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序章

初投稿? にしときましょう。

暇つぶしにでもどうぞ。

「序章」


 コツ……コツ……

 無機質な鋼に覆われたトンネル状の部屋に靴裏が床を打つ音が反響する。人の姿が無く、閑散としたその場において、その靴音に対して意識を向ける者はいない。否、その音を聞き届け、尚且つ未だその主に視線を向けていない者はいる。


 まるで演劇を行う舞台のように広がったその場所に佇む一人の青年。彼は、足音の主に対して背を向けており、その表情を窺い知ることは出来ない。いや、出来たとしても、その表情から、彼が一体何を考えているのか、分かる者はいまい。


 何故なら、彼にとっての側近と呼ばれた者は皆、靴音の主によって帰らぬ者となっていたからだ。


 足音の主の手には片刃の武器が握られている。日本の武器である刀である。その刀身に曇りは無く、汚れ一つ付いておらず銀色の光を放っている。だが、逆に汚れていない、という事がその足音の持ち主の実力を静かに物語っている。


 コツ……コツ……カン!!

 

 やがて、これまで部屋の中に響いていた音が止まる。


 足音の主は、舞台のようにせり上がった壇上に佇む青年へと視線を向け、そして手にしている刀の切っ先を付きつける。


「待ちわびたよ……、剣帝」


 壇上に立ちながら、彼自身が剣帝と呼んだ足音の主へと振り向いた。美丈夫と呼ぶべきであろうその容姿を前に、剣帝は何一つとして語らない。刀を切っ先はぶれず、ただ一点、青年のその美しすぎると言うべき顔に向けられている。


 その切っ先を向ける本人の目は、その視線だけで人を殺める事が出来そうなほど細く鋭い。整えられている、とは言い難い容姿ではあるが、今の彼の顔ならば道行く者を十人中十人振り向かせる事が出来るだろ

う。信念と決意の元にある表情は、美しく、また凛々しくもあった。


「……何も語らず、かい? 剣帝」


 剣帝。この呼び名を誉れと取るか、それとも侮蔑と取るかは人それぞれだ。恐らく、壇上の青年はその両方の意味で言ったのだろう。実際、そう言われるだけの事を行っているのだ。仕方が無いだろう。


「まぁいいさ……。どちらにしろ、キミも、私も、既に未来は決定している。本来ならば、ここでこうして対峙することすら無意味なんだ。……それでも君は、私の前に来た。そして、私はこうして君を待っていた。やはり、私もまだヒトであったと言うべきか」


 まるで歌うように語る青年に対し、剣帝が口を開くことは無い。ただ、刀を彼に向け続けることしかしない。


「かつて私たちが夢見た世界はどこにもない。この世界は管理され、隷属を強い、自由を奪われた無明の世界。私は世界に絶望し、そして君は未だに変わらない世界を変えようとして足掻いている。……皮肉だとは思わないかい? こうして見ると、私は悪の親玉で、君はそれを倒しに来た勇者だ。……だが、実際の立場は真逆だ」


 そう、こうして向かい合う二人の青年の立場はまるで逆だ。


 壇上に立つ青年は、現在世界を統治し、平和を維持している大国の幹部。そして、剣帝においては、自己満足の為にその平和を叩き潰そうとするテロリストと言える存在である。


 そう、この二人は挑む者と挑まれる者同士ではあるが、それに反して立場は丸っきり違う。


 片や、世界に宣戦布告を行い、平和を破壊しようとする者。


 片や、変わることのない世界という、現状の平和を維持しようとする者。


 両者ともその信念は固く、相反し合う。故に、これまであらゆる場所で双方の力がぶつかり合い、その結果彼らにとって大切な者達も散って行った。


 各地で行われた戦闘の爪跡は後々にまで残るであろう凄惨なものであり、その度に増えていった犠牲も今では億を超える。


 ―始めは誰もがここまで被害が拡大するとは思っていなかった―


 その数は二桁にも満たない、それこそ集団と呼ぶのもおこがましい少数のテロリスト。彼らは今の平和を歪だと表現し、その平和を維持する世界の政権へと宣戦布告を行った。


 その行為に笑う者、憤る者、呆れる者、馬鹿にする者……。民衆は彼らに対して各々の感情を持ったが、その中に彼らが正しいと思っているものは皆無だった。何より、そんな人数で何が出来るのか、と国を挙げて嘲笑した者までいた。


 が、民衆の嘲笑はすぐに凍結する事となる。


 当時、最大規模を誇っていた国の沿岸沿いの要塞がテロリストによって陥落。その国の国家元首が斬殺された。世界連合の長でもあった大国の国家元首が落ちたことで世界連合自体の統治が瓦解。事実上の世界恐慌に陥る。各国家のトップは、それぞれこのテロリストを駆逐すべく討伐軍を結成。即座に彼らに対してその大きな戦力を突きつけた。


 彼らの選択、判断は間違ってはいなかった。


 唯一誤算があったとすれば、敵の実力を見誤ったということだろう。


 一人。たった一人によって、世界連合の討伐軍、その主力が展開する陣を喰い破られる。


 戦車を配置し、爆撃機、陽電子砲、超範囲をカバーする広域索敵機など、完璧と思われた布陣を、たった一人によって崩された。


 その人物は、どんな最新鋭の武器を使ったのか? 自律型の多脚戦車? 超弾速、速射式の電磁砲? はたまた、陽電子を利用して考案された小型のキャノンかもしれない……。様々な憶測の元、彼の人物が利用した武器の正体は多岐に渡った。


 だが、ここで予想外の情報が入る。

 このテロリストが使用した武器はただ一つ。一本の刀だという。


 現代戦闘において、剣や槍といった武器は基本的に大した影響力を持たない。主に銃や地雷、爆発物が活躍する戦場において、そういった時代錯誤な武器は一方的に嬲られるだけのただの飾りに過ぎない。


 しかし、彼の者は違った。


 展開していた戦車の砲弾を斬り裂き、その車体すらをも刀で捌いた。空から襲い来る爆撃は尋常ではない膂力でかわし切り、敵陣に入り込む事で同士討ちを避けるという行動を利用して難を逃れる。陽電子砲に至っては、その強大な威力を発揮する事すら敵わず、銀閃によってガラクタ同然と化した。そうなっては、感知機などは一切役に立たない。自陣奥深くに入り込んだテロリストは、軍を指揮していた将軍を討ち、討伐軍を圧倒的な武力で叩きつぶした。


 そして、その光景を見て、誰かが彼の事をこう呼んだ。


 ―剣帝、と。


 それは、圧倒的な武力とそして……、彼がそこに至るまでに奪った命、その数に対して咎める為の名であった。


 剣帝は世間から悪しきように言われても、その手を止める事はなかった。十二の大国がそれぞれ最高と思われる戦力を投入し、この世界の平和を脅かす悪のテロリストを排除しようと尽力するも、それらは全て徒労に終わる。


 だが、とある出来事により、事態は急変する。


 テロリストの内の一人が、彼らを裏切り、世界連合側に付いたのだ。これにより、これまで振り回され続けていた連合側は、相手の戦力を把握する事に成功。その圧倒的な戦力を持って、彼らの殲滅作戦を決行。テロリストの約半数以上を討伐する事に成功した。ある者は捕らわれ、ある者は戦場にて散り、ある者は連合側に寝返り……。こうして世界を恐慌に陥れたテロリスト集団は駆逐されていった……、かにみえた。


 世界連合はテロリスト集団を次々と始末していくことに溺れ、完全に忘却していた。剣帝の存在を。


 捕縛された、そして寝返った者は悉く彼に斬殺された。それこそ、どんな強固な要塞に匿おうとも、そんなものは知らない、と言うかのように。


 かくして、テロリストは剣帝を残してただ一人となり、そして剣帝が残した敵もただ一人となった。それは、一番最初に彼らを裏切った以前の仲間であり、親友だった青年。


 今、剣帝の目の前にいる彼の事だ。


 かつて、友と呼び、互いに競い合い、時には命を預け合った者同士。だが、今はこうして対峙している。

 お互いに譲れない物があった。信じるべき物があった。守りたい物があった。……何より、世界を変えたいという信念があった。


 しかし、一度違えてしまった意見は、彼らの絆に傷を付け、やがてお互いを別々の道へと導いた。


 誰が悪いわけでもない。


 ただ、自分にとっての正義を押し通そうとした結果、こうなってしまっただけの話。


 抜いた刀は既に相手の喉元に向いていた。とうに、引き返す事など不可能だ。


 自分を今まで信じ、ついてきてくれた同志たち。そして、志半ばで散った友。……何より、全てを自らへと捧げてくれた幼馴染の為にも、決して躊躇うことは出来ない。


 その目論見通り、剣帝の目的はほぼ八割達成されたと言っても過言ではない。各国の主要機関を叩きつぶし、まともに機能しない政府に対し民衆が暴動を起こす。その暴動はいつしか内紛に発展し、最終的には世界を巻き込む戦争にまで至る。それが、剣帝の思い描いたシナリオ。


 実質、小規模な小競り合いに発展している所も少なくはない。彼らはいずれ、自分達が国に生かされていた事を悟り、そして自分達を国が飼殺していた事に気付くだろう。自分達が今まで何をしていたのか、疑問を持ち始めるだろう。


 意思を持て。世界を疑え。自らを認識しろ。そして、信念を貫き通せ……。


 口には出さず、ただ態度でそれを示し、世界を変える。それが、剣帝の目的。彼が描いた真の世界の未来図である。


 現状の世界平和を崩す、自分勝手な暴論だと思われても仕方が無い話だが、平和を享受する人形と、意思を持ちながらも日々を戦い続ける人間とどちらでいるか、という話だ。剣帝にしてみれば、人である以上前者でいることなど死んで御免だ。だからこそ、彼は世界に、人々に対して現在の歪な平和からの自立を促した。


 どんなに無様でもいい。どんなに惨めでもいい。ただ、自分は確固たる一人に人間として生きているんだ、と世界に認識させろ。口ではなく、行動でそれを全世界に向けて伝達した。


 その行為はまさしく悪の権化と言えよう。だが、その想いは確かに英雄のそれであった。


 後の世には英雄として残るかもしれない……、そんな考えを持った者もいただろうか。だが、ここにいる剣帝にはそんな事はどうでもいい。ただ、世界を変える事のみが彼の中にはあった。


 どんな扱いをされようとも、この信念だけは曲げられない。


 それこそ、今までに散って行った仲間達を侮辱する行為だ。


 故にその足は止まらない。掲げた刀の切っ先は下がらない。ここに来たのは全ての終わりを刻むため。友を売り、仲間を騙し、幼馴染を裏切った男を殺す。それを成し、ようやく剣帝はこの世界の呪縛から解き放たれる。


 柄に左手を添え、目の高さの位置で水平に固定して構えを取る。剣帝が使う流派の中でも基本であり、最も攻撃に特化した構え。それを使う、ということはすなわち……。


「成程、決戦と言うわけか……。いいだろう、ならば私もそれに答えるまで」


 青年は懐から一丁の銃を取りだす。アメリカが現存している時に存在したコルト社の作成した世界的なハンドガン、コルトガバメント。今では骨董品扱いの代物だが、その性能は未だ現役でもおかしくはない。


 その銃口を剣帝へと向ける青年。刀と銃、既に勝負は決まっている……、一般的な人が見るとそう思われそうな光景だが、実際はその実力はほぼ拮抗している。戦車の砲弾すら切り裂く剣帝の技の前では、銃など玩具に等しい。


 刀を構える剣帝と、銃を構える青年。交差する視線は互いから一切目を離さない。


「さぁ、ここで終わりにしよう」


 細められた目で剣帝を睨みつける青年の指が引き金に掛る。そして……


タァンッ!


 銃声が、鳴り響いた。




―同調開始、シンクロ率12%。


―対象のトレースを実行、8%完了。


―転送座標地点を確認、オールグリーン。


―回収座標地点を確認、ハーフグリーン、ハーフオレンジ。


―虚数型軌道転送式、起動。対象の情報をID登録完了。


―シンクロ率68%。


―対象のトレース、75%完了。


―シンクロ率、対象のトレースを完了次第、対象を光分解、再構築を実行。


―回収座標地点、オールグリーン。


―軌道転送式、展開完了。


―対象のトレースが完了。


―同調完了、シンクロ率100%。


―対象を光分解開始、……完了、軌道転送式にインストール。


―インストール確認、虚数防壁を解放。


―了解、これより対象「剣帝」をアルフィリアに転送します。


「了解したよ、諸君。エストゥスを起動。彼を送ってあげて」


―了解、エストゥス起動。


―転送後、対象の光粒子を自動構築。


―構築後、虚数転送式の接続を切断。


―対象、虚数防壁域を突破、防壁を再展開。


―対象、アルフィリア転送完了まであと5、4、3……


「さて、君の戦いはまだ終わらないよ、剣帝クン」




「さぁ、君の新たな戦いをこの世界で見せてくれ!!」




―対象の転送完了を確認、これによりエストゥスをシャットダウンします。


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