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シャバの「普通」は難しい  作者: 中村 颯希
シャバの「恋」は難しい
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9.灰かぶり姫②

「ええと、……二枚目は、きっとこれかしら」


 ハイデマリーは白い指で顎をとんとんと叩き、それから一枚の絵を摘まみ上げた。


 描かれているのは、鉄の靴を履かされ、必死の形相で踊り狂っている女性だ。

 周囲には炎が燃え盛り、いかにもおどろおどろしい雰囲気を演出している。

 それは、灰かぶりを虐め抜いた継母が、仕返しに焼けた鉄の靴を履かされ、炎に巻かれながら、踊るようにしてのたうち回るという、終盤の一幕である。


 が、ハイデマリーの解釈は違っていた。


「きっと、灰かぶりの修行回だわ」


 満足げに頷く。

 くぐり抜けてきた修羅場の数が違う彼女にとって、これしきのことは、修行風景にしか映らなかったようである。


「高みを目指すには、やはり自分自身の苛烈な努力なしにはありえないもの。たぶん、こういう修行パートがしばらく続くのね?」


 ついでに彼女は、気付かれにくいのだが、隠れスポ根タイプでもあった。


「……いや、マリー。言いにくいが、それは恐らく――」

「ねえ、そうでしょう、ギル?」


 おずおずと訂正を試みたギルベルトだったが、目を輝かせる妻の愛らしさを前に、良識はあっさりと膝を突いた。


「……まあ、そうかもしれない」


 考えてみれば、物語とは伝聞と解釈の集合体であるので、そういう受け止め方があってもいいだろう。

 絵の女性は「灰かぶり姫」と明らかに顔立ちが異なるが――いやいや、誤差の範疇だ。十分な描き分けができない画家のほうが悪い。


 勇者らしくもなく、そう責任転嫁をすると、絵の中の女性に、一瞬ぎろっと睨まれたような心地を覚える。

 だが、彼は視線を逸らすことでそれから逃げた。


「ほら、やっぱり! だとしたら、まだ修行場面が続くでしょうから……」


 生ぬるい全肯定を素直に受け入れたハイデマリーは、うきうきと物語の続きを探し出す。

 白魚のような指が、やがてぴたりと一枚を指し示した。


「次は、この辺りかしら?」


 そこに描かれていたのは、全身を黒く汚しながら、必死に豆を掻き集める少女の姿であった。

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