第472話 残党
―――デラミス宮殿
問題になるのは方舟ばかりじゃない。それはあくまで前哨戦、その後が本格的な戦いだ。
「第二に、今もクロメルに付き従う使徒の残党の存在です。仮に私達がクロメルの計画を邪魔しようとすれば、それを阻止しようと確実に彼らが立ち塞がるでしょう」
「うん。結局奈落の地では限られた使徒にしか会わなかったもんね。僕が思うに、黒いメルフィーナ様はこの計画を知っている使徒の殆どを、予め根城から外していたんじゃないかな? 例外も多少はいたかもしれないけどさ」
第二のお義父さん、フィリップ教皇の予想は俺と同じところを突いている。あの時に戦ったアイリスにセルジュ、ニトのおじさんはクロメルの真の計画を知らされていなかった。これはアンジェにベル、エストリアも同様だ。邪神の心臓にいた使徒で、はじめから知った風だったのはジルドラにトリスタンのみ。恐らくこいつらは例外組で、当初の予定ではジルドラも方舟に乗って脱出する事になっていたんだろう。そう考えれば、一太刀浴びせる事には成功したといえる。夢の中でメルフィーナがくれた記憶には、その辺りの経緯の情報がなかったから、予想の範疇でしかないんだけどな。
「私も同意見です。あの場で創造者、ジルドラを倒せたのは大きかった。これ以上クロメルや使徒達に、強力な装備やアイテムが備わる事はなくなりますから」
「確かにな。それで、使徒の残党については何か分かっておるのか?」
「ええ、メルフィーナから情報を取り纏めてもらい、それらを紙に書き写してきました。エフィル、頼んだ」
「承知しました」
準備しておいた資料をエフィルが皆に配っていく。全員に行き渡ったのを確認して、俺は説明を再開した。
「お配りした用紙に、使徒の残党達の情報を記載しておきました。残りの使徒は3人、序列が低い順からトライセンの元混成魔獣団将軍、トリスタン・ファーゼ。パーズ冒険者ギルド支部のギルド長を務めていた、リオ改めリオルド。そして、リゼア帝国にて長年皇帝の座に座り続けていたサキエル・オーマ・リゼア。この3人のステータスと所持する固有スキルについては、この用紙にてご確認ください」
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序列第10柱『統率者』トリスタン・ファーゼ
レベル:134
HP :1050/1050
MP :4730/4730
筋力 :218
耐久 :362
敏捷 :390
魔力 :3699
幸運 :2947
固有スキル『亜神操意』
下級神を召喚術で使役する事を可能とし、召喚の際にMP最大値量が消費されなくなる。但し、神でない配下の召喚には通常通り消費が行われる。それ以上に高等な神には適用されないが、仮に契約できたとすれば、多少なり魔力消費を抑える程度の効果はある。
特筆事項(召喚術による配下)
・ディマイズギリモット
・起爆大王蟲
・夢大喰縛
・タイラントリグレス
・神竜ザッハーカ
・神機デウスエクスマキナ
・神蟲レンゲランゲ
・神蛇アンラ
序列第5柱『解析者』リオルド
レベル:178
HP :4328/4328
MP :4469/4469
筋力 :2351
耐久 :1807
敏捷 :2490
魔力 :2184
幸運 :1326
固有スキル『神眼』
魔眼系統に関わるスキル(固有スキルを含む)を瞬きをする度に切り替え、S級に準ずる力で使用する事ができる。両目を別々のスキルに設定する事も可能で、使い方によっては能力を複合させられる。
特筆事項(複合魔眼)
・『千里眼』と攻撃系魔眼による遠距離攻撃。呪詛系、解析系との組み合わせもあり、千里眼での使用用途は多岐にわたる。
・対象の補助効果を無効化する『破魔眼』、物理的な障害を透視する『天眼』との組み合わせは凶悪。何らかの防御策は必須。
・『予知眼』による攻撃回避、『読心眼』による看破、『眼力眼』による動体視力の強化、これら組み合わせは接近戦において強靭無比。
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序列第2柱『選定者』サキエル・オーマ・リゼア
レベル:不確定
HP :不確定
MP :不確定
筋力 :不確定
耐久 :不確定
敏捷 :不確定
魔力 :不確定
幸運 :不確定
固有スキル『前知天運』
リオルドの予知眼が数秒先を見る能力であるのに対し、こちらは遠い未来、或いは大昔にまで遡って必要なものの在り処を知る為の能力。この能力を使用して、クロメルは使徒達を集めていた。一度発動させると、次の発動までにクールダウンをする為の時間を要する。
固有スキル『絶対共鳴』
サキエルのステータスを不確定としている理由。ステータス、レベル、スキルポイント、状態異常をクロメルと共鳴する。これまで表舞台に出て来なかったのは、クロメルが肉体を持たず貧弱であった為。但し今となっては、クロメルと同等の強さと化している。
特筆事項(サキエルについて)
リゼア帝国の帝王は、常に帝王の全身鎧を纏っている。これはリゼア帝国の建国から続いている形式であり、如何なる時も帝王が常勝の象徴である為にと始まった伝統である。その為、帝王の姿は肉親と近しい者しか知らず、世襲制ではなく帝王の指名によって跡継ぎが決定される為、中身が誰であるのかは世間に知られていない。
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ざっとこんな感じである。
「―――さて、どこから突っ込んだら良いのかな? 色々言いたい事はあるけどさ」
「フッ、確かに強いのは認めるが、全体としてセルジュには劣るのだろう? ならば、何も心配する事はないのではないか?」
「……ソロンディール、問題なのはステータスだけではない」
「単純な戦闘力ならば、フーちゃん様は確かに最強でしょう。ですがそれ以上に、彼らの能力は厄介なものかと」
コレットの言う通りである。更に問題なのは、これら使徒達の情報が最新ではない点だ。メルフィーナが掻き集めてくれたこの知らせは、あくまでもクロメルの記憶の断片を収集したもの。今となっては別の力を手にしている可能性もあり、あまり過信し過ぎるのはよろしくないとメルが残したメモ書きにもあった。それを踏まえて参考程度にと言い留めておく。
「トリスタンの配下である神柱は、前回の戦いで多くを討ち取りました。しかしながらトリスタンの召喚術がS級であると仮定すれば、そもそもその残り枠に余りが生じます。新たに何者かを配下に加えている可能性も十分にあるでしょう。リオルドの複合魔眼も侮れません。例えば『魅了眼』など、耐性のない者が受けてしまえば一瞬で勝負がついてしまいます」
「そして更に難関となるのが、リゼアの帝王サキエルか。いやー、結構因縁があるんだけど、まさか使徒だったなんてね。あははっ」
「あははじゃありませんよ、教皇! 仮にその方がメルフィーナ様と同等の力を得ているとすれば、メルフィーナ様が2人ごふっ!」
ああ、良い感じにシリアスだったのに、コレットの鼻が噴火してしまった。コレットはメルフィーナとクロメルの事情を理解してもらった上で、この決戦に臨む覚悟を決めてもらっている。もらっているのだが、クロメルだってメルフィーナの側面である事に変わりはない。メルフィーナの為にメルフィーナと戦うという、巫女にとってどれだけ過酷な事なのか、俺は理解しているつもりだ。何よりも自ら決心してくれた答えに、俺は精一杯応えたいと思っている。今も彼女は巫女に刻まれた遺伝子と立派に戦っているのだ。噴き出した血を拭うくらいはしてやらないと。
「くあっ……!」
不意打ちの再噴火の嵐。うわ、べったり付いた……
「ああ、ご主人様、どうか今はコレット様に近づかないようお願いします。コレット様が更に興奮されてしまいますので」
「す、すまん……」
どうやら、鼻を拭う事も許されないようだ。