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第486話 狂飆の谷

 ―――狂飆きょうひょうの谷


 風が渦巻く、竜巻が唸る、不用意に近づいた鳥が分断され、大空へ刎ね飛ばされる。リゼアの首都を後にした俺達はダッシュで目的地のこの谷へと向かい、数十分後に到着する事ができた。


「見るからに来る者を拒んでるなぁ」

「この谷、強烈な竜巻が日常的に起こった影響で形成されたものなんだって。風竜王がここを住処としてから、溢れる魔力が風に変換されて巻き起こるようになったみたい」


 さっきまで真っ平らな平原だったのに、不自然にもこんな場所に谷だもんな。人為的というか、災害的に隆起して出来上がったものだったのか。しっかし、谷のどこを見ても風が荒狂っている。わざとかは知らないが、風竜王から放たれる魔力だけでこうなるってのは相当なもんだ。谷の入り口なんて、逆風で馬が吹き飛ぶレベルで酷い。


「地形が変わるほど風を放出するとか、とんだ迷惑な奴だな。ここは俺がガツンと言う必要があるだろう」

「ご主人様の仰る通りです。矯正すべきです!」

「エフィルちゃん、これはケルヴィンが難癖付けてるだけだからね?」


 ハッハッハ、その通りです。基本的にエフィルはお願いすれば、俺の我が侭を通してくれるからな。ついつい甘えてしまう。


「難癖は兎も角、加護を貰って協力を要請するのは決定事項なんだ。少しでも自分に正当性を持たせたいだろ?」

「そしてケルヴィン君は自分を正当化すると」

「う、手厳しいな……」


 アンジェはお姉さんらしく(年下だけど)、エフィルのようには甘やかしてはくれない。まあ、あくまでエフィルよりはな度合いなので、やっぱり甘い事には変わりはない。戦闘狂は皆の支えに助けられています。


「じゃ、折角だし正面から突破しようか。アンジェ、透過しながら行けるか?」

「途中途中で休憩挟めばね。2人の速度なら問題ないだろうし、『遮断不可』の効果時間内に風の隙間を見つけて、そこから再発動しながら進もう。はい、2人とも私と手を繋いで~」


 アンジェが真ん中、俺とエフィルを左右にして手を繋ぐ。こうやってアンジェの固有スキルを使えば、如何に暴風で邪魔されようと関係ない。全てを無視して通り過ぎて行ける。強いて言うなら、またお姫様抱っこされるかと冷や冷やしていたかな。俺にだって羞恥心はあるんだ。流石にそんな格好で風竜王の前に出たくはない。


「何だか、こうしていると密偵デートを思い出すね!」

殲滅デートか、今となっては懐かしいな」

「ええと、パーズでのデートあのときの事でしょうか? 確かに懐かしいですね」


 ん? 何だろう、皆同じ事を言っている筈なのに、微妙にすれ違っているような……


「それにしても、エドワード様との話し合いは残念でしたね。結局、リゼアに何が隠されていたのか、伺えませんでしたし……」

「あー、明らかに知っている様子だったんだけどねぇ。セラさんがいれば、自発的に話してくれたのに」

「こらこら、物騒な事を言うもんじゃありません。アンジェも人の事は言えないじゃないか……」

「えへへ、ケルヴィン君らしさが移っちゃったのかも」


 アンジェがはにかむ。うん、やっぱり皆俺に対して甘かった。


 エドワードとの会話についてだが、あれから俺は単刀直入に、リゼアがクロメルの飛空艇に狙われた理由を聞いてみたんだ。俺の問いにエドワードは平静は保っていた。少なくとも、外見上は。ただ、こっちにはアンジェがいるんだ。心の動揺までは隠せていなかったし、俺から見ても目が一瞬泳いだのが分かった。エドワード自身も、そう悟られている事を理解していたんだろう。ただ一言、こう言ったんだ。


『母を助けて頂いた命の恩人であり、ルノア、アシュリーの友人である貴方には多大な恩がある。しかし、それは私個人の恩でしかありません。リゼアに仕える私からは、こう言う事しかできない。その件については、お話しできません』


 エドワードはリゼアの中でもかなりの地位にいると聞く。なぜリゼアが狙われたのかを、あいつは知っている。見透かされている、最大限俺達に敬意を払う、だけれども立場と責任がある。それらを考慮した結果、分からないではなく、話せないと答えたんだ。


 俺達はそれ以上エドワードを追及しなかった。エドワードはシルヴィアやエマの兄妹のようなもの、不仲になりたくないってのもあるし、たぶんあいつは暴力に屈するような輩じゃない。どうやってもあの場では聞き出せないと分かったから、説得を早々に諦め挨拶を済まし、この谷へと急行した訳だ。


 ―――但し、完全には諦めていない。


『ジェラールか? 悪いんだけどさ、エレンさんに手紙を書いてもらってくれないか? 詳細は配下ネットワークに上げておくからさ、それを伝えてくれ。え、近くにピンクの悪魔がいるから行きたくない? ジェラールらしくないな。よく分からないけど、それも試練って奴だろ。ファイト!』


 俺が駄目なら、エレンさんに聞き出してもらおうって寸法だ。母がしたためた文章になら、僅かながらに言ってしまう可能性があると思うんだ。こう、ポロッと弱音を吐いてしまう感じで。おっと、そうだった。エドワードからの手紙はクロトの保管に入れて、ガウンにいる分身体に配達。ついでにこれもジェラールに届けてもらう。


 それにしても、ジェラールにしては珍しく声が震えていたな。一体、何をそんなに怖がっているんだろうか? ……いや、十中八九予想は当たってるだろうけど。ピンクとか言ってたし。


『右手側に風の隙間があります。そこで休憩しましょう』


 千里眼を持つエフィルが魔力と風の流れを先読みして、安全な場所を探し出してくれた。この中で一番足が遅いのは俺なので、ジェラールとの念話中も全力疾走だ。仲間の中でトップスピードを争う2人が相手だと、どんだけ俺はとろいんだと心配になってしまう。仕方ない、この2人は流石に分が悪い。風神脚ソニックアクセラレートデュアルを使えば何とか太刀打ちできるが、あれは効果時間が心もとないのだ。だから、基本は根性である。


『ほいっ、到着! 少しの間透過を解除するから、周りに気を付けてね』

『了解』

『承知しました』


 それにしても、谷の内部はまた一段と酷い有様だ。入り口の壁みたいな逆風もどうかと思ったが、この辺りは前後左右上下、ありとあらゆる方向に攻撃的な暴風が吹き荒れている。これがゲームだったら、正しい風に乗って行けば最終的に奥に到着する、なんて仕掛けになっているんだろう。だが、ここの風はそんな仕来りなんて知らねぇとばかりに、風が刃の如く鋭い。触れた瞬間即アウトな全自動ミンチ機械、そんな危険な代物が四方八方を埋め尽くしているのだ。正攻法で攻略するには、結構な手間なダンジョンと言えるだろう。今は急いでいるから、ちょっとだけずるをしているけどね!


『近いな』

『うん、大きな気配を奥に感じる。でも、うーん……?』

『アンジェさん、どうしました?』


 スキルの再発動をしつつ、アンジェが難しい顔をしている。


『それがさ、確かに竜王の気配は感じるんだけど、それとは別にもっと大きな気配もあるんだ。それも、2つもさ』

『……言われてみれば。このでかい気配が竜王だと思ってたが、それとは別に何かいるな』

『警戒を強めます。慎重に進みましょう』


 俺達は進行を再開する。しかしこの気配、どこかで……

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