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第465話 真実

「すまん、自分を抑えられなかった…… 続けてくれ」


 自ら反省するとは、やはり俺は理性的な戦闘狂。シリアスな空気をぶっ壊した感は否めないが、これもメルの緊張を解す為だと理解してほしい。そう、全て計算の上での行動なのだ。


「ええと…… それで、天使長達はエレアリスを転生神の座から降ろす事を決定しまして……」


 シリアスな空気は破壊できたが、メルを動揺させてしまったのは迂闊だった。いや、これは魔王化による後遺症なんだよ。たぶん、恐らく、自信ないけど。


「あー、だとしても、メルはまだ堕天した状態だったんだろ? そんな状態から、どうやって次の神に指名されたんだ?」

「順を追ってお話し致しましょう。まず、次の神の選定方法について。これは先にもお話しした通り、白翼の地イスラヘブン内の天使の中から選ばれます。心の清さ、素行の良さ、能力――― そういった神という地位に慢心しない者を、天使長達が決定するのです」

「………」

「今、かなり沢山の疑問を思い浮かべませんでした?」


 能力は問題ないだろう。しかし、憎しみを糧として生きていたメルの心が清いかと問われると、少し違和感があるかな。あと、それ以上に素行が問題か。寝相と寝起きの悪さ、生活習慣の矛盾、大食乙女。いや、うん。問題しかねぇや。


「問題ないな、続けてくれ」

「問題しかないと? 今、そう思いましたよね?」


 だから、心を読むなと!


「いいから、黙って聞いていてください」

「黙って聞いていたんだが……」

「はい!?」

「すみませんでした!」


 なぜか怒られてしまう。まあ、少しメルが元気になったと思えば良いか。


「コホン! 私が転生神を目指す上で、障害が2つありました」


 ……2つしかなかったのか? あ、いえ、何でもないです。


「1つが、私が地上から白翼の地イスラヘブンに戻る事でした。白翼の地イスラヘブンは常に移動をしている浮遊大陸、そして施された大結界により、外界から視認する事ができません。それは天使である私にも同様の効果を発揮していました」


 メルの話にもあったな。白翼の地イスラヘブンを出てしまう事は、故郷を捨てる事に繋がるって。


「なら、どうやって?」

「神柱を止めに来た天使達を利用したんです。緊急事態とはいえ、彼らとて白翼の地イスラヘブンを離れてしまえば戻る事ができなくなってしまう。そこで、この瞬間にのみエレアリスは大陸を覆っていた結界を解除したのです。天使達が暴れる神柱達の対応をしている間に、私は故郷へと戻りました」


 お、おお…… 黒いメルフィーナ、吃驚するほど頭が冴えていたんだな。全ての行動に繋がりがある。今では考えられない事だ。


「あ・な・た・様?」

「痛い痛い! 耳を引っ張るなって!」


 くそう。完全復活を果たしたよ、メルの奴。完璧に俺の心理を読んでるよ。


「2つ目、私が未だ堕天した身であり、心が黒く染まっていた事。これはある意味で、結界以上の障害でした」

「だろうな。天使長に選ばれる筈がないし、そもそも見つかるだけでもやばそうだ」

「そこで私が考え付いたのが、ルミナリィを使った方法です」

「ルミナリィを?」

「私の心には怨恨がある。ならば、ルミナリィでその悪しき心を切り取ってしまえば…… そう思い至ったのです」


 堕天使のままでは神にはなれない。だから、聖槍で邪悪を払って資格を得る。理屈は分かる。だが、それでは当初の神を目指していた目的までも、メルフィーナの中からなくなってしまうんじゃないのか? それまでの原動力であった恨み辛みが綺麗になくなれば、エレアリスを陥れようとも考えないし、俺が望む世界を造ろうとはしないのだから。


「長以外の天使には感情があり、少なからず悪しき心もあります。エレアリスより奪い取ったこの力を使えば、一切の邪気をなくした純真な私に戻り、機械的に判断を下す長の指名を受ける第一歩として、大きく前進する事ができる。ひいては、神へと至る資格を得る事に繋がるのです。 ……あなた様の指摘のように、これは当時の私にとってある種の賭けでした。ですが、私はこうとも考えたのです。白い私が神となり、黒い私はルミナリィの中で息を潜め、再び白い私がルミナリィを手に取った時、少しずつ侵食していけば、と。切り取った黒き意識が、ルミナリィ内で保たれる保証はどこにもありませんでした。下手をすれば、浄化の名の下に淘汰され、消えてなくなる可能性だってありました」

「だけど、クロメルはそれをやり切った。ルミナリィの中でお前が神となるまで自我を保ち続け、今となっては肉体まで得てしまった」

「仰る通りです……」


 何とも気の遠くなる話である。そこまで緻密に計画していたのに、最後の最後で神頼みだ。いや、それをやり遂げる自信があったのかもな…… こんなところで立ち止まる道理がない、そんなもので自我が消える筈がないという、圧倒的な自信が。


クロメルの目論見通り、次の転生神にはメルフィーナが指名されました。魔王を倒したという偉業と聖槍ルミナリィを持っての帰還、そしてルミナリィの力で取り払った穢れのない心が、天使長達をそうさせたんだと思います」

「そして聖槍ルミナリィ越しに、神としてのメルに関与していった、か?」

「はい。元々の体が同じだったせいか、そのような無理がまかり通ってしまった。今の私がクロメルの睡眠の時を利用しているように、クロメルも私を利用していた。私の知らぬところで封印されたエレアリスの魂を転生させ、アイリスという名の偽りの巫女に。あたかも最初からそこにあったように、エレアリスの体で義体を作り上げた。神として活動していた私は、その裏でクロメルの野望に加担してしまっていたのです……」


 メルの話を簡単にまとめよう。ルミナリィから出る事のできないクロメルは、眠った状態のメルを利用した。


 まず行ったのは、自らの代わりに行動する事ができる駒として、エレアリスをアイリスへと転生させる事だ。以後、転生術を持った彼女は使徒を着々と増やし、現世でのクロメルの手足として行動させていった。これが後のアンジェやセルジュに繋がる訳だ。


 地盤が固まったところで、次は転生した『俺』を探したんだという。日本にいる事を突き止めたクロメルは、事故と偽って俺を殺害。ああ、殺されたそうだ、前世の俺。クロメルの心境を読み取ったメルが言うに、逢いたくて逢いたくて我慢できなくて、転生神としての全権を使って魂を呼び寄せていたそうだ。


 これはなかなかにショックである。記憶がないから良いものの、下手に前世の記憶が残っていたら、もっと動揺していただろうな。俺が転生したばかりでメルと出会ったばかりの頃、こいつが言っていた手違いを起こした神ってのが、クロメルだったって事だ。その記憶はクロメルの都合の良いように脚色されて、メル本人はそう思い込まされていた。


 クロメルはもう、手段を選んでないんだろう。喩え俺をその手で2度殺す事になったとしても、目的の為には躊躇いもなく実行に移る。それが切なくて悲しくて、だけれども嫌というほど愛を感じてしまう。メルとは全く別の形の、歪な愛だ。


 ……そして、最後の行動。現実世界で受肉できるよう、メルに特製の義体を使わせ、これを使徒達の根城に誘導する事で強奪。見た目は子供のそれだが、エレアリスの体で作った最高の肉体を手に入れてしてしまう。これが真相、これが真実だった。


「……あなた様、そろそろ時間のようです。クロメルが目を覚まします」

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