第1章 太子の夢
──プロローグ:神の言葉を継ぐ者──
風が、神殿の大屋根を揺らしていた。
古き香木の香りが、白い薄布の奥からただよい、若き皇子の鼻をくすぐる。
その少年の名は――アマノ・トオヒト。
まだ十二の齢。だがその眼には、老臣たちもひれ伏すような深い影と、焔のような光が宿っていた。
「問おう、アマノ。神は人に、何を望むと思うか?」
問いを投げたのは、国一番の聖なる男――カガミノ・セイカ。
その声は静かに、しかし確かに、この国の未来へと響く音だった。
アマノはしばし目を伏せ、そして答えた。
「……嘘を、つかぬことです」
セイカは微笑む。そしてその横で、イモリ・ノ・ミオが巻物を広げ、風を背に、異国の地図を差し出す。
「その“嘘”のない国を、この地に築けるか?」
神は沈黙していた。
だが、アマノの胸に灯った火は、その日から消えることはなかった。
それが、全ての始まりだった――。