隣の家3
日が暮れる頃、あの少女キャラが帰り支度を始めた。
この家がさほど裕福ではないと考えていた為思いつきもしなかったが、この子はこの家に雇われている使用人だった。
家の質と使用人を雇っているという状況はどうも釣り合っていない気がしてならない。
今一度、お金の使い方について深く考えることをおすすめしたい。しないけど。
「奥様、それではお先に失礼させて頂きます。」
少女キャラは部屋の入口で頭を下げて、中から素っ気ない返事を貰ったのを確認すると、未だ玄関で同じ体勢を保っていた俺に帰ろうね、と言った。
あのやんちゃとこの少女キャラの対照的な性格の原因は、違う親に育てられたからだ。納得。
まあ俺が姉弟と思い込んだだけなんだけど。
うん。あの糞ガキと姉弟なんてあの子に失礼だよな。申し訳ないことをした。
あの糞ガキが弟とか、本当、こんないい子には有り得ない、有り得ない。俺だったらそんな勘違い許せない。
「ごめんね」
俺の口から、女の子の低音ボイスみたいな可愛らしい声が飛び出した。
俺ってば、喋れたのか。
さすがVR。会話も出来るとはお見逸れしました。
なぜだか少女キャラも驚いている。
絶対俺とは別件で驚いてるよね。
そこではたと俺は気づいた。
俺の今の発言は、あまりに脈絡がなさすぎたということに。
何突然謝ってんの怖いこの子、って感じよねうんごめんなさい。
でも、少女キャラはやはり少女キャラだった。
「嫌だわ、突然どうしたの?謝ることなんてひとつもないわ。」
しゃがんで俺と目線を同じにして、笑ってそう小声で囁いた。頭まで撫でてくれている。
まるでご乱心した馬をなだめる騎手だ。
底なしに優しいな、この子。
その優しさ、今はかなり恥ずかしいかな。
すすす、と身を引くと、少女キャラは苦笑して手を引っ込めた。
「行こうか」
少女キャラは俺の手をとって隣の家を出た。