第二話 己の欲せざる事人に施す奴は十倍にしてのしてやる
突然雰囲気が豹変した私に、にーさんは目に見えて気圧されていた。
「なっ……か、神に向かってなんたる口を利くのだ!」
おうおう、虚勢を張るのは構わんが、やるならもちっと上手くやんな。
一応神だってのに、三流の小悪党にしか見えんぞ。
「あぁ?神だからなんだ。てめぇは私に崇められるようなことをしたのか?うん?してねぇだろ?やったことと言えば、私を殺したことぐらいじゃねぇか。なぁ?」
度重なる異世界トリップで培った魔力やらオーラやらを最大放出しながら、にーさんに歩み寄る。
ぶっちゃけ、実力なら低級の神くらいなら殺れるらしいんだよね、私。
現れた時に感じたオーラや態度でわかる。こいつ、低級だ。
……しかし、私を殺しただと?
私は幾度となく異世界トリップを経験してきたが、死亡トリップは今まで一度もない(当たり前か)。
丁度いいトリップ人材の私を使い続けるために、殺しはしないでおくだろうと思っていたけど、読みが外れたか……いや、相手は低級神。独断の可能性もある。
長年異世界トリップなんて物騒な目に遭ってきたものの、まさかこんな理由で死ぬ破目になるとは。
こいつ、どう料理してくれよう。
「なあ神さんよ、あんたらにとって私ら人間は都合のいい捨て駒でしかないのか?使いたい時に適当に奪ってきて、使って終わったら放置。そいつの人生台無しにしようが知ったこっちゃねぇ。何故なら一人の人間が人生捻じ曲げられたところで、知ったこっちゃないから。違うか?」
「そ、そのようなことは断じてない!人間は、大切な世界の一部だ!」
「へぇ。じゃあ私はあんたの世界の人間じゃないからどうでもいいのか。そうかそうか」
「そっそれは……」
「そっちは頼み事してる立場なんだろ?だったら礼儀ってもんがあるだろうが。神だろうが悪魔だろうが、地べたに頭擦り付けてお願いしろよ。『どうか私の世界を救ってください』ってな!ところがどうだお前は。あまつさえ、頼み事してる相手を殺すとか。うん。そーかそーか、それが神サマの礼儀ってやつなんだねー」
「貴様!侮辱するのか!!」
「侮辱してんのはそっちでしょ?人の命と人生軽んじて。弄んで。私は礼儀に対して礼儀で返す主義なんだ。だから……あんたには、あんたの礼儀で返さなきゃな?」
ざっ、と、にーさんに向けて一歩踏み出す。
「ひっ……!」
悲鳴を上げてにーさんが後ずさる。
神としてのプライドとか貫禄とかどこへ捨てて来たのよ、にーさん。
まあ、仕方あるまい。今の私の力、低級神より遥かに上回るッ!!
私はゆっくりとにーさんに歩み寄る。
「……いただきます(ニヤリ)」
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
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「……うぅ……ひっく…………ごめんなさい……私じゃ力不足だったんです……グスッ……」
数分後、私の足下では哀れボロボロになり、幼子のごとく泣きじゃくっているにーさんがいた。
先程の神っぽさはどこへやら。
しかし、私はまだこいつを許さない。
「力不足?だったらなおさらやるべきことがあるってもんだろーが。……あーもーなんか萎えたわ。意地でも救世主なんかやったらない」
「そ、そんな!どうかお願いです!」
そう言って私の足に縋り付いてくるにーさん。
もうここまでくると滑稽で笑えてくるわ。
だが……まだだ、まだ笑うな。
「ヤなもんはヤだ。つーかさぁ、この依頼蹴ったところで私が死んだことには変わりないんだよね?そのへんはどーやって落とし前つけてくれんのさ?」
「うぅ……それは……」
「まー無理だよな。私に負けるような低級神が、どう落とし前つけられるんだっつーの」
「本当にごめんなさい!何でもしますから!!」
この言葉を待っていた!
だが私はあえてにーさんを睨みつける。
「はぁ?あんたに何ができんの?」
「本当に何でもします!できる限り!いや、できないことでも必ず!」
「へぇ……それじゃあ」
言質は取った。もうこの男は逃れられない。
私はビシッ!とにーさんを指差し、叫んだ。
「私を最強の脇役にしろ!!」
そう叫んだ時の私は、今までとは打って変わって、最高にいい笑顔だったという。
ようやくシリアスパート終わりです。
シリアスというか主人公が非道です。申し訳ありません。
次回からコメディパートとなります。
元ネタの説明
・まだだ、まだ笑うな
某ノートより。主人公のセリフ。
のはず。