171.不義理王女はもてなし、
本日19時更新致します。
「ッレオン!」
扉が開き、レオンが宰相や自国の衛兵達と共に扉から入ってきてくれた。デザートを食べ終えた皿を侍女へと渡し、彼へと駆け出す。
「プライド。今日は御招きありがとう。遅れてごめん、どうしても外せない会合があって。」
「いいえ、来てくれただけ嬉しいわ。わざわざ訪問日を合わせてくれてありがとう。」
伸ばしてくれる彼の手を握り返す。すると、滑らかな笑みを浮かべて彼がそのまま私の手の甲に口付けをしてくれた。思わず表情こそ笑みのままで頑張ったけど、緊張で肩に凄く力が入ってしまった。ゲームのお色気キャラであった彼は、何故か会うごとにその色香を増していた。
あの婚約解消の日から数日後、彼は早速我が国へ訪問してくれた。
アネモネ王国第一王位継承者として。
婚約解消のお詫びと、これからの同盟関係を強固にすると改めて約束してくれた。
そして弟達のエルヴィン、ホーマーの処罰について。彼らは奴隷落ちと国外追放のうち、迷い無く国外追放を選んだらしい。私からも追放直前日に少し会話はさせてもらったけれど、返事はエルヴィンからの「アネモネも!フリージアも‼︎二度とその地すら踏みたくはない‼︎」の一言だけだった。…アネモネ王国の法の元に裁かれた彼らに私からはそれ以上は何もできない。
国王から、海を渡った遠方の地に放たれたと話された時は、隣に並んでいたレオンも少し沈んでいたけれど、それでも彼らの処罰に関してレオンは納得しているらしい。
それからレオンは、月に何回かのペースで我がフリージア王国に遊びに来てくれていた。私も月一くらいでアネモネ王国に訪問はしているけれど、圧倒的に彼の方がペースが多くて申し訳ない。レオンも第一王位継承者として色々忙しいのに。
更には、レオンもといアネモネ王国は我が国への輸入に関しても以前以上に贔屓してくれるようになった。安く取引できたものを安くこちらに輸出してくれるだけではなく、積極的に良い品を優先的に取引してくれたり、更にはこちらからの要望に合った品を見つけて取寄せまでしてくれていた。
今回の異世界料理に関しても、私がアネモネ王国に訪問した時に色々輸入品や各国の特徴を聞いて一番日本っぽい雰囲気の国の食材を希望したら、たったひと月で沢山の和な食材を我が城へ届けてくれた。今回のパーティーの料理もそのお陰で成り立った。だからこそ、今回食材提供者としてレオンもパーティーに招待した。
「どうも、レオン王子。お久しぶりです。」
ステイルが私に続いて握手を求める。レオンが滑らかにまた笑んでステイルの手を握った。
「お久しぶりです、ステイル王子。前回お会いしたのはひと月前でしたね。」
嬉しそうにはにかむレオンにステイルが笑みを返した。
ステイルは、三ヶ月前…私がレオンとの婚約解消をしてからすぐに次期摂政としてヴェスト叔父様に付くことになった。
本当は私の婚約期間と合わせて行う筈だったからステイルも延期の予定だったけど、本人からの強い希望で断行したらしい。
そして私の近衛騎士の増加と同時にステイルは一日の殆どをヴェスト叔父様と一緒に過ごすようになった。アーサーとの手合わせも毎日から月に数回に数が減ったし、私がアネモネ王国に訪問する時も一緒に来ることは少ない。…正直、少し寂しい気もしたけれど、ステイルは以前からヴェスト叔父様の元で学びたいと言っていたし、食事の時間や合間の休息時間は変わらず一緒に過ごせるから、姉としてそこはちゃんと耐えた。
折角ステイルが頑張っているのに、弟ロスで喚く第一王女なんて迷惑でしかない。「姉君の治世の為にも学ぶ事はいくらあっても足りませんから」とステイルも笑っていた。…その後すぐに「ジルベールに借りを作ってしまったことだけは遺憾ですが」と呟いていたけど。
どうやらヴェスト叔父様付きの予定断行を希望した際にジルベール宰相が味方についてくれたらしい。それを知って私からもジルベール宰相に御礼を言ったら「いえ、宰相として国に良きことと判断したまでですから」といつもの笑顔で返してくれた。
「レオン王子、ようこそいらっしゃいました!」
「ティアラ。ああ…ありがとう。」
嬉しそうにレオンに笑い掛けるティアラに、レオンが笑みを返した。そのまま私と同じようにティアラの手を取り、甲に口付けをする。…やはりティアラもレオンには未だ少し恥ずかしそうだった。ゲームでもヤンデレになったレオンに色々押され気味だったティアラだけど目の前にあの色香の塊がきたらやはりそうなるわよね、と同じ人間として少し安心する。
レオンが我が城に訪問しに来てくれたり、私がティアラと一緒にアネモネ王国に訪問する中で、レオンとティアラもかなり仲良くなった。私の婚約者として城に滞在していた時よりも遥かに仲が良いと思う。それに、さっきの手の甲の口付けに照れた様子のティアラとレオンを見ると、今度はレオンルートも有りなのかなとまで思えてしまう。
「レオン第一王子殿下、お会いできて光栄です。」
カラム隊長が代表として挨拶に来てくれ、その背後にはアラン、エリック、アーサーも頭を下げて並んでいた。
「カラム殿。アラン殿にエリック殿、アーサー殿。近衛騎士の方々に一度にお会いすることができ、とても嬉しいです。」
レオンが嬉しそうに笑い、一人ひとりに握手を交わした。
ステイルがヴェスト叔父様に付くようになったのと入れ替わりに、近衛騎士の増員が導入された。
ステイルの発案で極秘訪問でも色々お世話になったカラム隊長、アラン隊長、エリック副隊長を近衛騎士に任命することが決まった。
私も近衛騎士が彼らなら安心だと思い同意したし、三人が受けてくれた時はすごく嬉しかった。四人体制になったお陰で、二人ずつ交代制で彼らが一日中私の護衛をしてくれるようになった。
今までは有事の時か休息時間にしか会えなかったアーサーだけど、ステイルが会えなくなる代わりにアーサーと会う時間が増えた。城内で一緒に過ごすことが増え、ティアラも嬉しそうだった。
部屋や庭で本を読んだり、…食事の時間とかも背後にアーサーがいてくれるのは最初少し緊張した。でも、私の倍以上にアーサー達の方が城内では緊張しているようだった。
ステイルの指示で大体二人ずつのペアはアーサーとアラン隊長、カラム隊長とエリック副隊長以外の二人組構成になっていた。ステイル曰く「俺の代わりにならば知性派の人間が必ず一人は付いていて欲しいので」とのことだった。…遠回しにアーサーとアラン隊長は知性派じゃないと言っていることになるけれど。
極秘訪問でも顔を合わせた騎士四人だし、その後も私の近衛騎士として四人ともレオンとランダムで会う機会があるので、レオンにとっても大分顔見知りの存在になっていた。
…というか、気がつけば大分レオンもフリージア王国に馴染んでいた。
もともと城下に降りて民との交流が好きだった人だし、きっとコミュ力は高い方なのだろう。よくよく考えれば、私も婚約者として初めてお会いした時だって一気に距離を詰められていた。ゲームではプライドのせいで対人恐怖症になって発揮されない能力だったけれど。
「予想はしていましたが、やはりレオン王子も呼んでらしたのですね姉君。」
ステイルがそっと私の隣に並んで囁いた。
最初にレオンが我が国に訪問した頃は、ステイルは以前の私への口付けのこともあってかレオンのことを結構警戒していた。…まぁ、可愛いティアラにまで頬キスなんてされたらと心配して威嚇する気持ちもわかる。でも、自国を愛する立派な王位継承者のレオンに、今は大分打ち解けているようだった。アーサーはまだ少し第一王子であるレオンに緊張気味だけど。
「ええ、今回の料理の食材を色々取り寄せて貰ったから。…それに、今回のパーティーに無関係という訳でもないもの。」
最後は少し苦笑してしまう。むしろレオンは私と同じ、皆にご迷惑をかけた側なので招待する時も居心地を悪くさせてしまうのではないかと、別の意味で多少気が引けた。
それでもレオンは「いや、それなら是非参加したいな。僕も彼らには感謝をしても足りない程なのだから」と言ってくれた。本当にコミュ力もあって色気もあって次期国王としても文句なしの完璧王子だ。
…まぁ、敢えて少し気になるところがあるといえば。