の前で飛ばなければならないのだろうか。

「おじょうちゃん、レイムに連れて行ってもらわなくていいのか?」

「……自分で飛べる」

 翼が生える感覚は、覚えている。さっきほど詳しくイメージしなくとも、翼は生えた。けど、どうしても天使のようなキレイな羽は思い描くことができなくて、まるで悪魔のような翼が私の背中にある。

「……おじょうちゃん」

「ありがとう、色々と。それじゃ」

 驚くおじさんにお礼を言うと、私も飛び上がり、レイムの隣に滞空する。

「中々上手く飛べるようになったじゃない。あなた、飲み込み早いのね」

「……うん」

 呆然と私を見つめるゲンさんを、私は見ている。彼は一体、今何を考えているのだろう。

「どこへ行くの?」

「寺子屋」

 てらこや? それはなんだろう。

 移動を始めたレイムに私はついていく。さっきよりは安定して飛べるようになったが、それでも疲れが酷いのは変わらなかった。

 人里から少しだけ離れた場所に、その小さな学校のような建物があった。玄関から何から木造だけど、私が通っていたような小学校によく似ていた。

「……てらこやって、学校?」

「え? ……ああ、そういえば、説明してなかったわね。そうよ。外の世界で言う学校が、慧音がやってる寺子屋よ」

 ああ、思い出した。寺子屋か。

 すたりと軽やかに校庭に降り立ったレイムに私は続いた。速度の調整が上手くいかなくて、足が地面に激突し、激痛が走る。しばらく立ち上がれないくらいの痛みが続く。けど、ある一瞬を境に痛みが嘘のように消えていく。

「……大丈夫?」

「大丈夫」

 私は翼をしまって、立ち上がった。玄関を開けて寺子屋に入ったレイムに続いて、私も入る。

 ひと昔前の旧校舎、というのが私の、この寺子屋に対する印象だった。全体的に古めかしい。

「慧音、いる?」

 レイムがそう言うと、すぐそばにあった扉がカラリと開き、青い髪をした女性、ケイネが頭を出した。小箱のような帽子が愛らしい。

「レイムか。入ってくれ」

「いいの? 授業中じゃあ……」

「……」

 ケイネは首を振って、私たちを教室の中へ促した。

 レイムと私はゆっくりと教室に入る。

「……は?」

「嘘」

 私とレイムは、絶句した。広い和室の中にたくさん並んでいる机に座っているのは、かつて私を攻撃してきた氷精、チルノだけだった。

「……おお〜。ミオだ。久しぶり。この前はごめんね」

「いや、別にいいけど」

 私はチルノの前に立つ。心底申し訳なさそうな顔をしていた彼女は、私がそう言うと安心したように明るくなった。

「そうか! なあ、ミオ、今度は普通に遊ぼう! 鬼ごっこしよう、鬼ごっこ!」

「いや、私は遊びにきたわけではないから……」

 私は喜ぶチルノにそう言った。残念そうにする顔が胸に残る。

「……そ、そうか」

「他の子は? いないの?」

 わかり切っている質問を、私はした。

「うん。みんな、どこかへ行っちゃった。連れ去られて、それから……」

「そう」

 何人が、連れ去られたのだろう。どう考えても、おかしい。なんで何の力もない子供をこんなに攫う?

「酷いわね、慧音」

「ああ。もう寺子屋も閉めようかと思ってる」

 後ろで、そんな話し声が聞こえた。私もチルノも、二人の会話を聞いていた。チルノも、気になるのだろうか。

「やっぱり、多い?」

「異様なほどな。外来人でない子供もいなくなっているのだ。レイム、どういうことだ? 奴らは外来人を引き込んでいるのではないのか? ……わからないなら、対処を急いで欲しい。私も、手伝えることなら、なんでもするから」

 レイムはケイネの言葉を聞いて、困ったような顔をした。

「ありがとう。私も、死力を尽くすわ」

 そうか、とケイネは言った。それから、私たちの方を向いた。

「……澪ちゃん、だったな」

「うん」

「絶対に、一人になっちゃダメだぞ」

 それは、切実な願いだった。もう一人も犠牲者を出したくない。そんな、強い思いを感じた。

「約束する」

 私は頷いた。そして同時に、確信する。御陵臣は悪い人間で、滅ぶべき悪なのだと。

「チルノ、お前もできるだけ誰かといるようにな」

「慧音と一緒にいる!」

 チルノの何気ない言葉に、ケイネは思わず、といった風に涙ぐんだ。嬉しいのだろうな。そして、悲しいのだろう。もうこの子しか生徒がいない、現状が。

「……詳しい情報は、後で書にまとめて持っていく。だから、それまでは」

「わかったわ。慧音、協力ありがとう」

 そう言って、レイムは教室から出て行った。

「私も行くね。また遊ぼうね、チルノ」

「うん!」

 私はチルノとも約束して、レイムに続いて部屋を出た。

 寺子屋の外に出た私たちは、お互いに顔を見合わせた。

「次は、どこ?」

「……そうね。一旦アリスの家にあなたを送りましょうか」

「足手まとい?」

 レイムは頷いた。

「だから、アリスに守ってもらいなさい」

「……。わかった」

 私は弱い。レイムと一緒に戦うなんて、できるわけがないのだ。無理をして、捕まったりなんてしたら意味がない。

「ごめんね。色々と連れ回して」

「大丈夫」

 私はそう言うと翼を生やし、飛び上がった。レイムも続いて飛んでくる。

「だいぶ空にも慣れたかしら」

「うん」

 私が答えると、レイムは頷いてから移動し始める。かなりの速度が出ているので、私も必死で追いつこうと翼をはためかす。距離は大体五メートルぐらい。時々レイムがこちらを向いて、安全を確認しつつ、進んでいく。きらりと、魔法の森の地面が少し光ったような気がした。

 景色がどんどんと変わっていき、あともう少しで魔法の森だ、と思った次の瞬間、拳くらいの大きさの何かが視認も難しいくらいの速度で飛んできて……。

「あっ」

 私は、撃ち落とされた。

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