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5-10 進路と補習

 

爽馨(そうけい)大、鳴鵬(めいほう)大、藍梗(あいきょう)大。……本命はどれだろう?」


 ネットで受験掲示板を見て呟くのは、元「見守り隊」隊長の山県麻耶である。


「先輩、外部受験されるんですか?」


 その呟きに、現「恋の見守り隊」隊長の友紀が即座に反応した。ちょうど彼女は、麻耶の初恋を成就させるために「馬を射っちゃおう作戦」の企画を練っているところだったからである。


「考え中かな? 今更なんだけど、大学からは違う世界に出てみるのもいいかもしれないと思うようになって」


「それ、すっごくよく分かります。カトリーヌは楽しくてとても居心地がいいけど、このままでいいのかなって、ちょっと不安になりますから」


 エスカレーター式に内部進学できる聖カトリーヌ学院では、人間関係の変化が少なく、学校側は勉強や生活面での指導は厳しい一方で、基本的には超過保護である。


「そうだよね。交流会に似たような環境の安土桃山学院でなく、男性とはいえ競争社会に身を置かれている栄華秀英学園の生徒が参加して、目から鱗というか、カトリーヌの外にも世界があるんだって、初めて認識できた気がするの」


「あのイケメン集団は衝撃的でしたよね。男なんて我儘で横柄で威張ってばかりの甘ちゃんだって思っていたのに、全然違うんだもの」


 それは温室の中で育てられた観賞用の花が、初めて「庶民」という世間の風に当たった瞬間であり、彼女たちにとって、物語の中だけにいた絵空事の男性が、フィクションから実体のあるノンフィクションへと劇的に変化したターニングポイントにもなっていた。


 それ以降、今までは無意識に排除していた、あるいは目隠しをされていて見えていなかった現実が、自然と目につくようになった生徒も多い。

 徐々にではあるが、自らが所属する家によって敷かれたレールに対し、疑問を呈するほどの大きな影響があったのである。


「でも、今から一般受験に切り替えるのって無謀かしら?」


「推薦は来ていないんですか?」


「来てるけど、うちって、ほとんど上かあるいは系列の女子大に進学するでしょ。そのせいで、共学の総合大学から来る推薦は、ごく僅かみたいなの。だから、希望の学部や学科が来るかどうかも分からなくて」


「そうなんですか。じゃあ、やっぱり一般受験ですかね?」


「うん。でもそうなると学力が心配なのよね。聖カトリーヌ学院大への内部試験対策はしているけど、それだけじゃ不安なの。受験のライバルたちは、どのくらいの実力があるのかなって」


「それなら、模試や夏期講習を利用してみるのはどうですか? 見守り隊の活動を介して仲良くなった栄華秀英の子が、ほぼ全員そういうのに参加するって言ってましたよ」


「本当? でもそういうのって沢山あり過ぎて、どこに行けばいいのか分からないかも」


「任せて下さい。そこはバッチリ聞いてあります。栄華秀英のA組に在籍する女子生徒。もの凄く優秀な方たちなんですが、彼女たちが通う予備校は概ね特定済みです」


「でも今から申し込みできるの?」


「試験に通りさえすれば可能だそうです。(しゅん)(あい)予備校、お茶の葉校、特進ウルトラαααクラス。試験が難し過ぎて、まだ若干名空きがあります。今申し込めば大丈夫なはずです」


「ありがとう、友紀。凄い助かる。早速試験を申し込んでみるね」


「どう致しまして。お役に立てて私も嬉しいです」



 ◇



「じゃあ武田くん、また明日ね。あと今日の課題はこれ。ちょっと手強いかもしれないけど、予習を頑張ってきてね」


「はい。ありがとうございました」


 夏休みだけど、補習のために学校に来ている。


 志望大学を教育学部がある爽馨大に決めた。推薦に関しては、今の成績でも通ると言われた。でも、入学後のことまで考えると、もう少し学力を上げておいた方がいいと補習を勧められたので、お願いすることにした。


 本当にこの学校は、至れり尽せりでありがたいよね。


 得意の数学は、このままコツコツと入試レベルの問題を解いていけば大丈夫そうだ。爽馨大教育学部の数学は、かなり重量級だけど手応えはある。おそらく入学後もついていける気がする。


 理科は一般受験科目にはあるけど、入学したら必修科目ではないので、そこそこできればいいらしい。


 その一方で、気合いを入れて頑張らないといけないのは英語だ。なにしろ爽馨大って、英語がめちゃめちゃ難しい。


 数学科に入ったのに、英語で留年なんて困る。だから、英語に関してはみっちり補習をお願いしてみたら、それに対応する授業の内容が濃厚過ぎて、頭が英単語や英熟語、それにいろんな構文でパンクしそうだ。宿題として出される課題も、かなり大変。


 もっとこう、これであなたも英語上級者! みたいにならないものかな?


 《残念ながら、まだそういったスキルは獲得できません》


 ん? まだってことは、将来もらえる可能性はあるの?


 《地力が上がれば、スキルが出てくる可能性はあります》


 地力が上がればって。つまり結局は、ある程度努力して身につけろってこと?


 《語学の場合は、それに近くなると思います》


 運動系はサクサクとスキルを取得できたのに、分野によっては獲得しにくいスキルもあるってことか。


「資質が関係するって父さんが言っていたけど、なるほど、スキルが万能ってわけじゃないんだ」


 誰もいない教室で、つい声が出てしまう。いけない。誰かに見られたら、やけにハッキリした独り言を言う人認定をされちゃう。


 大変だけど、自分で選んだ大学だ。


 それに、女の子たちはみんな凄く頑張っている。同じ大学に入学するなら、男だからって甘えてばかりいたらダメだ。


 ただでさえ優遇されているのに、受験でズルをするのはよくないよね。うん。スキルに依存し過ぎるのも将来を考えたらもちろんよくない。だから、ここは根気強く頑張ろう!


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― 新着の感想 ―
[一言] ふとマヤとシズがはにも知らないで仲良くなるとかあればいいのにと思ってしまった(笑)
[一言] お、マヤが同じ大学にいく可能性が、そうなってくれたら嬉しいんですが、さて。マヤが良い娘だから結ばれてほしい。シズと同じ系統っぽいし、仲良くなってくれそうだし。 受けたら入学式で出会うとかいい…
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