河津桜商店駅前店（かわずざくらしょうてん えきまえてん）

　田舎の駅前にある個人商店「河津桜商店」に通う、高校生から大学生の若者たちの群青小説。５編の短編から構成されるオムニバス。若者たちは春夏冬商店の素朴な老店主に悩みを打ち明け、励ましやアドバイスを受けながら大人になっていく。
　１話ごとに１年づつ時間が進み、登場人物たちは出会いと別れを繰り返して成長する。

「１７歳：試作品」
　高校２年生の春。田舎の平凡な高校生の航大は、波風のない日々に退屈を感じていた。彼はある日、眉目秀麗な友人の男子・宮瀬とともに、古びた個人商店の「河津桜商店」に立ち寄る。レトロな雰囲気を気に入ったふたりは、帰り道に頻繁に訪れるようになり、そこで近隣の女子校に通う古風で清楚な女子・唯と出会う。ドラマチックな出来事を探していた航大は、唯との出会いが運命だと確信し、急速に仲を深める。

「１８歳：嗜好品」
　高校３年生の夏。「１７歳：試作品」のヒロインの唯と同じ田舎の女子校に通う加藤は、要領がいいが斜に構えた性格の女子。彼女はひょんなことから、違うクラスのマイペースなギャル・安田と知り合う。教室に居心地の悪さと閉塞感を覚えるふたりは、授業をさぼって真夏の屋上で時間を共有しはじめる。

「１９歳：試供品」
　大学１年生の秋。田舎の国立大学に通う内向的な女子・まことは、同級生の王子様のような容姿の男子・宮瀬に一目惚れし、距離を縮める方法を模索する。　「１７歳：試作品」の主人公の友人の宮瀬は、飄々とした雰囲気と気遣いでまことを魅了し、彼女の大学生活に華を添える。

「２０歳：代替品」
　大学２年生の冬。一見知的で穏やかな男子・宮瀬は、実際は女癖が悪く軽薄な性格。　「１７歳：試作品」の主人公の航大の友人である彼は、航大の高校の頃からの恋人の唯と不適切な関係を持つ。唯は罪悪感なく宮瀬のアパートを訪れるが、唯の自由奔放さに惹かれる宮瀬は葛藤し思い悩む。
　
「２１歳：模造品」
　大学３年生の春。宮瀬や唯と同じ大学に通う社交的で快活な女子・綾乃は、同じ大学に彼氏はいるが倦怠期。綾乃の好みは同世代のイケメンだが、浮世離れした哲学の中年教授にふとしたことから興味を抱き、研究室に足繁く通いつめる。彼氏との仲をおろそかにしながら教授と懇意にする綾乃は、自分の優柔不断さを嘆きつつモラトリアムに浸る。