そして再生医療へ
ユーリルたちが新たな命を生み出したころ、ブルート王国は活気に沸いていた。
――再生細胞が出来たのである
つまり骨も、血も、失われた歯すらも自分の細胞から培養して再生できる。悲しい事だが吸血鬼だって虫歯の餌食になる。つまり歯が欠けると本性を現しても牙が欠けたままなのだ。しかし今後はそのような事にはならない。
まだまだ発展途上だがこのようなことが可能だ。再生細胞が出来るという事は再生医療が出来るという事。視力を失った目であっても聴力を失った耳であってもだ。吸血鬼はいよいよ他の命から奪うのではなく自分から何かを全て生み出すという次元にようやく達した。
もっとも最終的実現までは遠い。それまではまだまだ他の命から奪って吸血せねばならぬ。
「私たちは魔族だ。ゆえにこのテクノロジーを間違った使い方にしてしまうかもしれない。だからこそ信じたい。人や魔族の可能性を。だからこれからも戒めの意味を込めて我々は『魔族』と名乗る。たとえ出自が人間だったと分かった吸血族であっても魔族と名乗ろう。それが戒めだ」
国王は……事実上の魔王はそう語った。『c-Myc遺伝子』は人や魔族の体を癌にさせて死に至らしめる。しかしこのように再生細胞にもなる。きっと吸血鬼も再生細胞と本質が一緒なのかもしれない。しかも再生細胞は再ガン化することもある。吸血鬼と一緒じゃないか。だから自分に戒める必要があるのだ。
血液増殖パックを見る。血液を増やせるのも再生細胞を使った応用法だ。これだって血液のガンつまり白血病になる恐れのあるものだ。これを使えばもう吸血鬼は他部族の血液を奪わずに済むのだろうか。いいや養殖物と天然物があるようにそれはないだろう。でも確実に言えることがある。
――もう血で血を洗う事はなくなるはずだ
生まれて死んで、生まれて死んで。その先に何があるのかは生命の研究の究極の答えになる。
<終>