防御特化と大規模戦闘2。
各所での戦闘が激化する中、それでもやはり主戦場は中央だ。メイプルの先制攻撃によって浮き足立った所を先頭切って駆けていくのはペインである。当然、先頭は最も危険な場所であり、倒すことができれば、戦力を大きく削ぐともに士気も上がるだろう。
「【断罪ノ聖剣】!」
勿論、できればの話だが。ミザリーの回復の上から次々にプレイヤーを斬り捨てて、奥に見える【一夜城】へ向かう。
ここまで派手に暴れているにも関わらず、ミィの炎は一向に放たれる気配がない。
それはつまり、このイベントでも一度放たれたあの大技。【黎明】を使っての強烈な炎を準備しているということだ。ただ待っていてもいつかは撃たれてしまう上、放たれればそれだけで相当な数の犠牲者が出る。
だからこそ、それよりも早くこちらが敵を壊滅させる必要がある。
「ペイーン!もー、結構無茶苦茶するよねー!ノーツ【輪唱】んー【多重障壁】!」
全員の足並みを揃えるためにバフをかけて、周りからの攻撃は障壁で防御する。フレデリカが気にしていた【thunder storm】のトップ二人と入れ違うような形となったこと、そしてミィがまだ静かにしていることもあり、防御は間に合っていた。
「ドラグとドレッド、それに【楓の木】が引きつけてくれている。戻ってこないなら、このまま本陣を破壊する」
共に前進する他ギルドの魔法攻撃の支援も受けながら、ペインの放つ聖剣の光が固まったプレイヤーをそのまま葬っていく。
「ああ、ったく。なんとか止まってくれないもんかあ?」
「あ、シンー、やっほー。お互い大変だねー?」
「本当だよ。ま、お察しの通りミィは準備中でね。今回も俺がきたってわけだ」
ミザリーとマルクスはテイムモンスターまで込みでも前線に立つようなスキルを持っていないため、こういう時にはシンが出るより他にない。シンはそう言いつつも、【崩剣】とウェンの【風神】により大量の刃を準備する。
「フレデリカ!」
ペインがフレデリカに短く合図を出す。それが意味するものはただ一つだ。
「えっ!?本気……みたいだねー。後で皆に謝っっておいてよね!【多重全転移】!」
範囲内にいる全ての味方のバフを強制的にペインに集約させる。パーティーの最大数では収まらず、本来の用途の限界を超えて、あらゆるバフが重ねがけされたペインはそのまま前に突撃する。
それを見たシンが全ての剣をペインに向けて放つものの、それは全てペインの体に突き刺さり、貫いて背後に抜けていく。それも、HPはほぼ減りもしないまま。
「はあっ!?」
ペインは防御など考えていない。何百というプレイヤーから全てのバフを集めたペインはその全てを受け、異様な量のダメージカットと持続回復効果によって一瞬で全回復する。
「レイ、【全魔力解放】【光の奔流】」
ステータスとバフの暴力でそのまま突っ込んでくる怪物を止める術などありはしない。
何とか止めようとするプレイヤーを全て斬り捨てて、距離を取ろうとするシンにはるかに上回る速度でもって最強の個が接近する。
「おいおい、バケモンが過ぎるだろ!」
「【聖竜の光剣】!」
振り抜かれた剣から放たれる光は、何百というプレイヤーの力でもって射程延長や攻撃範囲増加の恩恵を何重にも受け、部隊最後尾まで直線上に全ての存在を飲み込んだ。
「や、やばー……流石にいつもの感覚とは全然違うねー」
今回限り。特別仕様の【多重全転移】が引き起こした規格外の破壊力に、張本人であるフレデリカも目を丸くする。
しかし、光が収まるにつれて見えてきたのはHPを残して耐えている多くのプレイヤーの姿だった。減ったHPも奥に金の輝きを放つ大きな魔法陣が展開されたかと思うと回復していく。
「……【リザレクト】か」
「ご名答!マジ滅茶苦茶するな!流石にビビったぜ」
追撃は受けないようにとシンは【崩剣】を足元に置き遥か上空に避難する。
それでも、【リザレクト】の復活が届く範囲よりペインの異次元の射程の方が上回ったために、被害は甚大だ。
並の手段では引かせることどころか、その場に足止めすることもできない。
「何とか時間稼ぐぞ!じゃないと始まらねえ!」
「突き崩す!」
攻撃を受けて人数の減った【炎帝ノ国】の拠点へプレイヤーが殺到する。
一人、また一人と数を減らしてはいくものの、進撃は思ったように進まない。生き残れずとも構わない。目の前の戦いに勝つためではなく、時間を稼ぐために使われる無敵になるスキルや防御スキルは確かにほんの僅か敵の足を止めるのだ。
無理矢理突破するには、それこそペイン程の圧倒的な力が必要になる。
こちらにペインがいるように、あちらにも同じように突出した力は存在する。ギルドとして、陣営として勝つためと腹を括れば、ただの足止めに全てのスキルを吐くのも有意義だ。
「頼むぜミィ!吹っ飛ばせ!」
「ちょっ、ペイン!来るけど!本当に大丈夫なのー!?」
「全員固まれ!近くのモンスターもテイムするんだ!」
「……んん、何のつもりだ?」
初めから分かっていた制限時間。【炎帝ノ国】が築き上げた城の上に顕現した太陽は、じきに来る落下の時を待っていた。
イベント限定アイテムで、敵に向かって走るだけの近くのモンスターも味方につけて集めてはいるが、それを壁にしようともミィの炎は止まらないだろう。
「本当に大丈夫なんだよね?ねー!?」
「フレデリカ、腹を括れ」
「もー!」
敵が強気に出られない今が攻撃のチャンスだと反転してくるのをノーツと共に魔法で牽制しつつ、フレデリカは何かを待つように後ろを振り返る。
そこでは雷鳴と共に巨大な白い柱のように見える雷が空と地面を繋いだところだった。
「ミィ、待ってたっすよ!」
「もう、【避雷針】はありませんよね」
【過剰蓄電】により柱のようになった雷を纏うベルベット。相対するドラグとドレッドは致命傷こそ避けてはいるものの、満身創痍といった様子だ。アースは既に倒され、シャドウの回避スキルも使わされた。
ベルベットとヒナタは必ず対処しなければならないような脅威度の高いスキルが多過ぎるのだ。
「【過剰蓄電】がこれだけだと思わないで欲しいっす!」
ベルベットが天に手をかざすと、雷がベルベットの周りから逆流して空を照らす。二人はその動作で、このあと起こる事象を瞬時に理解した。空には分厚い雷雲が発生し、不穏な輝きを増し始める。
視界の先ではミィの生み出した太陽がその炎をより大きくして煌々と輝いている。
「止まんねーか……」
ドレッドはなら仕方ないという風にペインが向かった先、【炎帝ノ国】の城を見る。
そして、きっちりとタイミングを合わせて。雷と炎は地面に向かって拡散した。
「【雷神の槌】!」
「【黎明】!」
天からは雷光、地には業火が戦場を覆い、全ての存在を焼き、二種類の強烈な光は視界を埋め尽くした。
炎と雷が戦場を駆け抜け、覆ったのはほんの一瞬。されど、その一瞬を生き残ることは困難なはずだ。
こちらもまた、上手く時間を稼いだリリィとウィルバートは一体を焦土に変える凄まじい攻撃を眺めていた。
「流石。あの二人の攻撃はレベルが違うね……ウィル?」
「……リリィ、戦闘準備を」
怪訝そうな顔で言うウィルバートのその様子は、収まりつつある炎と雷の向こうで、敵陣営が想定以上に生き残っていることを暗に告げていた。
「さて、どういうカラクリなのかな……?」
収まりつつある炎の中、どうなったかと全員が固唾を飲んで見守る瞬間。訪れた一瞬の静寂にその声は妙に響いて聞こえた。
「【再誕の闇】」
直後、地面に広がるのは泥のようなベタベタとした黒い何か。そこから這い出るようにして次々に異形の生命が姿を現す。
それはどこか、そうどこか。
【暴虐】のそれに似ているような気がした。