第六話 嘘吐きは泥棒の始まり、そして泥棒は嘘吐きの終わり
「……つまり、邪神が復活する予兆があったから、俺達を喚んだってことですか?」
救世主君の言葉に、王女サマは頷く。
王女サマの説明によると、
約千年前、なんか邪神が現れて殺戮の限りを尽くした。
↓
どうしよう……このままでは人間は滅んでしまう!
↓
ところがどっこい!異世界から来た救世主が救けてくれたお!
↓
救世主は邪神をなんやかんやで封印した!
↓
世界に平和が訪れたひゃっほー!
↓
なんか千年経った。
↓
何ぃ!?邪神が復活しそうだと……!?
↓
そうだ、救世主喚ぼう ←今ここ
ということらしい。
うん、王道っちゃ王道かな。
え?もっとまともな説明しろ?
いいんだよ!こうゆうのはどこも大して変わらないんだから!
(※異世界トリップ物がどこも大して変わらないというのは、全くの事実無根であり、真実に基づかない意見でありますので、良い子の皆は他の小説の作者さんや異世界の皆さんにこんなこと言っちゃ駄目だゾ☆by作者)
ちなみに、なんであの騎士さんが私を邪神だと思ったのかと言うと……うん、まあ説明不要かな。
あんなけたたましく笑いながら無双されちゃ、とても人間とは思いたくないわな。
私が着いて早々「自由だぁー!!」とか封印されてた系のラスボスみたいなセリフを吐いたのも、多分原因の一つだとは思うけど。
てゆうか救世主召喚しようとして邪神復活とか、笑えないから(笑)
「邪神が封印されている場所に出向いた偵察隊の魔術師が言うには、邪神の復活はほぼ確実だそうです。もしそうなれば、我々には打つ手がありません」
おまwwwそれ丸投げじゃねぇかwwwwww
「そうは言われても……俺は今まで平和な世界で暮らしてきましたし、いきなり戦うとか封印とか言われても……」
ですよねー。毎度毎度、異世界の方々は無責任にあれこれ喚び出し過ぎ。マジふざけんなし。
「我々も全力でサポートします。お願いです。どうか、この世界を救ってください!」
サポートしますとか言われても……そっちの都合で喚び出したんだからそれぐらい当たり前だろうが。
お礼はしますぐらい言えや。まったく、なっとらんなぁ。
「……わかりました。俺にはどこまでできるかはわからないけど、この世界の危機なんですよね?できる限りのことは協力します」
そんな安請け合いするなよ。
しかし典型的な勇者タイプか……主役としてはいい目眩ましになりそうだけど、弱そうだなぁ、主に精神が。
いちいち心を痛めてうだうだしそうだ。
ちなみに、このやり取りの間、私は一切言葉を発していない。
いつもならいくらでも口をついて出る小言や罵詈雑言は、自分でも驚く程そのなりを潜めていた。
んっふっふっふ。何を隠そう、今の私は最高に機嫌がいいのだ。
世界までが昨日と全く違って見えてくる。
いや、リアルに昨日と全く違う世界にはいるんだけど。
「……あの……大河内さんは」
目に見えて動揺しながら、救世主君が口を開く。
この救世主君――名前は確か、森本乃明とか言ったか。
……なんか初期時代のDQNネームみたいな名前だな。
今はもっと酷いのが当たり前にあるから、こうゆうのはまともな名前に見えちゃうんだよね。
てゆうかもうちょっと堂々としなさいよ。タミフった私が怖かったのはわかるけどさ。
「瑠璃でいいぞ」
「いやでも、初対面だし……」
まあ、相手が異世界の住人なら、ある種の勢いで呼び捨てとかできるかもしれないが、確かにこの年頃の男の子にはいきなり初対面の異性を呼び捨てとか、少々ハードルが高めかもしれない。
「確かに元の世界じゃ異性で初対面で呼び捨てとか有り得ないけど、私をまともな人間と思うなかれ。てゆうかむしろ異世界人の括りでいいと思うよ」
我ながら酷いセリフだとは思う。
流石に自分で言うことはないだろうと。
「自分で言うこともないと思うけど……」
向こうもそう思ったらしい。
「じゃあ私も君のことノアって呼ぶから。それでいいべー」
「……まあ……それなら」
若干渋々と言った体で頷かれた。
ちなみに片仮名表記なのはあれだ、少しでも日本語としての違和感を減らすためだ。
頷いて言いかけた先を促そうとすると、意外にも王女サマが口を挟んだ。
「あ、あの……!わっ私もお名前で呼んでもいいですか?」
意外でもなんでもなかった。ただのフラグ建設だった。
「別にいいですよ?」
あっさりとしたノアの返答に、王女サマはホッとしたような顔をした。
あれかなー。王族だから今まで普通に接してくれる人がいなかったとかって王道パターンかなー。
となると、次にくる言葉を決まってるな。
「じゃあ、私のこともホワイトって呼んでください」
はい来ましたー、王道である『異世界の権力者呼び捨ての儀』(私命名)。
ちなみに、王女サマの名前はホワイト・ほにゃらら・むにゃむにゃ・なんちゃら(多分国名)、とかなんとか言いました。
なんかもう、ファーストネームしか覚えてない。
だって王族とかの名前って、長くてめんどいんだもん。
てゆうかホワイトって……名前としてどーなのよ。
「王女殿下!いくら救世主と言えど、それは……」
脇で私に警戒心をビンビンに向けていた騎士さんが講義の声を上げるが、残念ながらこの場合、君の意見は通らないと相場は決まっているのさ!
「構いません。この方には世界を救っていただくのです」
「しかし……このような怪しい輩もいるのですよ!?」
騎士さんや、あんた人を指差したらあかんとばっちゃに教わらなかったのかね?
まあ、護衛ってのは警戒するのが仕事みたいなもんだからねー。
むしろこんな怪しんでくれと言わんばかりの奴に、あっさり心開かれちゃ困るわ。
いや、私は困んないけど。困るの王女サマだけど。
「いや、今『この方には』ゆうたし、私含まれてないのかと思ったんだけど」
私が言うと、王女サマがハッとしたように私を見てきた。
ああ、なんてゆうか、あれだ。この目は強いて言うのであれば……
A「私A!よろしくー」
B「私はBだよ」
C「私はC。よろしく」
A「ねぇねぇ、BさんのことBって呼び捨てにしていい?」
B「いいよ!じゃあ私もAって呼び捨てていい?」
A「もちろん!」
B「うふふふ」
A「うふふふ」
C「じゃあさ、私も二人のこと呼び捨てにしていい?」
AB「「だが断る」」
C「なんで!?」
……とゆう空気を作りたくないんだろう。
とは言え、向こうさんはまだ私に警戒心バリバリなわけで。
「別に私はどっちでもいいよ。そもそも私の初対面シーンが挙動不審過ぎたのがいけなかったわけだし、しかも私救世主じゃないし」
じゃあなんであんたここにいるんだよって話になるな。
あ、救世主の補佐やるんだった。
「あの、大こ……瑠璃はさ、救世主じゃないなら、なんでここにいるんだ?」
そーね、それを言わにゃあならんかったね。
てゆうか、さっき君はそれを言いかけたのね。
名前だなんだで有耶無耶になっちゃったけど。
「ああ、それね。説明しないとね」
……とは言ったものの、正直どこまで話そうか。
能力がチートだとか異世界を二桁渡っただとかまで話すつもりはない。
だが、ノアには救世主を押し付けてしまったという負い目もある。
あくまで彼は被害者なのだ。
ともすれば、全く事情を話さないというのも、アンフェアという話だ。
まあ、上手いこと話ながら考えるか。
「あれは今から……三十六万……いや、一万四千年前だったか……」
「「「嘘だっ!!!」」」
おおぅ、三人そろってひ●らしネタとは……
息ピッタリ過ぎて若干ビビったじゃないか。
「ごめん、嘘」
「貴様!舐めているのか!」
「そんな鎧とか舐めたら腹壊すだろJK」
「そうゆう意味ではない!!」
つっかかってきた騎士さんを適当にあしらう。
やれやれ、冗談のわからん奴だ。
「冗談よ。ちゃんと話すって」
さて、どこまで話そうか。
「あれは確か、私が自転車に乗って最寄の本屋に向かってた時だったね」
元ネタの紹介
※作中で説明(?)があるものは省きます。
・だが断る
某有名漫画のセリフ。
岸辺露伴のセリフだとご指摘いただきました。
田舎モンさん、どうもありがとうございました。
・あれは今から三十六万……いや、一万四千年前だったか
またもや某ビニ傘天使のセリフ。