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3話(1) はじめてのおつかい

「さて、久しぶりに来たが……相変わらす人の多い場所だな、ここは」


 アザミは賑わう街の様子に少し疲労感を覚え、鬱陶しそうに手のひらで顔を扇ぐ。人が多いのはあまり好まない。それはどうやら300年前から変わらないらしい。


 隣町プレイス・シティはここらでは一番の賑わいのある街だ。双子の住むエッジ村からは徒歩数分というアクセスの良さもあってか、ここら近隣の住民は皆、基本的に買い物はプレイスシティですることになる。プレイスシティもエッジ村も、位置としてはアズヘルン王国の西部にあたる。なのでここは王国西部の商業上の要とも言える街なのだ。


「青果店はあっちの商店街にあったと記憶しています。さっさと行きましょう」


 げんなりとした顔を見られないように俯きながらシトラが提案する。その言葉は冷静で落ち着いているように飾っているが内心は…


(不覚ですッ―――体力まで5歳なのを忘れていました……。こんな姿を魔王に見られたら…考えるだけで恐ろしいっ! ナメられてしまいます……!)


「そうだな、早く終わらせて早く帰るとするか」


 そうさも余裕化のように答えるアザミ。だがシトラと同じく5歳の体力ではキツイのか、疲労の表情を浮かべていた。それを必死で隠しながらアザミはおとなしくその提案にのる。


(クソッ、勇者の前で疲労して倒れる、なんて御免だぞ…!)


 案外似た者同士な魔王と勇者は人混みが苦手なのだった。


* * * * *


「いらっしゃい!」

「安い魚あるよ!」

「お! 兄妹かい? 仲いいねぇ」

「可愛い二人に似合う服があるんだけど見ていかない?」


 相変わらず商店街はたくさんの商人が店を出している。ゆえに先ほどの通り以上に混み合っており、客引きも盛んに行われているのだ。客引きと言ってもこの双子は一般人から見ればただの5歳児なのだから優しいものばかりなのだが、それでもいつもは配下に命令する立場だったアザミと、いつもは周りから『シトラスさんって話しかけづらいよね〜』と言われ、避けられていたシトラにとっては馴れ馴れしく話しかけてくる商店街の人たちが多少苦手なのであった。


 なので全ての言葉を俯きながらスルーしていく。そんな調子でスイスイと進むものだから、気がつくといつの間にか目的の青果店に到着していた。


「いらっしゃい。……あら、ひょっとしておつかいかな?」


 店の軒先に立つ双子に若いお姉さんの店員が声をかけてくる。ご丁寧に双子に合わせて姿勢を低くしながら笑顔で。アザミはそんなお姉さんの優しさを半ば無視するように目を逸らし、あたりを見渡す。


「えっと……リンゴというのはどれのことだ?」


 剥かれたリンゴしか見たことのないアザミの独り言。お姉さんはそんな独り言にも反応し、優しく教えてくれる。


「リンゴ? ああ、この赤い果物のことよ」


 アザミの質問に優しく微笑み、店員のお姉さんは赤い果実が山積みにされた籠を指差した。アザミは自分の中で何かプライドが崩れる音を聞こえた気がしたが、気にしない気にしないと言い聞かせてコホンと空咳をする。


「感謝する。よし、これで終わりだな……」


 とりあえず面倒ごとからは早く解放されたい。アザミはとりあえずお礼を言って、籠からリンゴを5つ、無造作に掴み取る。


「なっ!? あなたは一体何をしているんですか!!」


 だが、何も考えずにりんごを手にとったアザミのもとに血相を変えてシトラが飛んでくる。りんごを手に取っただけなのに、と首を傾げるアザミから持っているリンゴをバッと奪い去ってギロリと睨みつけている。だが、アザミは自分がなぜ怒られているのか分からない。ミスをした覚えも怒られるマネをした覚えも、もちろん悪事を働いたということもないのだから。


「なにって…これを買ったら終わりだろ?」


「―――ダメですよ! まったく、あなたの魔眼は腐っているんじゃないですか!?」


「なっ…なんだと!? 俺の目が腐っていると言うなら説明してもらおうじゃないか!」


「いいですよ? ほら、このリンゴをよく見てください。色が薄い! 甘いリンゴはもーっと赤いんです! そしてこのリンゴはお尻の凹みがゆるいですね。いいですか、アザミ。買い物とは戦争なのです。どれを買っても値段は同じ。それなら良いものを買いたい。そうでしょ? なのにあなたは適当に……!」


 ヒートアップしながらアザミセレクトのリンゴを全て籠に戻し、新しいリンゴを丁寧に選定するシトラ。そんなシトラに一度は文句を言おうとしたアザミだったが、その熱に思わず引いてしまう。


「……あーなんか、ごめん」


 とはいえ、こんな商店街のはずれの青果店で5歳らしからぬ会話を大声で行っていた双子に、客や通りすがりの人たちからは「あの子、何者だ?」「まだ初等学校も行っていないわよね?」などとかなり怪しまれていた。だがそんなものは気にしない、とばかりにじっくりと品定めをするシトラ。


「ふぅ、こんなものでしょう。さあお会計を!」


 そうして真っ赤なリンゴを5つ抱えたシトラが得意げに言う。あの優しい店員のお姉さんまでもがちょっと引いてたのは言うまでもない。ドヤ顔のシトラに引きつった笑顔を向け、リンゴを手渡す。


「……ぎ、銀貨2枚ですね。ありがとうございましたぁ……」


「お前、なんでそんなに本気なんだ?」


「別に……あなたには関係のない話です」


 青果店を出たらすぐにさきほどまでのお買い物本気モードは解かれ、いつもどおりのツンツンモードに突入しているシトラ。こうなったら気にしても仕方がない。答えは帰ってこないだろう。と、とりあえずミッションコンプリートということでリンゴを受け取り店をあとにすることにした。だがその時、


「おい、青果屋の親父はいるか」



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