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第487話 問い

 ―――狂飆きょうひょうの谷


 ……ここで考えても始まらないか。風竜王のいる最奥までは、まだ距離がある。考え事をして警戒を怠るのは愚かでしかないだろう。さ、集中集中!


『ねえ、このうちの1つってギルド長の…… 解析者の気配じゃないかな?』

『え?』


 と、俺が気持ちを入れ替えようとしている最中、頼りになるアンジェさんがそんな事を言い出した。やはり、その道のプロはひと味違う。しかし、よりにもよってリオルドか。言われてみれば、この狸な気配は! って感じなんだが、リオルドか…… 幸先悪いなぁ。


 この世界に転生して、初めて俺が出し抜かれたのがギルド長時代のリオルドだったせいもあって、未だに苦手意識を持ってるんだよな、俺。戦い辛いんじゃなくて、人間的に弱みを握られているというか…… もちろん、この感覚は俺個人のものでしかない。リオルドが使徒であると判明した今となっては、実際にビビる必要は全くない。 ……が、苦手なもんは苦手なんだ。あの狸に何度煮え湯を飲まされた事か!


『確かに、こいつはリオルドだな。って事は、もう片方のでかい気配も使徒のもんか?』

『ちょっと待ってね、うーん…… どうだろう? 私は会った事がない人かも。少なくとも、トリスタンではないと思うけど』


 アンジェが使徒時代に会っていない奴となれば、第2柱のサキエルか? リオルドと一緒に、何でこんな所に? 奴らも風竜王に用があったのか、もしくは俺達に対する待ち伏せか――― って、だから考えてもキリがないって。


『最悪を想定すれば、風竜王は既に使徒達と手を組んでいて、あの飛空艇を更に強化しようとしている、とかかな。仮にリオルド、サキエル、風竜王が一斉に敵となれば、流石に厳しい』

『特に帝王サキエルは、黒いメルフィーナ様とステータスを共有していると伺っています。それが真実だとして、奈落の地アビスランドでご主人様が刃を交えた際のメルフィーナ様の力を基に推察すると、その……』


 エフィルが言い淀む。ああ、無理に言葉にする必要はない。俺だって分かってるんだ。仮にそうだとすれば、勝機はまずないって事がさ。ましてや、リオルドと風竜王が戦いに参戦すれば状況は絶望的だ。おっと危ない、よだれが垂れるところだった。


『でも、まだ気配の片割れがサキエルだって決まった訳じゃない。今までずっと姿を隠していた奴が、こんなところに現れるってのもおかしな話だ。風竜王の加護は必要不可欠、もしもに備えて逃走用の携帯用転移門は準備しておくとして、今は兎に角進もう。話はそれからだ』

『承知しました。アンジェさん、進みましょう』

『あらら、2人ともやる気になっちゃった。ま、クロメルの能力があったとしても、行き成り選定者がそんなオーバースペックを使いこなせるとも思えないしね。ある意味、不慣れな今がチャンスなのかな? よーし、お姉さんも気合い入れるよ!』


 ギュンと、谷をど真ん中から全力で疾駆する。アンジェのスキルが発動しているこの間に、一気に風竜王の間まで詰める。アンジェの力が及ぶこの状態であれば、どんな不意打ちも意味をなさず、全てが空振りに終わる筈だ。


『見えてきました! 視界に入った情報全てをリンクします!』


 配下ネットワークを介して、エフィルの見ている視界情報が俺とアンジェにも共有される。暴風を巻き起こしていた谷の中とは打って変わって、谷の行き止まりとなる風竜王の間は静寂に満ちていた。無風、無音。まあ実際の音までは分からないのだが、イメージとしてはそれが相応しい。


 風竜王の間は場所によって段差があり、平面という概念を捨て去るように起伏が激しくなっている。そしてその中で最も起伏が激しい高所の頂点に、風竜王がいた。虫の羽、いや、この場合は妖精の羽と喩えるべきか。後ろまで見通せる透明で細長い羽が何枚も背中にあり、緑の体自体は他の竜王達よりも大分小さく、精々がロザリア程度のもの。うちのボガやムドに比べれば、非常に可愛らしいサイズだ。


 俺達が自分の住処に侵入している事は、もう察知されているだろう。それでも風竜王はその場で寝そべったまま、一歩も動こうとしなかった。もしくは動けないのか、微妙に判断に困る。しかしその瞳は、俺達に何かを訴えかけているようにも見えた。


『問答無用で攻撃に一票!』

『ご主人様と同意見です!』

『見るからに罠だもんねぇ。私もそれに一票!』


 全会一致。それほどまでに、広間の竜王前にて待ち構えるあいつが怪しかったんだ。今となっては姿をこの目で見るのも懐かしい、元ギルド長リオルドの姿がそこにはあった。相変わらず、何を考えているのか分からない面構えだ。気配だけはあるもう1人の姿はない。地面から飛び出した壁の背後にでも隠れているんだろう。こちらも厄介な存在だ。


「久し振りだね、ケルヴィン君。それにアンジェ君にエフィ、っと……!」


 リオルドが何やら語り出したが、俺達が成すべき事は変わらない。先制攻撃、エフィルによる蒼炎の制圧射撃だ。リオルドはこれまで隠してきたその身体能力で矢を躱し、老体とは思えない軽快さで高所へと繋がる壁に跳び、張り付いた。エフィルの攻撃の余波で空間の低い場所、その大部分が炎で覆われる。次いでアンジェの正確無比なクナイの投擲がリオルドを襲ったが、これも奴が持つ剣で難なく弾かれてしまった。


「やれやれ、再会の挨拶もなしかね? トリスタン君のような気分だよ。一応言っておくが、私に交戦の意思はないよ」


 リオルドは壁に張り付いたまま、器用にも両手を上げて戦わない事をアピールする。それでも攻撃は止めない。敵か味方か不明な風竜王に余波が届かない範囲で、前進しつつリオルド目掛けて武器魔法で攻撃を続ける。


『悉く躱されているな……』

『スピード自体は大した事ないんだけどね。能力を回避特化で揃えているんじゃないかな?』


 奴の『神眼』による複合魔眼。攻撃を予知したり動体視力を極限にまで高めたりと、何をするにしてもS級相当の芸をしてくれるんだったか。これはアンジェに攻撃を当てるくらい難儀になるな。


 ―――ズゥン!


「「「―――っ!」」」


 突然、俺達とリオルドを結ぶ直線上にジェラールのような全身鎧が現れた。というか、空から降って来た。金と黒で彩られた、見るからに異彩を放つ鎧だ。鎧は俺達が放った攻撃をその身1つで弾いてみせ、リオルドの盾代わりとなった。


 俺達の察知能力は危険度マックスとなる警報を一気に鳴らし、全力で警戒せよと呼び掛ける。ははっ、今日はやけに勘が冴えてるな。デラミスでコレットに資料を見せてもらったから分かる。あれはリゼア帝王の鎧、詰まりサキエル本人だ。


「解析者の言葉に続けて宣言する! 我らにこの場での交戦の意思はない! 我らに交戦の意思はないっ!」


 何を言うかと思えば、お前もか。って、おいおい、マジで戦意ないのか? 鎧は俺達の攻撃を受け止めるだけで、そこから一歩も動こうとしない。クロメルとステータスを共有しているといえども、立派な帝王の鎧には亀裂が走り始めている。


「……無抵抗は卑怯だろ。最高に詰まらない」


 結果、俺は攻撃を止める指示を出す事になってしまった。


「いやさ、私も同じ台詞を言っていたんだけど、何で今度は止まるのかな? ギルド長として働いていた時、私も大分ケルヴィン君を支援していたと思うよ?」


 それはどうか自分の胸に聞いてもらいたい。リオルドの言葉よりも、サキエルの行動が響いたって事じゃないかな。それに、サキエルには倒す前に聞いておきたい事があったんだ。


「サキエル・オーマだな? リゼアの王だった」

「……そうだ」


 土煙の中にいるサキエルの様子は変わらない。鎧の節々は破損してしまったが、中身を覗けるほどのものでもないから、その正体は未だ分からない。だから、今のうちに言っておく。


「お前さ、舞桜じゃないか? 佐伯舞桜、数百年前の勇者のさ」


 俺は当初から気になっていた疑問をサキエルに投げ掛けてみた。確信があった訳じゃない。ただ、何となく。


「……なぜ、そう思う?」

「殆ど俺の勘だけど、名前の並びが絶妙過ぎ、狙い過ぎだったからさ。サキエル・オーマって、少し並び変えれば佐伯舞桜さえきまおじゃないか。自分からネタ晴らししてるみたいで、逆に不審に思ったくらいだ。で、どうなんだ?」

「………」


 俺の問い掛けにサキエルは無言のまま兜に手を掛け、そしてそれを持ち上げてみせた。


「これはこれは…… 選定者、良いのかい?」

「ああ、問題ないよ」


 ふわりと、黒き髪が兜から解放される。出て来たのは俺とそう変わらない年齢であろう黒髪の男、そいつは俺と目を合わせて微笑み、こう言った。


「そっか。貴方はメルフィーナさんから、あの時の話を聞いたんですね? ―――ケルヴィンさん」

感想欄で知りましたが、もう500話まで到達していたんですね。

次はステータスやキャラ紹介を抜いた真500話を目指します。

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