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シャバの「普通」は難しい  作者: 中村 颯希
シャバの「恋」は難しい
157/169

16.灰かぶり姫③

短いので、本日中に投稿します

「そろそろクライマックス、というところかしら」


 ハイデマリーは、手にした絵と、テーブルに残った絵の枚数を見比べて、小首を傾げた。

 既に並べ終えた絵を、改めて確認する。


 灰かぶりと魔法使いの出会い、鉄靴を履いてのダンス修行に、汚れにまみれての豆拾い修行。

 鍛錬の日々が続いたから、そろそろ灰かぶりにも、主人公らしい活躍の場があってほしいところだ。


「ということは、やはり次は、このあたりよね?」


 白い指が次に摘まみ上げたのは、最も豪華な一枚だった。


 どこからともなく差し込む光に包まれながら、中央に立つ灰かぶり。

 薄汚かった普段着は、光の当たった箇所から光沢のあるドレスに変わり、煤にまみれていた顔も、美しく化粧が施されている。

 なにより、真っすぐに観客を射抜くような視線が、清々しかった。


 いかにも、辛い修行の日々を終えて決戦に向かう、とでも言わんばかりの風情がある。


「ね、そうでしょう、ギル?」

「……ああ」


 良識を愛情によって溶かされてしまったギルベルトは、そっと視線を泳がせるだけだ。

 それでもハイデマリーは満足げに頷くと、ふと、灰かぶりの背後に描かれた時計に視線を落とした。


「あら。なぜこんなに思わせぶりに時計が描かれているのかしら。舞踏会で時限爆弾でも仕掛けるの?」

「……いや。たしか俺の記憶では、灰かぶりが美しくいられるのは十二時の鐘が鳴るまで、という制約があったはずだ。恐らく、それを表現しているんだろう」


 極力、ハイデマリーの考えたストーリーを崩さぬよう、控えめに申し出る。

 すると、ハイデマリーは「そうなの」と目を瞬かせた。


「たしかに、三分間だけしか変身できない、みたいな制約があったほうが、物語として面白そうだものね。彼女の場合、それが十二時の鐘が鳴るまで、ということなのね」


 幸い、指摘は受け入れられる内容であったらしい。

 ハイデマリーは感心したように頷き、それから、凛と佇む灰かぶりのことをそっと指で撫でた。


「さあ、いよいよね、お姫様。十二時を告げる鐘の音には、どうか気を付けて――」


 奇しくもそれは、本来の物語で魔法使いが告げる言葉と、そっくり同じものだった。

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