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学校からの脱出  作者: Me
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第一章「水晶の夜」

 視界全てが闇に覆われていた。自分が未だ眠っているではないかと錯覚する程の、暗黒。

「……?」

 自分が何者で、何故この空間に居るのか心当たりがない。今、体全体の感触によって自分がベッドか布団の上に横たわっていることくらいしか分からない。少しずつ、記憶を辿る……

「……僕の名は、相模秋人。確か、高校一年生だった」

 それくらいのことは、どうにか思い出せた。しかし、どうにも他のことが思い出せなかった。

 とりあえず、身体を起こす。毛布の中から足を外に出すと、段差によって自分がベッドで横たわっていたことがはっきりと分かった。自分の家のベッドではないことも分かる。自宅でないならば、何処だろうか。

 ベッドから降りて、盲目の恐怖から両手を前に突き出すと、すぐに布……おそらくカーテンに両手が当たった。その手触りは、昔小学校で寝たことがある保健室のベッドのカーテンを連想させた。それが限りなく正解に近いと、後に証明される。

 手探りで歩いて部屋の照明電源に行き当たり、スイッチを押した。一瞬にして視界が開け、この空間が僕の通う暁前高校の保健室であると分かった。

「……うーん?」

 視界が開け、多少の恐怖は和らいだ。しかし、何故自分がここで寝ていたのかは依然思い出すことができない上に保健室の先生も居らず、謎は更に増えてしまった。

 保健室の外を覗いた。完全な闇、

「やはり夜だな……」

 僕は保健室の棚に置いてあった非常用の懐中電灯を拝借し、保健室の電気を消して、懐中電灯片手に廊下へ出た。

 懐中電灯が照らす光の外は、依然として完全な闇だった。しかし一寸先は闇という状況は回避できたので、少しはマシと言えるだろう。僕は出口を探して、学校の昇降口へと向かう。昇降口に辿り着いて自分の下駄箱を探している内に、ふと自分が裸足で居ることに気が付いた。なお、自分の靴はなかった。

「仕方がない、借りよう……」

 僕は仕方なしに、適当な下駄箱から誰かの室内用シューズを拝借した。

 一つずつ開いている昇降口の扉を探したが、深夜なので、当然のことながら一つも開いていなかった。

 まあ、これは想定内。扉の下部にあるロックを解除すれば開くはずだ。すまない警備員さん。

 僕は扉のロックを解除し、再び扉を開けようとした……

「何故だ、開かない……?」

 奇妙なことに、ロックは解除されているにもかかわらず、扉は開かなかった。他の扉で試しても、同様であった。無性に腹が立ってきた。

「くそっ、ふざけるなよ!」

 僕は怒りに任せて、懐中電灯で扉のガラスを叩き割った。ぱりーん!と音を立て、ガラスは崩れ落ちた。しまった。

「……まあ、仕方ない。不可抗力だよね」

 僕は自問自答で納得し、学校の外に出て深呼吸をした。新、鮮な……外、の……空気、くうきクウキクウキクウキクウキクウキクウキクウキクウキクウキクウキクウキクウキ


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 視界全てが闇に覆われていた。自分が未だ眠っているではないかと錯覚する程の、暗黒。

「……?」

 自分が何者で、何故この空間に居るのか心当たりがない。今、体全体の感触によって自分がベッドか布団の上に横たわっていることくらいしか分からない。少しずつ、記憶を辿る……

「……僕の名は、相模秋人。確か、高校一年生だった」

 それくらいのことは、どうにか思い出せた。しかし、どうにも他のことが思い出せなかった。

 とりあえず、身体を起こす。毛布の中から足を外に出すと、段差によって自分がベッドで横たわっていたことがはっきりと分かった。自分の家のベッドではないことも分かる。自宅でないならば、何処だろうか。

 ベッドから降りて、盲目の恐怖から両手を前に突き出すと、すぐに布……おそらくカーテンに両手が当たった。その手触りは、昔小学校で寝たことがある保健室のベッドのカーテンを連想させた。それが限りなく正解に近いと、後に証明される。

 手探りで歩いて部屋の照明電源に行き当たり、スイッチを押した。一瞬にして視界が開け、この空間が僕の通う暁前高校の保健室であると分かった。

「……うーん?」

 視界が開け、多少の恐怖は和らいだ。しかし、何故自分がここで寝ていたのかは依然思い出すことができない上に保健室の先生も居らず、謎は更に増えてしまった。

 保健室の外を覗いた。完全な闇、

「やはり夜だな……」

 僕は保健室の棚に置いてあった非常用の懐中電灯を拝借し、保健室の電気を消して、懐中電灯片手に廊下へ出た。

 懐中電灯が照らす光の外は、依然として完全な闇だった。しかし一寸先は闇という状況は回避できたので、少しはマシと言えるだろう。僕は出口を探して、学校の昇降口へと向かう。昇降口に辿り着いて自分の下駄箱を探している内に、ふと自分が裸足で居ることに気が付いた。なお、自分の靴はなかった。

「仕方がない、借りよう……」

 僕は仕方なしに、適当な下駄箱から誰かの室内用シューズを拝借した。

 一つずつ開いている昇降口の扉を探したが、深夜なので、当然のことながら一つも開いていなかった。

 まあ、これは想定内。扉の下部にあるロックを解除すれば開くはずだ。すまない警備員さん。

 僕は扉のロックを解除し、再び扉を開けようとした……

「何故だ、開かない……?」

 奇妙なことに、ロックは解除されているにもかかわらず、扉は開かなかった。他の扉で試しても、同様であった。無性に腹が立ってきた。

「くそっ、ふざけるなよ!」

 僕は怒りに任せて、懐中電灯で扉のガラスを叩き割ろうとした。

「いや……何か嫌な予感がするから、やめておこう」

 どうにか僕は思い留まった。他にも出口はあるはずだ。例えば、教職員や来客用の玄関が。

 僕は昇降口から、東にある玄関へと向かう。先程履いた室内用シューズが、僕の足音を不気味に反響させた。カツンカツン、カツンカツン……と二重の足音が聴こえる。

「……着いた」

 ここが玄関だ。あまり広くない空間の中に、教職員と来客が使う、生徒用より多少マシな下駄箱があった。一見して来客用スリッパ以外の靴は一つも見当たらなかったので、おそらく教職員ですら今は一人も居ないのだろう。確認のために靴箱の中を漁ってみたが、その結果は芳しくなかった。……いや、一つだけ、平山先生の靴箱の中には靴とメモ書きがあった。

「なんだこりゃ」

 その紙切れには「1192」と書かれていた。鎌倉幕府か?役に立ちそうな情報でもなかったので、僕は忘れることにした。

 さて、これからどうしようか……?

 僕は少し頭をひねり、おそらく宿直として居るであろう平山先生を探すことにした。

 今の時代、大抵の高校は宿直室など無いし宿直など居ないが、古い校舎を利用する私立高校の暁前では未だに居る。宿直室は学校の一階、三年生の教室が並ぶ廊下の一番奥という変わった立地にある。宿直室に向かう途中、体育館に繋がる中庭への扉を開けようとしたが、やはりというか開かなかった。そうこうしているうちに宿直室へと辿り着いたが、電気はついていなかった。

 一応ノックをしたが、返事は帰ってこなかった。

「おじゃましまーす……」

 ガラッ、と開いた。ここまでは開かなかった扉が大半だったというのに、普通に開いたのが逆に不気味だった。

 暗闇に包まれた宿直室に入ると、まず僕の嗅覚に何かが触れた。妙に生臭かったが、血や腐敗の匂いではない。

 入り口付近のスイッチを押して、部屋の電気をつけた。

 ヤカンが乗ったガスコンロ、豚骨スープだけが残ったカップラーメン、雑に敷かれている布団……なるほど、臭いはラーメンだった。誰かが居た痕跡があるが、今は居ないようだ。

 更に部屋を見渡してみる。冷蔵庫の横の棚に小型の金庫を見つけた。四桁の暗号が必要なようだ。

 四桁の数字……、ああ、多分、平山先生の靴箱にあった数字だ。忘れたはずが簡単に思い出せた、鎌倉幕府の数字だ。

「1192」と入力し、僕は金庫の扉を開けた。

「私立暁前高等学校校舎改築計画報告書」という表題の資料が、数枚出てきた。

 資料に目を通す。

『本学の校舎は建築から実に八十年も経過し、その老朽化が顕著になりつつある。戦中、体育館地下に掘られた防空壕やグラウンド脇の墓地、旧校舎も未だ放置状態であり、それらの解体・埋め立てや本校舎の改修は本学の最も優先すべき課題であります』……から始まり、何やら様々な事が書かれていた。噂は聞いてはいたが、防空壕の実在は初めて知った。学校全体の見取り図があったので、僕はそれだけもらっていくことにした。部屋の電気を消して、廊下に出た。

 次に行くべき場所は、果たしてどこだろうか……?

 僕は考え、職員室に向かうことにした。校内全ての鍵が、ここに揃っているはずだからだ。脱出のためには必ず必要になるだろう。

 カツンカツン、カツンカツン、と不気味に足音が反響する。そのうちどこかから子供の笑い声が聞こえてきそうな雰囲気だった。カツンカツン、カツンカツン、カツンカツン、カツンカツン、カツンカツンカツン、カツンカツンカツン、……?

 僕は立ち止った。カツン……カツン……カツン……

 遠くから、何者かの足音が聴こえる。廊下の突き当りの、向こうから……

 このまま歩けば鉢辺りになるだろう。人に会うのは別に問題ない、それどころか良い方向に事態が動くはずだ。しかし、僕の直感が足音に接触するのを避けろと言っていた。

 僕は接触を避けるため、忍び足で宿直室へと戻ることにした。懐中電灯の明かりを消し、室内用シューズを脱いで足音も消した。

 カツン……、カツン……、カツン……、

 遠くから足音が迫ってくる。真横から木枯らしが吹いた。

「……?」

 何処かの窓か扉が開いたのだろうか。しかし、僕には詳しく気にする余裕がなかった。

 宿直室に着き、扉を開けて中へと入った。何故か豚骨の匂いが薄れていた。

外の足音は未だに迫ってきていた。僕は隠れるため、急いで部屋の隅にあるクローゼットの中へ入ろうとした。

 むにゅ。

 何か柔らかい感触が触れた、直後に拳が僕の顔面を捉えていた。突き飛ばされた僕の腹部に更なる追撃、訳が分からないうちに殴られ蹴られ続けた。足音がすぐ近くに来ていた。

「ちっ、」

 目の前の人物は吐き捨て、僕を置いて再びクローゼットに引きこもった。

 直後、目の前に何かが来た。それが僕の見た最後の記憶だった……


  2


 視界全てが闇に覆われていた。自分が未だ眠っているではないかと錯覚する程の、暗黒。

「……?」

 自分が何者で、何故この空間に居るのか心当たりがない。今、体全体の感触によって自分がベッドか布団の上に横たわっていることくらいしか分からない。少しずつ、記憶を辿る……

「……僕の名は、相模秋人。確か、高校一年生だった」

 それくらいのことは、どうにか思い出せた。しかし、どうにも他のことが思い出せなかった。いや、少しだけ思い出せたことがある。

「そうだ、何かを見たんだ。僕が意識を失う前、何かを」

 しかし、かつて僕が見た何かの記憶は漆黒の靄に覆われていて、姿を思い出そうにも、一切の実体をイメージできなかった。

 とりあえず、体を起こす。僅かな揺れから、自分が暁前高校の保健室のベッドに寝ていることも分かった。はて、僕は高校生活の中で保健室のベッドに寝たことがあっただろうか?

 ベッドから降りて、両手を前に突き出すと、すぐに布……おそらくカーテンに両手が当たった。それで、ここが高校の保健室であると確信した。

 手探りで歩いて部屋の照明電源に行き当たり、スイッチを押した。一瞬にして視界が開け、この空間が暁前高校の保健室であることが確定した。

「……ふーむ」

 視界が開け、多少の恐怖は和らいだ。しかし、何故自分がここで寝ていたのかは依然思い出すことができない上に保健室の先生も居らず、謎は更に増えてしまった。

保健室の外を覗いた。完全な闇、

「やはり夜だな……」

 僕は保健室の棚に置いてあった非常用の懐中電灯を拝借し、保健室の電気を消して、懐中電灯片手に廊下へ出た。

 懐中電灯が照らす光の外は、依然として完全な闇だった。しかし一寸先は闇という状況は回避できたので、少しはマシと言えるだろう。僕は出口を探して、学校の昇降口へと向かう。昇降口に辿り着いて自分の下駄箱を探している内に、ふと自分が裸足で居ることに気が付いた。なお、自分の靴はなかった。

「仕方がない、借りよう……」

 僕は仕方なしに、適当な下駄箱から誰かの室内用シューズを拝借した。

 一つずつ開いてる昇降口の扉を探したが、深夜なので、当然ながら一つも開いていなかった。

 まあ、これは想定内。扉の下部にあるロックを解除すれば開くはずだ。すまない警備員さん。

 僕は扉のロックを解除し、再び扉を開けようとした……

「やはり、開かない」

 奇妙なことに、ロックは解除されているにもかかわらず、扉は開かなかった。何故かそんな気がしていたので、これには驚かなかった。おそらく校内全ての出入口がこうなっているのだと僕は推測した。

 次にどうするべきかを考え、おそらく深夜でも教師が居るであろう宿直室へ向かうことにした。

 今の時代、大抵の高校は宿直室など無いし宿直など居ないが、古い校舎を利用する私立高校の暁前では未だに居る。宿直室は学校の一階、三年生の教室が並ぶ廊下の一番奥という変わった立地にある。宿直室に向かう途中、体育館に繋がる中庭への扉を開けようとしたが、やはりというか開かなかった。そうこうしているうちに宿直室へと辿り着いたが、電気はついていなかった。

 一応ノックをしたが、返事は帰ってこなかった。

「おじゃましまーす……」

 ガラッ、と開いた。どうやら校舎外に繋がる扉でなければあまり鍵はかかっていないようだ。

 暗闇に包まれた宿直室に入る。まずは入り口付近のスイッチを押して、部屋の電気を付けた。ヤカンが乗ったガスコンロ、フタが閉められたカップラーメン、雑に敷かれている布団。誰かが居た痕跡があるが、今は居ないようだ。他にはクローゼットや冷蔵庫、小型の金庫等があった。金庫を開けるには四桁の暗号が必要なようだったが、今はそれよりも気になるものがある。

「ラーメン……、どうかな」

 カップラーメンのフタを外すと、豚骨の匂いが僕の鼻をくすぐった。麺はちょうど三分経ったくらいの見た目だった。つまり食べ頃だ。

 「なにマヌケ顔してんのよ!さっさとアタシのラーメン返しなさい!」

 彼女はそう言いながらズンズンという擬音語と共に僕へと迫り、引っ叩くようにカップラーメンと割り箸を奪う。直後に彼女はズ――――ッ、と残りのラーメン全てを吸い尽くした。

「二度と会うことはないわ死ね!」

 彼女はそれだけ言って宿直室から出ていった。何の説明もなかったが、他にも人が居ることが分かっただけ収穫だ。

 だいぶ緊張感が薄れた僕であったが、突如としてその音が僕を緊張させた。

 遠くから迫る足音が聞こえたと思ったら、直後に少女の悲鳴が響いた。そして、何かが潰れる音がその空間を引き裂く。本能が危険を叫んでいた。

 僕は即座に廊下へと飛び出し、懐中電灯の光を前方に突き刺した。

 全身を叩き潰され、頭部を失った少女の死体があった。惨状を物語る血飛沫が、周囲に付着していた。


 僕の脳内に、これまでの経過がフラッシュバックした。


「そうだ……。僕は何度も同じことを繰り返し、何度も死んだはずだ。今までに、少なくとも三回のループがあったはずだ……」

 僕は思い出した。無限に繰り返すループの記憶を。しかし、それならば……

「僕が死ねば、元に戻るはずだ。そうだ、死ねば元に戻る。ならば、僕が死ねばいい。それで全て解決するじゃないか……」

 そうだ、そのはずなのだ。

 僕は意を決して、その奇妙な足音へと近づいた。奴の影すら見えない。だが、確かにそこに居る。

「僕を殺してみろ」

 直後に、僕はそいつに殺された。


  3


 全身を叩き潰され、頭部を失った少女の死体があった。惨状を物語る血飛沫が、周囲に付着していた。


 僕の脳内に、これまでの経過がフラッシュバックした。


 死んだ少女を生き返らせるため、自らそいつに殺されに行った……

それで、僕は保健室で目覚めて少女と再び出会い、悪い結果を書き換えるはずだった。なのに……

「何故だ!? 何故、僕がここに戻る!?」

 目覚めたのは、いつもの保健室ではなかった。少女が殺された直後の時間、そこで僕は目覚めた。

 奴の足音は聞こえない。しかし、間違いなく少女の前に異様な気配がある。

 木枯らしが吹いた。

「風!?……何処から!?」

 少女の右側、体育館に繋がる中庭への扉が開いていた。

「そうか、あの人がその鍵を……」

 僕は一瞬の判断を求められた。奴の横を通り抜けて中庭へと進むか、宿直室のクローゼットに逃げ隠れるか……

「でも、僕には通れない……通る資格なんて、ない」

 僕はクローゼットの中へと逃げ隠れることにした。弱気だと自分でも思う。だけど、もう、全てがどうでもいい気がしてきたから……

 僕は意気消沈して宿直室に潜り、のろのろとクローゼットの中へと隠れた。

 足音は決して焦らず、緩やかに、一定の速度でクローゼットへと近付いていた。

僕は自分の死を想像した。奴の正体を掴むことは決して不可能で、ただ影の様な漠然とした存在に、僕は殺されるのだ。

 まだ奴の足音は止まらない。宿直室の扉が開き、限りなく僕の耳に近い場所で、その足音は止まった。

 奴の足音が止むのとは対照的に、僕の心臓の鼓動が加速した。奴の存在感そのものに、僕は潰されそうになる。心臓の鼓動が更に加速して、今にも心臓が破裂しそうだった。そうして、永遠にも思える時間の末、奴の足音がこの場から去った。おそらくは、多分。

「……」

 奴が去っても、僕はただ呆然としていた。

 十分ほど経っただろうか……いいや、体感時間など一切当てになるはずが無い、何も信じられるものなど無い。

 僕はクローゼットの外に出た。周囲を見回し、奴が居ないことを確認して、溜め息を吐いた。

 直後に足音がした。

「……ひどいや」

 待ち伏せ、呆気なく僕は殺された。


  4


 全身を叩き潰され、頭部を失った少女の死体があった。惨状を物語る血飛沫が、周囲に付着していた。


 僕の脳内に、これまでの経過がフラッシュバックした。


 奴の横を通り抜けて中庭へと進むか、宿直室のクローゼットに逃げ隠れるか……その選択に僕は迫られ、後者を選んだ。

 結果、隠れ切れたと思ったら待ち伏せされ、殺された。奴は容赦をしないと学んだ。

 木枯らしが吹いた。

「……死ぬのは怖いよ、嫌だ」

 たとえ、何度生き返れても。

 しかし、宿直室で隠れ切るのは不可能だと分かったので、僕は前者の選択肢――奴の横を通り抜け、中庭へと進む選択肢を選ぶしかなかった。

 僕は走って、奴の真横を通り抜けようとした。

 威圧感、

「あ……」

 僕は一瞬、足を止めてしまった。

 その一瞬が致命的だった。

 僕は、再び殺された。


  5


 全身を叩き潰され、頭部を失った少女の死体があった。惨状を物語る血飛沫が、周囲に付着していた。


 僕の脳内に、これまでの経過がフラッシュバックした。


「……」

 僕は倒れている女子生徒の死体を見た。

「二度と会うことはないわ死ね!」

 脳内に蘇る台詞、事実生きている彼女と二度と会うことはなかったし、僕も死ねと言われて死んだ。これからも、きっと何度もここで死ぬのだろう。

「あんたまだ死にたいワケ?」

 死にたいわけ、ないじゃないか。でも、僕は……この死から逃れられない。

「バッカみたい。さっさと走りなさいよ!」

 走れないよ。

 ……死者が僕に語り掛けて来る有様だった。ついに、僕の頭も壊れたらしい。

「走りなさい!」

 まだ生きている頃の、制服姿の彼女が僕の手首を掴んだ。幻に引っ張られる形で、何故か僕の身体は動き出した。

「もしも違う形で出会えたら良かったんだけどさ」

 彼女は走りながらそう言った。僕も同じことを思う。

 奴の威圧感、しかし身体は止まらない。

「じゃ、さよなら」

 彼女の幻が、僕を中庭への扉へと投げ飛ばした。僕は外の地面へと倒れ込んだ。

「あの人は……?」

 僕は倒れたまま、後ろを振り返った。

 死体は、同じ死体のままだった。

 僕は立ち上がり、土に塗れた服を払った。

 暗い夜の中、僕は体育館へ向かうことを決めた。

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