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26-1 主様の正体

 主様との遭遇戦はタイミングが悪かったにしては結果が良かった。決戦の日が確定したので、今後は予定を組んで行動する事ができる。

 卒業式まで一週間と数日。余裕があるとはいえ、悠長に過ごしてはいられない。時刻は既に誰もが寝静まっている深夜二時であるが、全員セーフハウスのリビングに集合していた。

 桂も含めて、だ。魔法少女と反りが合わない桂がこれまでセーフハウスを訪れた事はない。が、今回の主賓しゅひんは彼女である。

 主様の傍にいた桂は、主様について第一人者だ。


「桂さん。まだ体調が回復していないところ申し訳ないですが、主様について教えていただけますか?」

「わたくしにしかできない事です。気遣きづかいは無用ですわ」


 桂には長机の短辺に座ってもらい、近場から俺、天竜、皐月、浅子、来夏、秋と並ぶ。

 そしてスペシャルオブザーバーとして、リリームにも席についてもらった。勇者パーティーの一員であったリリームも主様について詳細な情報を持っている。

 ちなみに、恐怖の対象である俺と同席しているが、距離があるため精神的には安定していた。


「まず、主様の正体について教えてもらえますか?」


 主様と戦ったばかりの俺達が一番知りたい情報である。植物の根を操作して、樹木の体で人間に擬態ぎたいしていた事から、植物系のモンスターが正体である事は想像できている。

 だが、植物のモンスターと聞いて思い当たる有名どころはない。知っているのは地面から抜くと叫ぶマンドラゴラぐらいだ。



「主様の正体は、樹齢三千年の古樹が魔族化したものです。魔族となったのは二百年前ですので、有象無象が生きる魔界では新参者となります」

「二百年前では我が知らぬもの仕方がない。その頃はもう異世界こちらやしろで寝ておった」



 天竜はかつて魔族として、強食が正義の魔界で勝ち残っていた生き字引だ。


「誰がババアだ」


 ……魔界のスペシャリストだ。最近の魔界事情にはうといが、魔王との戦い方の教えをう相手として、これ以上の者はいない。


「……ん、主様とやらはたった二百年で魔王となったのか?」


 天竜は素朴そぼくな疑問を口にした。魔界では百年単位で新人時代が続くらしい。


「魔族化してからすぐに周辺の領土主張をしていた魔王を抹殺し、その後も数体の魔王を討伐した事で存在を知られるようなった、と主様はおっしゃっておりました」


 異世界の魔界において、魔王とは戦国大名とイコールの関係にある。だから何体も同時に存在するのだが、どいつもレベル100相当の化物だ。ただの量産品ではないので普通はそう何体も討伐されない。


「発言、よろしいでしょうか」


 リリームが俺に遠慮しながら手を上げた。うなづいて許可してやる。


「討伐不能王の領土は小さいですが、実力はかなり上位に位置する魔王です。人類の生存圏と領土を接するので、数度の勇者遠征が行われておりますが、すべて失敗しています。そのため、討伐不能王と呼ばれています」


 リリームは桂の説明の補足を行った。

 異世界では、レオナルドのように、まれに現れる勇者が腕試しで魔界の遠征に出掛ける事があるようだ。命知らずな行動なので、成功率はあまり高くない。

 ただ、ここ数百年の成功率が極端に低い理由は、主様が返り討ちにしているからである。


「不思議じゃな。交戦した感じ、そこまでの力を持った魔王とは感じられなかったが」

「主様はパラメーターではなく、スキルに特化した魔族ですから。『魔』の気配だけでは判断できなくても仕方ありませんわ」

「ならば、なおさら不思議じゃ。たった一度の決戦であればスキルは脅威となろうが、数度あった戦闘でスキルを研究されず、同じ手が何度も通用したとは思えぬ。生存率と相関があるのはパラメーターであって、スキルではない」


 異世界出身者の定説を天竜は語る。

 圧倒的な『力』と強固な『守』と敵に先んじる『速』、これこそがサバイバルな異世界を生き残る最大の秘訣ひけつだ。一芸にしかひいでていないスキルはまったく役立たない訳ではないが、対策を立てられるともろい。

 開幕戦の一試合だけを完封するピッチャーと、一シーズンを継続的に勝利を重ねるピッチャー、どちらが評価されるかは言うまでもない。


「……主様は歴史や伝統ある純血の魔族ではありませんが、異世界では誰もが知っている古樹の傍系に属しますわ――」


 主様の正体を知っているリリームのみが深刻な顔をしている。

 天竜は異世界を知っているからこそ不思議がっている。

 そして、地球人の俺と魔法少女はふーん、としか思っていなかった。



「――主様の原型は、魔界に持ち込まれた世界樹の種から発芽した樹木です」



 世界樹とは、異世界における常識である。

 世界の中心に生えているスカイツリーよりも巨大な木、との事であるが、やはり魔法のある世界の樹木はスケールが違う。

 どういった品種に属する木なのか、どうやって受粉し種を生み出しているのか分かっていない不思議な木でもあるそうだ。

 だが、誰もが知っている特長がある。


「世界樹の葉には、どんな病や傷もいやす効果があります」


 魔界とはまた異なった秘境に存在するため、世の中に流通している訳ではないらしい。ただ、貴族が家を傾かせるぐらいの金を支払えば入手可能な、実存する奇跡のアイテムである。

 効果の程は、俺達の中では俺と来夏、秋が経験済みだ。


「ッ! 馬鹿な! 世界樹は神がその手で植えたと言われる程に神聖をびておる。瘴気と血で汚染された魔界で発芽するはずがなかろう!」

「はずがない。絶対にない。そういった非常識を超越しているからこそ、主様は魔界においても特異なのですわ。由来ゆらいが神聖だからでしょう。魔王としては温厚な性格をしています」


 世界樹の種が魔界に持ち込まれた経緯は不明である。人類圏に近い事から、人間族の冒険者が魔界に持ち込んだとされているが、噂の域を出ない。

 魔界の汚れた土と水で育った世界樹は、その本質すらも汚染されてしまった。体をいやす奇跡の力こそ失われていないものの、それが人類と敵対する魔族にもたらされるとなれば脅威の程は計り知れない。

 実際に、今俺達が主様の脅威に直面している。



「主様は『奇跡の力』というスキルを所持しています。効果は『奇跡の葉』が永続的に作用するものです」



 討伐不能王と呼ばれる主様。スキルの正体は名前負けしていない。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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