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第508話 集結

 ―――トラージ港


 望んでいなかったプリティアちゃんの暑苦しい抱擁を受けた俺は、確固たる意志を貫き何とか自我を保った。大木の如く強靭な腕から解き放たれた後、ジェラールがそっと肩に手を置いてくれた優しさは、今も忘れられない。一方で嫉妬心に塗れた視線を送ってきたダハク、俺は全然こんなの望んでないから。むしろ代わってやりたいくらいだ。いや、頼むから代わってください。お願いします。


 そんなこんなでトラージ到着と同時に地獄を見せられた俺であったが、格好を付けた手前、こんなところで弱気になってはいられない。あからさまに爆笑したいのを我慢しているツバキ様と合流して、船を寄せているというトラージ港へと移動する。既に港には錚々たる面子が揃っていた。


「おう、ケルヴィン! 久しぶりだな!」

「獣王祭以来でしょうか? お元気そう…… ではないですね?」

「ああ、さっき色々あってさ……」


 ガウンからはサバトが率いる獣人パーティがやって来ていた。国に残る獣王の代理らしい。直接顔を合わせたのは、ゴマが言う通り獣王祭が最後だったか。あの後にも、獣王にかなり絞られたと風の噂で聞いている。


「な、何でサバト様に連れられて、俺なんかまで一緒なんスか…… 俺、絶対足手まといじゃないッスか……」

「ガハハッ、それだけサバト様に信頼されていると思っておけ、グイン!」

「ええー……」


 それでも根っ子の部分は全く変わっていないようで、以前と似たようなやり取りが行われていた。しかし、何かが物足りない。この期待をいまいち外している感じは、一体――― ああ、そうか!


「ゴマ、まだサバトを殴らないのか?」

「おい! 何とんでもねぇ事を言い出すんだ、ケルヴィン!?」


 いや、あれがないとサバト達に会った気がしないというか。


「フフフ、今の私の拳がサバトに当たったら、以前のようには済みませんから。今日のところは温存しておきたいと思います」

「だ、だとよっ。残念だったな」


 サバトがホッとしたように胸を撫で下ろしている。おいおい、ゴマってそんな生易しい事を言う玉じゃないだろうに。こう、後先考えずに取り敢えずサバトを殴るみたいな、そんな芸風だった筈だ。もしやこのゴマ、本物じゃない? 前みたいに獣王と入れ代わってる、なんて事も考慮しておいた方が良いかも。


「ん?」

「おっ」


 俺が深読みしていると、今度はトライセンから参戦するアズグラッドと目が合う。兄妹で打ち合わせをしていたのか、大人シュトラも一緒だ。


「よう、ケルヴィン。今日も元気そうじゃ…… ねぇな。一体どうした?」

「あ、ああ、さっき色々あってさ……」


 待て。俺って今、そんなに元気なさそうなのか? そんなに心配されるほどやばそうなのか? プリティアの抱擁、恐るべし…… エフィル、ちょっと鏡持って来て。


「遂にこの日がきたな。余りに楽しみだったからよ、昨夜なんて全然寝付けなかったぜ」

「アズグラッドお兄様ったら、相変わらずこういうところは子供なんですから。ケルヴィンおに…… さんも、何とか言ってやってください」

「シュトラさ、それって間接的に俺も責めてる?」

「えっと…… シュトラ、難しい事分かんないや」


 シュトラは一瞬で子供シュトラへと変身して、わざと知らないふりをし出した。しかも、ジェラールが一撃で撃沈するであろう笑顔まで振り撒いている。君君、誤魔化そうとするんじゃない。その状態でも恐ろしいほど頭脳明晰だと俺は知っているぞ。俺の呼び名を言い間違えるほど長く屋敷に住んでたシュトラなら、俺の行動原理がどんなものか重々承知だろうに。もしや、それを踏まえて直せを言っている?


「いいえ。男の子だったら、それくらいのわんぱくさは残しておくべきですよ。母として、心が擽られますから」

「……こちらは?」


 アズグラッドの肩を抱くようにして、偉い美人ですげぇ巨乳な女性が霧の如く突然現れた。現れた事に関しては気配があったからそこまで驚きはしないが、正直その胸の大きさに心底驚かされてる。これはセラ以上、もしやエストリアよりも大きいのか!? ……いや、しょうがないじゃん。俺だって男だもの。


「貴方とは初めまして、ですね。S級冒険者のケルヴィンさん。私の名はサラフィア。ロザリアとアズグラッドの母でございます。娘と息子が、いつもお世話になっておりまして」

「ああ、これはこれはご丁寧に。息子さんは兎も角として、娘さんの働きにはいつも助けられています」

「おい。兎も角って何だ、兎も角って」


 言葉通りの意味だって。ロザリアは使用人として雇っている訳だし、そりゃお世話になっているさ。一方のアズグラッドは、たまに我が家に来ては地下鍛錬場で遊んで行って、フーバー達とお茶して帰るだけ。国王となってからは比較的落ち着いたものの、先週にもこっそりと転移門を使って来ていたのだ。まったく、戦闘狂とは困ったものである。


 しかし、この人がアズグラッドの義母、氷竜王のサラフィアか。言われてみれば黒髪の色白で、所々ロザリアに似ている。ここ最近はシュトラも青魔法を使うようになってるし、もしシルヴィアに加護を与えていなかったら、シュトラに付与して欲しかった。ま、そこは未来の氷竜王に期待したい。


「私以外の他の竜王達も、ここに集結しつつあります。ふふっ、竜王が一堂に会するのは何十年振りでしょうね。初めて目にする子も多いですし、今日という日をとても楽しみにしていました」


 サラフィアは比較的最近に竜王となった我らが竜ズに、遠目に穏やかな眼差しを向ける。何というか、ダハク達からしても本当のお母さんみたいな印象だ。


「あー、こう見えてサラフィアは現竜王の中でも最高齢なんだ。若作りって大事だよな」

「アズちゃーん?」

「あ、やべっ! つう事でケルヴィン、また後でなっ!」

「待ちなさいアズちゃん! まだ母の話は終わっていませんよっ!」


 猛ダッシュで逃げるアズグラッドと、それを嘘みたいなスピードで追い掛けるサラフィア。何というか、性格はロザリアとはまた違う方向性のようだ。


「もしかしてさ、アズグラッドの奴、氷竜王に騎乗して決戦に臨むつもりなのか?」

「うん。アズグラッドお兄様は嫌がっていたんだけど、ロザリアがトライセンの防衛に回っちゃって」

「……それってシュトラの手回し?」

「えっへへ~」


 シュトラは無垢な笑顔を浮かべている。うん、肯定と取ってよろしいのだな? まあ、パートナーであったロザリアと組ませるのも確かに強力なタッグだが、大陸随一の騎乗能力を持つアズグラッドならば、氷竜王であるサラフィアをも乗りこなせるだろう。アズグラッドにはそれだけの力があるし、そちらの方が戦力として大きい。


 しかしなぁ…… 少女の人格と大人の人格、その両方を併せ持ってからというもの、シュトラが一層強くなった気がする。いや、戦闘力はもちろんだけど、特に精神的な面で。冷静沈着だった大人シュトラに、大胆な発想と行動をしてしまう子供シュトラが合わさって、その両方の強みが発揮できるようになったというか…… 以前より増して、大変心強いのだ。


「それにしても凄いよね。これだけの人達が、今日ここに集まるだなんて。トライセンも、ガウンも、デラミスだってコレットちゃんが来るし、トラージはこんなにも凄い船を用意してくれたんだよ? 大戦後に和平を結んでから、4大国同士が手を取って大規模に協力するのは、今日が初めてなんじゃないかな?」

「ついでに言えば、全竜王と勇者に魔王、後は最強の変態達もか。本当に錚々たる面子だよ」

「そんな凄い人達のまとめ役が、ケルヴィンお兄ちゃんになるんだけどね! もう少しで出航式の代表者挨拶が始まるよ。皆の前で喋るやつ! お兄ちゃん、準備は大丈夫?」


 ……え、代表者挨拶? 何それ聞いてない。誰がするの?


「ま、待て、もしかしてその挨拶って……」

「もしかしなくても、お兄ちゃんがするよ。決戦前に皆の士気を高める大事な役目だから、しっかりね!」

「……シュトラ、ぶっちゃけ俺は何も考えてないぞ。それに俺は柄じゃないから、代わりにツバキ様あたりを―――」

「お兄ちゃんが、するよっ!(ニコッ)」


 一瞬頭が真っ白になったけれど、配下ネットワークを通じてシュトラがカンペを準備しておいてくれました。

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