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第479話 運命の出会い

 ―――ケルヴィン邸・地下修練場


「ガウンの天雷峠? そこに雷竜王がいるの?」


 模擬戦で流した汗をタオルで拭いながら、リオンが首を傾げる。ジェラールならこの仕草だけでご飯何杯もいけるんだろうなと考えながら、やっぱり俺もリオン大好き人間の1人として、頭を撫でようと手が伸びてしまう。


「ああ、漸く場所が特定できてさ。そこに行って、雷竜王から加護を貰って来てほしいんだ。頼めるか?」


 撫でり撫でり。


「うん、良いよ! 僕自身、やっぱり実力不足を実感しているし、必要な事だと思うもん」

「リオン、行っちゃう? それなら、私も水竜王に会いに行こうかな。ケルヴィンからお願いされていたし」

「ええっ、2人ともいなくなっちゃうの!? 寂しくて私、死んじゃうよ! 死んじゃう死んじゃう!」


 リオンとシルヴィアがいなくなる事を察知したセルジュが、手足をばたつかせながら我が侭を言っている。こんなのが世界最強なのか、こんなのが……


「セルジュ、みっともないからよしなさい。貴女だって自らを鍛える事はできるでしょう?」

「そんな事言ったってエレン、可愛い女の子がいないと気分が乗らないのが世界の真理だよ~」

「もう、またそんな事を言って…… ごめんなさいね、ケルヴィンさん」

「いえ、お構いなく。それよりもセルジュ、そんなに可愛い子と鍛錬がしたいなら、リオンと一緒にガウンに行ったらどうだ?」

「ガウンに?」


 可愛い子という単語に、セルジュの耳がピクリと反応した。こいつ、本当に骨の髄まで女の子が好きなんだな……


「今代の勇者達がガウンで修行しているところなんだ。リオンが竜王と会っている間、そいつらの面倒を見てくれると助かるな。同じ勇者のよしみでさ」

「んー…… リオンと一緒に行くのは歓迎だけど、今の勇者って刀哉とかいう男もいるんでしょ? そこがなー」

「おいおい、何を言っているんだ? 確かに刀哉は男だけどさ、残りパーティは美少女が3人もいるんだぞ? その中にはあの刹那もいるんだ。損よりも得の方が圧倒的じゃないか!」

「……確かに!」


 納得するのかよ。


「セルジュが行くのならば、私も行きましょうか。何か間違いがあってはなりませんし」

「エレンさん、どうかよろしくお願いします」


 まあ、今のガウンにはあいつもいる事だし、大丈夫だとは思うけど。 ……あれ? 何か忘れている気がするな。何だっけ?


「あ、ジェラじいには何て伝えよっか? 確か、こっちに向かっているんだよね?」


 あ、ああー! そうだ、ジェラールが来るんだった! サンキュー、リオン。危ない危ない、昨日の疲れがまだ残っていたのかな? 後でエフィルにマッサージしてもらおう。しかし、ジェラールはどうするかなー。リオンと一緒にガウンに行っても地獄ゴルディアーナ、ムドのいるデラミスに行っても地獄エストリアな気がする。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――ガウン・虎狼流道場


 ここは抜刀術の使い手である虎狼流がガウンに置く道場の本館。普段はこの道場に身を置く獣人達が剣を振るう場所であるが、ここ数日の間は訳あって別の者達に道場を貸し出していた。その者達というのが、彼らである。


「そうよぉ、良い感じぃ~。はい、ワンツーワンツぅー」

「わ、わん…… つー……!」

「ひ~」

「………」

「は~い、雅ちゃ~ん? サボっちゃ駄目よ~ん」

「無理…… もう無理……」


 刀哉が率いるデラミスの勇者達、雅に奈々。そして彼らの鍛錬を指導するゴルディアーナ・プリティアーナだ。


「う~ん、なかなか捗らないわねん。何よりも大事なのはバランスぅ。ゴルディア式の肉体改造、筋肉が足りていない箇所を重点的に鍛える基礎鍛錬なんだけどぉ、もうちょっとだけ時間が掛かるかしらぁ?」

「に、にしても、これはやり過ぎ。人間がやる鍛錬じゃない……! しかも、何で私が重点的に……!?」

「だってぇ、雅ちゃん全体的にお肉が足りていないんだものぉ。あ、お胸の話じゃないわよん?」

「傷付いた、今私の心は傷付いた」


 ゴルディア式の筋トレに根を上げる雅。その横で、刀哉と奈々は死にそうになりながらも、何とか自身を鍛えている。


「刹那だけ、狡い……」

「あはは、刹那ちゃんはお師匠さんがいるんだもん。仕方ないよ」

「そうそう。この虎狼流の道場があるのもぉ、元を辿ればニトのおじ様がいるからだしぃ。それにぃ、刹那ちゃんにこの鍛錬は必要ないわん。元からバランスの良い体型、肉体をしてるものぉ」

「刹那は、文武両道、だったからな……! ふーっ、これで終わり、だっ!」


 課せられた最後のセットを終えた刀哉が、バタリと道場の床に倒れ伏す。床には自身の汗でちょっとした水溜りができていて、借りた道着にその汗の水分が吸着されていく。


「は~い、お疲れ様ん。奈々ちゃんも雅ちゃんも、あと少しだから頑張りなさい。終わったら、私特製のお料理をご馳走するからん。肉は一度破壊して、ご飯を食べる事で身に付くのん。吐いてでも食べてねぇ」

「うう、吐きそうだけど食べられる不思議……!」

「信じられない…… この見た目でエフィルさんの料理の味に並ぶのが、本当に信じられない……」


 そう言いながらも、2人は最後の力を振り絞って筋トレに励むのであった。ゴルディアーナの独断と偏見による目分量の鍛錬、実は的確。


「おうおう、こっちもやってるねぇ」


 2人の筋トレが終わった頃、道場の現在の主であるロウマが現れて皆に声を掛けた。


「あら、ロウマちゃん。これから食事にするんだけどぉ、一緒に如何ん?」

「そいつは魅力的なお誘いなんだけどよ、アンタらにお客さんが見えてるんだ。そっちを先に済ませちゃくれないかい?」

「お客様ん? ……あら、あらあらぁ?」


 ゴルディアーナは気付く。ロウマの後ろに、小さな黒髪の頭がぴょこんと続いている事に。


「プリティアちゃん、久しぶりっ!」

「リオンちゃんじゃなーい! また可愛くなったわねぇ!」


 道場にやって来た客とはリオン達の事だった。ゴルディアーナの大木のような腕に支えられ、メリーゴーランドの如くクルクルと宙を舞うリオン。感動の再会の筈なのだが、やはり絵面が危ない。


「お邪魔します」

「やっほー、私もいるよー。って、刹那はいないの?」

「刹那なら、別の道場で大元と1対1の修行をしているぜ? 俺らにも伝授していない奥義を教えるとか言ってたっけなぁ」

「あー、生還者と一緒なんだ。それなら仕方ないかな、と―――」

「―――あらん?」


 トスンと、振り回されていたリオンが床に降ろされた。リオンとロウマが2人の様子がおかしい事に気付き、何事かと顔を合わせる。セルジュの傍に立つエレンだけは、何かを察したようだった。


「ごめーん、リオン。ちょうど良さそうな練習相手を発見しちゃったから、勇者君達には指導できないかも」

「ごめんねぇ、刀哉ちゃんに奈々ちゃん、雅ちゃん。今日の私を更に美しく変態させる為のぉ、打って付けの相手を見つけちゃったぁ。今日のところは鍛錬終了で良いかしらん?」


 バチバチと視覚できそうな火花を散らす2人は、見つめ合ったまま不動を貫く。


「あ、ああ、なるほどな。俺は理解したぜ」

「ですね……」

「ロ、ロウマさん、どういう事? エレンさんも分かるの!?」

「強き者同士は惹かれ合う、という事ですよ。2人は漸く、互いが真に全力を出せる相手を見つけたという事です。好敵手、という奴でしょうか」

「ええっ! 発想がケルにいみたいだよ!?」


 くしゅんと、どこか遠くの地で戦闘狂がくしゃみをした気がした。


「地上最強と世界最強の戦いか…… この目で確かめたいもんだが、道場も大切なんでな。どこか山奥でやってくれよ」

「分かってるよ」

「了解よん」


 ケルヴィン一行が強くなる為の努力を続ける一方で、他の者達も決戦の日に向けて鍛錬を重ねる。そしてそれらは、ケルヴィンにとって心強い味方となる事だろう。ちなみに刀哉達の鍛錬は、遅れてガウンに向かったジェラールが引き継ぐ事となり、間接的にジェラールも魔の手から救われるのであった。

6巻の表紙が公開されました。

詳しくは活動報告にて。

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