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第480話 暗黒牢

 ―――暗黒牢


 光を灯そうとも、具現化して纏わり付く闇がそれを消す。炎を燃やそうが、不敬なる熱気は瞬く間に鎮火される。ここは奈落の地アビスランド、今でいうところの北大陸の最西端『暗黒牢』。延々と続く巨大な縦穴の上に黒き神殿を築いた、闇竜王の住処である。


 縦穴から漏れ出す闇のオーラは神殿にまで乗り移り、絶えず不穏な情調を醸し出していた。この闇のオーラが光や炎といった光源に過敏に反応し、明確な敵意を示して襲い掛かる。その為、この神殿内では闇の中を自身の感覚のみで進まなければならない。


 尤も、悪魔がひしめくこの過酷な地の中でさえも、好んで闇竜王の住まうこの場所に入り込む輩は皆無である。ここ数年での侵入者は、そうとは知らずにトラージ領の『天獄飛泉』から移動して来たシルヴィア一行、刀哉一行くらいなものだ。彼女らは幸運にも闇竜王の不在時に転移し、そのまま出口へと辿り着いた。侵入したというよりは、迷い込んだと例えた方が正しいのかもしれない。


 しかし、今ここに自らの意志で暗黒牢へと足を踏み入れようとする者達がいた。紅蓮の髪を、または髭をなびかせて横一列に立ち並ぶその者達の影は3つ。横に並ぶと身長差が際立ち、或いは胸の大きさも際立ってしまう。3人は仁王立ちの姿勢で暗黒牢の神殿を一通り眺め、各々がその所感を口にする。


「良いセンスね! 私はこういう建物もありだと思うわ!」

「うむ、だよね。我もそう思う!」

「まあまあかしらね。ま、あの野菜馬鹿の親にしては良い家なんじゃないの? 私としては、もっとモダンな雰囲気が好きだけど」

「うむうむ。我もそう思うよ!」


 左から背の順に並んで、ベルセラグスタフのバアル家が集結していた。2人の愛娘の感想に、グスタフは激しく相槌を打っている。


「セ、セラ姐さん方、先に行かないでくださいよ! 逸れちまったら大変ッスよ!」


 そんな悪魔な親子の後方から、人型の姿となって駆けて来るダハクの姿があった。どうやら、案内の途中で先行されてしまったらしい。


「あら、やっと来たのね。迷子?」

「遅いぞ、ダゴクの息子よ」

「アンタが珍しい花に現を抜かしているからでしょ、野菜馬鹿愚息」


 追い付いた途端に散々の言われよう、特にベルからの言葉は辛辣である。ガウンにてぶつかった時からベルと因縁のあるダハクであるが、未だ根に持たれていたようだ。


(ぐっ! い、言い返してぇが、グスタフの旦那の前だとぜってぇ不利になる。漢ダハク、ここは我慢するんだ……! プリティアちゃんのような慈愛に満ちた心でっ!)


 昔の話なら兎も角、今のダハクは土竜王となって力を付けている。ダハク的にはベルにも負けないと自負しているのだが、ここで言い返しては子煩悩にステータスを振り切ったグスタフが、もれなく敵に回ってしまう。流石のダハクもそんな状況になっては勝ち目はないと踏んで、歯を食い縛ってこれに堪えた。


「そ、それにしてもグスタフの旦那、揃って国を抜け出して良かったんですかい? 最近は治める国が増えて、すげぇ忙しいって聞いてやしたけど?」

「フッ、愚問だな。我に課せられた使命は、何よりも娘達に優先させられる。これは絶対不変の理であり、我の生き様なのだ」

「は、はぁ、そうなんスか?」


 どこかグスタフは誇らしげな顔になっている。しかし、それでも国が増えればグスタフに回る政務が増えるのは必然の事。事実、ダハクがセラとグレルバレルカ帝国を訪ねるまで、グスタフは激務の中にいたのだ。それでは今は一体どうしているのかと、ダハクは当然の事を疑問に思う。


「それにだ、我の職務はビクトールとセバスデルに投げて来た。世話役としての仕事を我が引き継ぎ、我の仕事を奴らが引き継ぐ。至極真っ当な等価交換である。うむ」

「………」


 セバスデルは兎も角、ビクトールは平時から普通に働いている事を忘れてはならない。


「あー、お前は?」

「リハビリがてらにちょっと運動したかったのよ。それにパパをセラお姉様と一緒に行かせたら、何をするか分からないもの。監視役みたいなものかしらね。アンタのパパを集団で虐めるような事はしないから、安心しなさい」

「はっ、そうかい。思慮深くて涙が出るぜ」

「そうであろう、そうであろう! ベルは一見クールビューティーであるのだが、悪魔一倍心優しい娘であるのだ! これはつい先日の話なのだが―――」

「パパ、止めて」

「はい」

「………」


 ベルの一言に、ピシャリと口を閉じるグスタフ。こんな義父とこれから一生を過ごしていくのかと、ダハクはケルヴィンを少し不憫に思い始める。


「それよりもダハク、この家って普通にお邪魔しちゃってもいいの? ダハクのお父さん、ちゃんといる?」


 セラはセラで早くお邪魔したくて仕方がないようだ。頻りに暗黒牢の黒き神殿を指差している。


「それなら心配ないですぜ。親父がうちにいる時は、あの闇のオーラが一層強くなるんスよ。今日は正にその時で、たぶん中に入ったら一面が暗闇になってるッス。セラ姐さんについては全く心配してねぇんスけど……」


 そう言いながら、ダハクはベルとグスタフに目を向けた。予め、暗黒牢の中では明かりを点けずに進む事を話している。セラやベルともなれば、襲い掛かって来る闇をぶちのめすのは容易い。しかし、闇は光が存在する限り永遠に湧き出て来るのだ。時間を掛けずに先に進む為には、明かりなしで闇の中を進まなければならない。


「ちょっと、貴方如きが変な気を回さないでよ。視界が封じられたくらいで立ち往生なんて、私達がする訳ないでしょうが」

「ダゴクの息子よ、安心せよ。我らは悪魔一倍察知能力に優れておる。セラの力を知るお主なら、それをよく理解しているだろう? その力が我やベルにもあると考えれば良い」

「あー、それはかなり分かりやすい喩えッスね。なら安心ッス」


 この暗黒牢を取り巻くのは魔力的な闇だ。『闇竜王の加護』を持つダハクは闇に対して絶対の耐性があり、漆黒の暗闇だろうと問題なく視界を確保できる。一方でグスタフらバアル家は察知能力の鬼、暗闇だろうと鼻で笑いながら踏破する事が可能なのだ。


「そいじゃ、行くとしますか。あ、ちょいと耳を塞いでもらっていいッスか? その前に挨拶したいんで」

「挨拶? まあ、構わないけど。ベル、父上」


 ダハクのお願いをセラは承諾、両手で耳を塞ぐ。それに続いて真似をするようにグスタフが、不本意そうにベルも耳を塞いだ。それを確認したダハクは神殿に向き直り、大きく息を吸い込み出す。まるで竜が息吹ブレスを吐き出す動作をするように、割とギリギリまで吸い込む。そして―――


「―――クッソ親父ぃーーー! これから向かうぞクソオラぁーーー! 首を洗って待ってろやおらぁーーー!」


 勢い良く吐かれた挨拶という名の暴言が周囲に響き渡り、耳を塞いだ手の下からキィーンと耳鳴りがした。ボガの大声にも負けぬそれは、ダメージをも伴う攻撃となって闇の中へと突き進む。思いの丈を存分に吐き出したダハクは、妙にスッキリした表情になってセラ達に振り返った。


「さ、これで親父も気付いたっしょ。皆さん、行きまぶふぇばぁっ!?」


 それはそれは息の合った3連撃が降り注ぎ、ダハクは北大陸の空へと見事に舞い上がったという。

本日よりコミカライズ版『黒の召喚士』の連載が開始されます。

コミックガルド様をご確認ください~。

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