防御特化と爆破。
「お、メイプル達がメダルを獲得したみたいだ」
「恐らく湿原にダンジョンがあったのだろうな。サリーのマップを目安にするのは正解なのだろう」
森の方へと向かった四人は基本的に【超巨大化】したハクの頭に乗った状態で移動している。
モンスターはイズがアイテムを、カナデがデバフをばら撒いたところをハクで絞め殺すのが基本になっている。
クロムやカスミは遠距離攻撃がそこまで得意ではないため、攻撃をくぐり抜けてきたモンスターを撃退する役割である。
「三日間とはいえ、しっかり準備してきてよかったわ」
イズの強みは全て多様なアイテムによって生み出されている。当然、それが一種類なくなる度できることは少なくなっていく。
通常の生産職とは違いゴールドからアイテムを作り出し、さらにどこでも工房を使えるイズはゴールドさえあればアイテムを補充できるのだ。
ギルドホームが何軒も建つ程のゴールドを用意したイズに死角はない。
「あ、そろそろサリーの目印がついたポイントじゃないかな」
「よし、気合入れて行くか!」
ズルズルと這いずっていくと、その先には魔法陣のようなマークが付いている木があった。
「恐らくあれだろう。周囲には特に何もいないようだが……」
「触れてみるか?魔法陣みたいだしな」
全員が賛成して、カスミがハクの頭を寄せて魔法陣に触れる。すると予想通りに模様から光が発せられて全員が本戦フィールドから移動する。
そうして移動した先は同じく木々に囲まれた森だった。唯一の違いは、木々の向こうに大木や蔦でできた壁があり、それが一周ぐるっと四人を囲んでいることだった。
広さはそれなりにあり、即戦闘かと身構えるものの、周りからは何の気配もしてこない。
「何もいないってことはないよな」
「そうね」
そうして警戒していると、突然風切り音が聞こえ、一早くクロムが反応する。
「【カバー】!」
キィンと音がして飛来物が弾け、宙に舞う。クロムがさっと素早くそれを確認する。
そこには導火線からバチバチと火花が散る爆弾がついたクナイが三本舞っていた。
「ちっ、カナデ頼む!」
「ソウ【対象増加】【精霊の光】!」
カナデの姿に化けたソウが魔導書を取り出し防御スキルを発動する。その直後、轟音と共に凄まじい爆風と爆炎が吹き荒れる。
それが収まった時、HPは減少しているものの、全員が無事に生き残って立っていた。
「ソウに使わせるとダメージ無効効果はダメージ軽減に弱体化しちゃうけど、まあ十分でしょ?」
「ああ、助かったぜ」
「回復しておくわね」
「さて、どこから攻撃されたのか……」
「飛んできたのがクナイってことは忍者とかそんな感じか?あの威力だとばらけて探す訳にもいかないしな……」
攻撃方法がクナイだけとは考えにくい。HPが低いカナデとイズは下手に攻撃を受ければ、ものによっては即死もありえる。
「しばらく探してみる?ソウがいれば回数制限があるような強力なスキルでしのげはすると思うよ」
「そうしてみるか。まず姿が見えないことにはな……」
まずは姿を確認することとした四人だが、森の中を回れど回れどそれらしき姿は見つからず、ひたすらにあちこちから飛び道具が飛んでくるばかりである。
「んー、カナデが溜め込んだ魔導書のお陰で何とかなってるが……見つからねえなあ」
「どうしたものか。上手く接近できさえすればな」
悩んでいるとイズがしばらく言うかどうか迷った後で口を開く。
「そうね……荒っぽい方法でいいなら手はあるわ」
「へー、どんなの?」
「ここは広さが決まっているみたいだから……準備に時間はかかるけど空間全部爆破するわ」
「なるほど……なるほどな?いや、ま、アリだな。アリだ」
イズからそんな言葉が出てくる日が来るとはと言った様子でクロムがたじろぐが、このままやっていても仕方がないということでその案でいくことに決定した。
「予選でもやってたあれだよな?」
「そうよ。ただ、新アイテムの制作も間に合ったから、上空も対応できるわ」
そう言ってイズはアイテムを取り出す。それは箱にプロペラが付いており、真下に紐が伸びているアイテムで、イズはそれに爆弾をいくつか括り付けると上空へ舞い上がらせる。真っ直ぐ上空に登っていくそれはある程度で上昇をやめる。
「結構コストは高いけれど……出し惜しみもしていられないわ」
「またえっぐいもん作ったな……起動は?」
「専用のアイテムがあるわ。樹上はこれに任せて、地面と幹に仕込みましょう」
「爆破されたなら爆破仕返すってか……俺達は?」
「中央だけは安全圏として残すわ。アイテムは平等にダメージを与えるから、間違って安全圏から出ないでね」
用意された安全圏から飛び出せばクロムですら命の保証はできない連続ダメージと大量のデバフ、状態異常が降りかかってくる。
ソウの魔法とハクの巨体での防御で設置アイテムを守って、森の中をぐるぐると回り爆発物を敷き詰めていく。
「よし、準備完了。すごい音が響くのと、眩しいから気をつけてね」
予選と同じように空中に張り巡らされた水の糸に電気を通すと森の中に轟音が響き渡る。
それは敵のクナイの爆発攻撃がちっぽけに感じられるほどで、安全圏を除く森の空間全てを焼き払った。
「流石に倒せてはいないはずよ!」
「うん、予定通りやろう。【暗殺者の目】!」
カナデが【神界書庫】により今日限り使えるスキルで、状態異常がかかったモンスター及びプレイヤーへのダメージを増加させ、位置を把握できるようになる。
「いた!」
「いくぞカスミ!」
「ああ!」
クロムはネクロを纏い鉈のリーチと威力を上げ、カスミは両脇に武者の腕を呼び出し、一気に接近する。そこには毒を受け、体が麻痺し、凍りながら燃える無残な忍びの姿があった。
「【終ワリノ太刀・朧月】!」
「【死霊の泥】!ネクロ【死の炎】!」
姿が見えてしまえばあとはあっけないもので、二人の攻撃をもろに受けて、忍びはHPを全損させて消えていった。
「ふう……よし、何とかなるもんだな」
「終わったかしら?」
「ああ。まあ……確かに死んではいなかったが、似たようなものだったと思う」
「良かったよ。流石にダメージ軽減スキルもなくなってきてたところだったからね」
ここで、メイプル達がそうだったように通知が鳴って、メダルが獲得できたことが伝えられた。
「うし、一日目でいきなりこれならかなりいいだろ!」
「森をいくつか越えたし、今回も結構時間がかかったから、意外に時間が過ぎているわね」
「もう一つ二つ探索したところで合流かな。タイマーを見るにどうやら夜は強いモンスターが出るみたいだし」
「そうだなあ。ハクのお陰で楽に移動できているけど、結構進んだもんな」
メイプル達と連絡を取り、あまり離れ過ぎないようにしつつ、また夜を過ごす場所を探しつつ、クロム達四人も次なるダンジョンを目指して探索を続けるのだった。