防御特化と再出撃。
その頃、【集う聖剣】は深い森の中を進みつつ、順調に敵プレイヤーを倒し、戦力を削っていた。
「ノーツ、【ソナー】……少ないねー。左に六人、右に三人」
「六人の方から行こう。素早く、静かに接近する」
フレデリカもまたノーツのスキルによって遠距離から一方的な索敵を行なっていた。
先に居場所が知られてしまえば、待っているのは物陰から放たれる突然の凄まじい魔法攻撃であり、量、質共に優れたそれに押し潰されるようにプレイヤーが倒れていく。
かろうじて生き残ったプレイヤーもペイン、ドレッド、ドラグによる逃げ道を塞ぎながらの素早い追撃によって、後を追うように倒されることとなる。
サリー達の作戦がはまったこともあってか、想定よりもプレイヤーが少なく、余裕を持って撃破することができていた。
「本当に向こうに行ってるみてえだな。均等にプレイヤーを配置したよりも少ねえぜ」
「ここ以外のどこかに寄っているわけだ。戻ってきたら面倒だ。さっさと倒せるやつは倒していこーぜ」
「もうちょっと待ってねー。これでもノーツにクールダウン短縮の魔法かけてるんだからさー」
ノーツのスキルが上がる度に範囲内のプレイヤーが消えていく。順調。現状はその一言だが、しかし今の状況は順調過ぎるとも言える。
「逆側は警戒しておくように言ったが……少し心配だな」
ここまで敵が少ないということは【集う聖剣】がいたとされる逆側により多くの人員が割かれたということになるだろう。
となればそちら側はかなりの不利を背負うことになる。
「俺達はこのままいくしかねえぜ。ここで戻ってたら意味が分からねえからな」
「ああ。それに、【楓の木】も町の近くにいるんだろ。ならそうそう簡単には崩せねーよ」
「……そうだな。こちら側で作れるだけ有利を作らせてもらおう」
「ノーツのスキル上がったよー」
それを聞いて、ペイン達は次の標的を見つけるために再び進軍を開始する。
ただ、ペインには一つ思うことがあった。サリー達による偽物の【集う聖剣】の対処に向かったのだとしても、こちら側のプレイヤーの数が少なすぎると。
「どこかで大きな部隊を動かしているのか……?」
相手には相手の思惑がある。攻めなければ勝てない以上敵陣営もどこかで攻勢に転じるだろう。
「フレデリカ。戦闘中、最低限のバフをかけたなら残したギルドメンバーと連絡を取り合うことを優先してほしい。敵が大部隊を動かしている可能性が出てきた」
「……!りょーかい」
「その上でまだ引き返さない。敵が見えたと連絡が来た瞬間から、皆には派手に暴れてもらう」
「……放置していていいのかってことか!」
「オーケー。迷わせるってーわけだな」
「ギリギリまで残ってから退く。損害を少しでも大きくさせたい」
ペインの指示に全員が頷く。こうして【集う聖剣】はさらに集中力を高めて、さらに進軍を続けるのだった。
イズのアイテムを設置し終えて、外壁前には大量の大砲とバリケードが並ぶ防衛ラインが完成した。
「皆助かったわ。壊されない限り消えたりしないように作ってあるから、イベントが終わるまで活躍してくれるはずよ」
「そりゃあすげえな。で、どうやって使うんだ?」
「ふふふ、近くで待機する必要もないし、なんと砲弾も必要ないのよ。敵が近づいてきたら自動で撃ってくれるわ」
まさに自動砲台というわけだ。攻撃は苛烈であればあるほどいい。いつ仕掛けられても迎撃してくれる大量の砲台が町のすぐ前にあるというのは心強い。
「でも、ここまで攻め込まれちゃってるってことは状況も良くないってことだから、使わないで済むならそれが一番いいわね」
外壁前での戦闘になれば、止めきれなかったプレイヤーから順に町に侵入していくことになる。それ以外にも、戦闘中のどさくさに紛れて空を飛んで抜けられる可能性もあるだろう。
町のすぐそばで戦うのは敗北に直結するリスクがあり、町から離れたところで戦うのは撤退できずに大きな被害が出る確率を高める。
上手くバランスを取って戦うのが重要だ。
そうこうしているうち、また町の中から多くのプレイヤーがぞろぞろと出てくる。どうやら先程メイプルと共に出撃したギルドの面々を中心として、強力なスキルがクールダウンに入ったプレイヤーが交代して再編された部隊のようだった。
「また出撃するみたいですね」
「メイプルが守ったことで被害はほぼなかったわけだからな。すぐ出ていけるってことだろ」
「うぅ……今回はついていけないかも」
メイプルは貫通攻撃を受けてしまうと一撃死がありうる状態であるため、気軽に最前線に向かうことはできない。
「メイプルは今は戦闘はできる限り避ける方向で。っと……フレデリカから?」
大部隊を見送ってさてここからどうしようかと考えていたサリーにメッセージが届く。
そこには敵陣営が多くのプレイヤーを動かしている可能性があることと、【集う聖剣】に狙いが向くまでこのまま攻め続ける予定であることが書かれていた。
「ちょっと予定変更で。どうやら様子見ばかりしてもいられないみたいです」
サリーなメッセージの内容を共有すると、全員がやるべきことを理解した。
「敵も大部隊となると進める場所は限られてくる。マップから予測できるかもしれない」
そういうとカスミは事前に作成したマップを開き、拡大して空中に表示する。
多様な地形があるこのフィールドでは大部隊で通り抜けにくい地形も多々あるのだ。それはダメージを受けるものであったり、単純に狭いものであったりと様々だが、それを事前にマップに書き込んである【楓の木】ならより正確な予測ができる。
「やっぱ進みやすいのは中央か」
「そうね。その辺りは広いし、変な効果の地形もないもの」
先程出撃した大部隊も中央を進んでいくようだ。であれば、今回は大規模な衝突が考えられる。
「ついて行くか?メイプルがいないからできることなら大きな動きはしたくないんだが……」
「前線にいれば【集う聖剣】のサポートもできますし、必要な方に寄る……ちょうど間を進むような感じで」
それがいいと、賛同を得て方針も決まり、次はメンバーだ。【楓の木】の中で極端に機動力が落ちるのはメイプル、マイ、ユイの三人だ。役割としては遊撃部隊であり、できる限り見つからないように進みたいため、乗るために【巨大化】が必要なシロップやツキミにユキミ、移動速度こそ上がるものの、この上なく目立つ【暴虐】は使いにくい。
「カナデも呼んで五人で行きましょう。イズさんはどこかのタイミングで敵陣に送り込みたいので」
「分かったわ。クロム、防御は頼むわよ?」
「おう、任せろ」
「カナデには私がメッセージを送っておこう。町の中にいるはずだ」
「じゃあ、私はマイとユイの二人とお留守番だね!」
「うん。何かあったら近くの味方を頼って。勿論メッセージをもらえれば最速で戻るから」
「うん!大丈夫!」
こうしてメイプルは町から出てきたカナデと入れ替わるようにして防衛に戻っていく。
「うし。なら行くか」
「穏便に済むといいんだけど……まあそうもいかないかな?」
「その時は全力で戦うより他にない」
「いつでもいいわ。アイテムの準備も万全よ」
保有しているアイテムの最終確認をして、準備が整うと、マップが完全に頭に入っているカナデとサリーを先頭に、五人は先に出発した大部隊を追いかけるのだった。