第467話 最終決戦に向けて
―――エフィルの私室
目が覚めると見慣れた天井があった。エフィルの部屋の天井だ。ベッドに横になっているって事は、あれから死んだように眠ってしまったんだろう。ただ、寝起きだというのに頭は妙にスッキリとした感じだ。だからこそ、あの夢の出来事もハッキリと思い出す事ができる。いつぞやの時のように、朧気な記憶になっていないものかと少し不安だったが、余計な心配であったようだ。
「しかし、あの別れ方はないよなぁ…… 俺の古傷を抉ってきてるし、むしろ止めを刺そうとしているし」
何がとは言うまいよ、何がとは。あれはな、俺とエフィルだけの秘密の筈だったんだ。それがどこぞの剣翁が面白おかしく脚色してだな、俺達の思い出を―――
「―――ご主人様、おはようございます。起きられたのですね」
「………」
「……? 如何しましたか?」
エフィルよ、行き成り現れるのは心臓に悪いよ。ちょうど君の顔を思い描いた時に現れると、流石の死神さんも驚いちゃうよ。
「いや、何でもないんだ。それよりもエフィル、メイド服に着替えているようだが、もう体調は大丈夫なのか?」
「はい。ご主人様と一緒眠って、すっかり良くなりました。これもご主人様のお蔭ですね」
「俺にリオンみたいな力はないぞ?」
「ありますよ。少なくとも、私にとっては」
綺麗な笑顔でそんな事言うなよ、俺が泣いちゃうだろうが…… うん、もう剣翁の事なんて気にしない。ポエマーがなんぼのもんじゃい!
「でも、少し心配してしまいました。よく眠られていたのようなのですが、なかなか起きる様子がなかったので…… 相当お疲れだったのですね」
「そんなに寝てたのか? えっと、今何時だ?」
「そろそろ10時になるところです」
うわ、太陽がそこそこ高いと思ったら、大分寝過ごしたな。 ……いや、思い出せ。確かあの夢は、クロメルが目覚めるのに連動して覚めた筈だ。詰まり、クロメルの奴も今起床したという事。邪悪に染まってしまったクロメルも、メルっぽいところは変わらないらしい。おお、早速大ボスの弱点は発見してしまった。クロメル朝に弱い、と。
「お身体の調子は問題ありませんか?」
「んー…… 大丈夫、問題ないよ」
腕を軽く回して、至って健康である事をアピールする。十分過ぎる睡眠を取ったお蔭なのか、昨夜の疲れは全く残っていない。
「ではご主人様、お着換えをお手伝いさせて頂きます」
エフィルがルンルンとご機嫌な様子で、綺麗に畳んだ服を持ってきた。ああ、うん。久しぶりにお世話できると、凄く幸せそうだ。
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―――ケルヴィン邸・食堂
「―――という事があってだな、戦力強化を図ろうと思う」
「いや、ちょっと待って。待ってくれ、王よ。唐突過ぎてワシの頭の理解が追い付かん……」
「えっと、えっと……」
「ケルヴィン、ちょっと待ってなさい! 色々と整理するから!」
「うーん、私も初耳な情報ばっかりだなぁ」
各地に散った仲間達を念話を使って集結させ、俺は夢の中での内容を打ち明けた。俺の前世、メルフィーナからクロメルが生まれてしまった経緯、隠す事なく全てを話した。これから決戦を控えているというのに、隠し通すなんて事は俺にはできない。幸い、ここにいるのは信頼の置ける仲間達だけだ。俺に迷いはなかった。
「へ~、エレアリスって結構ドジだったんだねぇ。というか、極悪?」
「……おい、セルジュ。何でお前がここにいるんだ?」
今気が付いたんだが、食堂の窓枠にセルジュが座っていた。お得意の固有スキルが働いていたのか、アンジェも今の今まで気が付かなかったと首を振っている。今まで外で盗み聞きしてやがったな、こいつ。
「まあまあ、減るもんじゃないし良いじゃない。戦力がいるんでしょ? 私も力になるよ」
「アンジェから聞いてはいたけど、かなり自由人なのな……」
「ハッハッハ! 君に言われたくないかな、ケルヴィン君」
発見されるや否や、当たり前のように食堂の席に座って輪に入り出すセルジュ。エリィをはじめとした使用人達も困惑気味だ。俺は大丈夫だと許可を出して、客人として迎えさせる。
「まあ正直なところ、セルジュが味方になってくれると助かるよ。だけど、1つ訂正しておこう。メルが俺を殺した件だけどさ、それってエレアリスがそうさせたんじゃなくて、世界のシステムがそうさせたみたいなんだ。エレアリスはそのシステムに従って、神の力を使っただけ。要はエレアリスが悪いんじゃなくて、この世界を造った初代様が悪い」
「むむ、ややこしい事を言うね…… でも、そんな理由で黒い方のメルフィーナは納得するの?」
「納得も何も、その黒い方のメルと記憶を共有したメルがそう言ってんだよ。クロメルはもう、ただの邪念だけで行動しているんじゃないんだ」
実際、クロメルは数十年はエレアリスを恨み、それを糧として行動していた。が、それ以降はただエレアリスを貶めるだけでなく、世界自体を改変して、俺が理想とする世界を実現させる事に注力するようになった。あいつの望みは、破滅ではなく改変なんだ。
「それで、ケルヴィンお兄ちゃん。戦力の強化って言ってたけど、具体的には何をするの? レベルを上げるにしても、もう生半可な相手じゃ底上げできないと思うわよ?」
逸早く俺の話を理解してくれたシュトラ(ジェラールの要望で屋敷では幼い姿の方)が、その詳細について聞いてきた。シュトラの疑問は尤もだ。悪魔、魔王、竜、使徒と様々な敵と戦ってきた俺達だが、これ以上の成長は生半可な相手では務まりそうにない。それこそ残りの竜王だとか、義父さんクラスの敵でないと駄目だろう。だけどさ、強くなる為に必要なのは、何もレベルを上げる事だけじゃないだろ?
「今までと同様に、各地に出現する天使型モンスターは討伐していく。あれでも物足りないが、他のモンスターよりかは強いからな。ただ、これはレベルを上げる為っていうよりも、あくまで各国の安全を確保する為、腕を鈍らせないようにする為だ。戦力強化の意図は他にある」
「と言うと?」
「例えば、竜王から加護を与えてもらう」
「「「竜王から?」」」
皆が一斉に人化しているダハクや黄ムド、ボガに視線を向け出した。不意打ちを食らってか、野菜スティックや茶菓子を貪っていた2人は動揺、ボガは普通にビビっている。
「お、俺らッスか?」
「そう、お前ら。まあ、正確にはまだ会った事がない風竜王や雷竜王とかもいるんだけどさ、今は置いておこう。火竜王の加護を持っているエフィルの炎を見れば分かると思うが、加護のあるなしでは属性の威力・耐性が段違いなんだ。これはレベルとは違うところで、戦力の高さに直結する。もちろん、これはダハクとムドが良ければの話だ。竜王の加護が与えられるのは生涯に1人だけって事は知っているし、無理強いをするつもりもない。ただ、その上で納得してくれるのであれば、俺にダハクの大地の力とムドの光の力を与えてほしいんだ。だから2人には、よく考えてほし―――」
「―――へへっ、水臭いッスよ兄貴! 俺と兄貴は一心同体、お互い遠慮しねぇ仲じゃねぇッスか! 雑草刈りの時に誓い合った兄弟の盃、忘れもしねぇぜ!」
「私はエフィル姐さんのお手製菓子をお腹いっぱいで手を打つ。もちろん私と私と私の分、きっちり3回を要求する」
……えっと、草刈り時にそんな盃を交わした覚えがないんだが。まあ、そういう事にしておこう。ムドはムドでちゃっかり欲望を満たそうとしている辺り、実にムドらしい。しかし、全く迷わず付与してくれると答えてくれた事は、素直に嬉しいな。
「あ、あの、おでの加護はどうすれば……?」
「ボガの火竜王としての加護か。うちのパーティで赤魔法を使うのはエフィルとリオンなんだけど、エフィルは先代のを持ってるし、リオンはあまり炎系統の魔法を使わないからな。そこでだ、ボガには会ってほしい人がいる」
「おでに?」
ジェラールが自分の事を頻りに指差していたが、ここは無視しておいた。
本日の21時からオーバーラップ様主催のニコ生にて、
黒の召喚士関連の発表があるそうです。
活動報告にリンクを貼っていますので、
興味がある方はそちらからどうぞ。