1話
「お父様、私は今日はどこにお出かけするんですか?」
「君の婚約者であるコミット・アル・ノーマン様の所だよ」
8歳の誕生日に父からその名前を聞いた瞬間、自分の中で電流のようなものが走る感覚を感じました。
その名前は私が前世で遊んでいた乙女ゲーム『蒲鉾で恋をして』に出てくる人気攻略キャラクターと同じ名前だったのです。
そして私、カニカマボコもそのゲームに登場する登場人物だったことも思い出しました。ずばり、主人公のササカマボコのライバル令嬢でした。
足元がふらつく感覚がしました。そのライバル令嬢は最終的に王子にゴミ箱へと捨てられ、誰にも食べられないままゲームから退場すると言う悲惨な結末でした。
そんな悲惨な目に合うカニカマボコに私がなっていたなんて……。自分の未来を垣間見たようで、とても怖い感情が渦巻きました。
「ど、どうしたんだいカニカマボコ。顔色が悪いぞ、お医者さんか栄養管理士を呼ぼうか?」
「……いえ、心配いりません。ありがとう、お父様」
「そうか? 気分が悪くなったらいつでも言うんだぞ」
お父様は優しい言葉をかけてくれました。きっとこの甘やかしがカニカマボコの成長に悪影響を及ぼしたんだろうけど、それでも私はとてもうれしい気持ちになりました。
その後私は、お父様と一緒に馬車で王宮へと赴きました。
もちろん婚約者であるコミット様と会うためです。
「ようこそいらっしゃいました。王子ともどもお待ちしておりました」
王宮に着くなり、執事らしき人物が私たちを出迎えました。
「ささ、こちらでございます。王子様がお待ちですよ」
執事に私は煌びやかな内装の廊下を通り、応接間と思しき部屋へと父共々連れられました。
「王子。カニカマボコ様をお連れしました」
執事がそう言うと、部屋の奥からひょこっと可愛らしい男の子が現れました。
青い瞳、綺麗な金髪、整った顔立ち。そこにいたのは紛れもなく『蒲鉾で恋をして』に出てくるコミット・アル・ノーマン様でした。
……が、私を見るなりコミット様は白目をむいて気絶しました。