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第483話 奥義継承

 ―――ガウン・虎狼流道場


 リオンがガウンに到着した翌日、虎狼流の道場では刀哉の鍛錬が続いていた。但し、現在の講師はゴルディアーナに代わってジェラールとなっていて、その内容もより実戦的なものへと移行していた。


「もっと腰を据えて――― そう!」

「こう、ですかっ!」

「うむ、良い感じじゃ!」


 刀哉が振るった聖剣をジェラールが受け止め、払う。刀哉の剣筋は数日前とは見違えるように鋭く、更には重いものへと変貌していた。剣の素人である雅や奈々の目でも、それが十分に分かるほどの変化だ。


(ゴルディアーナさんの教えのお蔭、なんだろうか? 体が見違えるように軽いし、思ったように動く事ができる!)


 ゴルディア流の鍛錬を特に励んでいた刀哉の肉体は、その努力を決して裏切らない。肉体改造もそうだが、ゴルディア流マッサージによる柔軟性の上昇、ゴルディア流料理による栄養満点の食事が更に相乗効果をもたらし、その効果を高めていたのだ。そこへジェラールによる剣の指導が加わったとなれば、実力が培われない筈がない。


「うおおおーーーー!」

「その意気じゃ! それ、もう一本!」


 道場に再び剣戟が響き渡る。その音を耳にするパーティのムードメーカーとカオスメーカー、奈々と雅の2人は現在休憩中だ。


「神埼君、凄いやる気だね」

「肉体言語は私には理解できない。けど、私達も体力はついた気がする。ふんっふんっ!」

「力こぶは…… あるような、ないような。でも、確実に強くなってるよね!」


 剣ではなく魔法や杖が戦いの主体となる2人も、ここでの鍛錬で以前よりも逞しくなっていた。デラミスで精神面を鍛え、ガウンで肉体面を鍛える。奈落の地アビスランドでは実戦経験を嫌というほどしてきた。今の刀哉達ならば、歴代の勇者と比較しても遜色のない強さだと、胸を張って言えるだろう。


「あ、ありがとうございましたぁ……!」

「うむ、ようやった。十分に休むといい」


 鍛錬が終わった途端、バタリと道場の床に倒れ込む刀哉。己の限界まで続けていたようだ。


「はい、神埼君。タオルとお水」

「サ、サンキュー…… ふう、全身に染み渡るよ。それにしても、ジェラールさんは全然疲れている様子がありませんね。流石と言うか、力の差を実感しちゃいますよ」

「む、そうか? まあ、この程度であればな。セラやリオンの相手をする時は、この倍以上に動くからのう」

「こ、この倍、ですか……」

「化物だ。化物がここにいる」

「み、雅ちゃん……」


 事実、ケルヴィン達が模擬戦でもすれば、その運動量はこんな鍛錬の比ではなくなる。圧倒的なまでにレベルが、そして種族としての性能が違ってくるのだ。人間と魔人や聖人とでは、それほどまでに開きがある。


「うーむ。天使型モンスターの討伐も鍛錬の合間に挟んでおるし、お主らもそろそろ進化して良い頃だろうと思うのだがな。この前の奈落の地アビスランドでも、結構な量のモンスターを討伐したのだろう?」

「そうですね、俺達なりに頑張ってはいるのですが……」

「それ、今まで私達がやってきた戦い方が影響してると思う」


 頭のとんがり魔女帽子を膝に置いた雅が、ふとそんな事を口にした。


「ほう、どういう事じゃ?」

「レベルを上げるのに必要な経験値、モンスターと戦ってこれを得る場合、最後に止めを刺した者が殆どを入手する事になる。私達はできるだけ平均的に分配するようにはしていたけれど、そんな余裕がない敵との戦いも当然あった。そんな時は決まって刹那の力を頼る事が多い」

「刹那、あの黒髪の娘っ子か。確かにあの娘が持つ『斬鉄権』ならば、敵と強さに左右されずに斬り伏せる事が可能じゃな」

「そう。結果的に刹那が頭1つ抜けて成長している」

「だな」

「だね~」


 雅達が話す内容はどれも本当の事で、ピンチの時は刹那の力を用いて何とか切り抜けて来たであろう事が分かる。ジェラールにも、それは十分に伝わっていた。そして、そこまで言うのなら会ってみたいと思うのが、武人としての嗜みである。


「して、その刹那は今どこに? ワシがここへ来て、刹那とはまだ会っていないのじゃが」

「そういや、俺達も暫く会ってないな。かれこれ何日かは、別の道場に籠りっきりじゃないか?」

「確かに。もう3日は経つ…… ハッ! もしや、あの中年に何か厭らしい事をさせられている……!?」

「いやいや、それはないんじゃないかな。ニトさん、言葉と視線は厭らしいかもけど、それ以上に弟子ができたのを喜んでいたし」

「どうだろうか。中年は何を考えているのか分からない。よって危ない。超危険」

「雅も大分偏った考え方をしてるのな」


 雅の苦言に刀哉と奈々は苦笑いを浮かべるも、完全には安心していないようだった。ないとは考えつつも、もしや――― そんな考えが、微妙に残っているのだ。おじさんへの信頼、微妙。


「よし! ならば少し、修行の様子を覗くとするかの! その道場の場所はどこじゃ?」

「「「え?」」」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 虎狼流剣術師範のロウマは、刹那とニトが修行をする第2道場にいた。剣の道を、それも同じ流派の道を歩む者として、虎狼流の祖であるニトとその弟子の修行風景に興味があったのだ。かなり無理を言ってニトに道場端での見学を許され、朝から正座のまま修行を観察する。


(これは鍛錬、なのか……!?)


 ロウマの眼前で行われていたのは、真剣での死合であった。涅槃寂静ねはんじゃくじょうに手を置き、居合の体勢で構える刹那。対するは、様々な型で刹那の周囲を取り囲むニトの分身体、総勢10人分。2人は四六時中この道場内で斬り合いを行い、戦い続けていた。四方八方から襲い掛かるニトを高速の剣で斬り伏せ、血が舞う。しかしニトは帰死灰生きしかいせいですぐさまに蘇生し、再び剣で応酬する。刹那の能力で刀が斬られれば、床に無数に積まれた刀をニトの分身体が拾う。また戦う。その繰り返しだ。


 刹那は人を斬る経験を嫌というほど積み重ね、より上手く人を斬るにはどうすれば良いのか、体で技術を体得していく。その技量が上がるのに合わせてニトの加減も段々となくなっていき、今となっては恐ろしい速さで戦闘が進むようになっていた。とてもロウマが入り込めるような隙はなく、彼の抜刀術よりも速いスピードで剣戟が振るわれていた。


 そして、次の瞬間にロウマが見た刹那の技は、彼が一度も目にした事のないものだった。一振り、確かに一振りだった。刹那を取り囲んでいたニトの分身体、その全てが刀ごと細切れにされて肉塊へ。ロウマには刹那がただ抜刀したようにしか見えず、何が起こったのか理解できなかった。ただ、全身に立った鳥肌と自然と抜けてしまった腰が、その異常さを物語っていた。


「良いねぇ、実に良い。おじさんの予想以上だ」


 ロウマの隣に置かれたニトが、感嘆するような口調でそう言った。ロウマはまだ理解していないところがあるが、これがニトの本体らしい。


「いえ、まだ使い切れてはいないです。それに、丸一日も寝込んでしまいました。この遅れ、早く取り戻さないと……!」

「刹那ちゃん、そう焦りなさんな。いいかい? 人間には進化先が大きく分けて3つある。魔法的な能力に突出して、会得する固有スキルも魔法に特化した『魔人』。自身に何らかの恩恵を与える固有スキルを作り、これといった弱点がなくバランスの良い『聖人』。そして、プリティアちゃんみたいに身体能力に秀でた『超人』だ。もちろん、会得する固有スキルもそれに準ずる。刹那ちゃんが成ったのは最後の超人、おじさんの流派を継ぐには最適な種族なんだ。君が得た新たな固有スキルは、おじさんの奥義を更に強力なものとする。いやはや、いつかその剣で世界を取ってもらいたいねぇ」

「冗談はそこまでにしておいてください。もう一戦、お願いしますっ!」


 死合再会。一方固まるロウマの背後、道場へ繋がる扉の隙間にて覗き見をする者達が、さっきまでそこにいた。この修行を見て彼らもやる気を出したのか、ドタドタと足音が第1道場へと遠ざかっていったという。

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