歌の話

今日も私はあそこにいくの あの人と会いに行く これは私の人生の指針の話 これがなくてはいけないの これは忘れちゃいけないの 手を離さなければ助かったはずのあの彼の トラックに引かれたあの彼//

これは一人の男の実体験 僕は何十年経ったあと一人であの事を 思い出す 犬の頭を撫でながら キセルで煙を吐きながら 暖かさに目を細めながら 彼女に叶わなかった思いを投げ掛ける 今は亡きあの人//

今日も今日とてピエロは立った 今日も今日とてピエロは躍る 滑稽な無様な奇想曲 痛々しい奇想曲 それでもピエロは立ち上がる 石を投げられ額に血を流しても 立ち上がる 何でそこまで踊るのさ 誰か//

これはピエロのお話さ 死ぬまで躍るピエロの楽しい悲しいお話さ 僕はあの歌を思い出す ピエロが歌った不思議な歌を

少年は今日も走る 今日も走って走るのさ たった一人の少女のために たった一人の友達のために たった一人の想い人のために 走って走って走るのさ

少女はただ待ちわびる 叶わぬ願いを投げ掛ける 少年に叶わぬ願いをただ望む 神にでも天にでもなくただ 少年に投げ掛ける その姿はただただ痛々しい だがそれ故それ以上に美しい 少女は口ずさむ //

一人の人間はただただ奏でる この世の伝えきれない喜びを この世のとどまることを知らない悲しみを 音色に込めてただ語る 届かない音色をただ語る そして人間はただ思う 〝これはあなたの■■■〟//

僕はただ思い出す 空を見ながら思い出す あそこで生きた彼のことを ただただ僕は思い出す 骸と銃と血潮が吹き荒れた あそこで聞いた音色を心で思い出す もうひとつついでに思い出す そして僕は口ずさ//

少年は恋をした 叶わぬ願いを胸に込め 叶わぬ想いを抱きしめて 今日も楽器を手にとって 貴女のもとへと参ります そしてこう歌います 〝これはあなたの■■■〟 〝これは私の■■■〟

私の心は氷のように 冷たく冷たく出来てるの 痛く痛く出来てるの でもあなたは今日もいる そして最後に歌うのよ 〝これはあなたの■■■〟 〝これは私の■■■〟

生まれてきた子供を 慈しまない母親はいない 望まない子供でも慈しまない母親はいない 子供とは赤子とは慈しまれるために 生まれるのだ そして母親は子供の幸せを願って 子守歌を紡ぎだす 幸せそうに//

男は想い出す 無償の愛をくれた母親を 返す前に消えてった母親を 動かない母親を すがり付いて呼んでいた かつての自分と一緒に想い出す

老いぼれた軍人は 昔のことを思い出す 昔の自分を思い出す そして軍人は何を思って想うのか 軍人は何を思って動くのか

少年はただ踊る 一人の少女を想ってただ踊る 心を込めて終曲を 踊って踊って舞い踊る 幸せそうに舞い踊る

踊り子は踊る 命の限りに舞い踊る それはさながら蝶のよう 儚く華麗に舞い踊る そうさ少女は踊り子さ 夢を踊る踊り子さ

少年はただ踊る 心の少女とただ踊る 幸せそうに舞い踊る この世の全てを知りながら この世の全てと舞い踊る この世は不思議で溢れてる これもひとつの不思議だね

少年はホールの中にいる 多くの人に囲まれて 多くの人の前で歌うのだ だけれど一人の少年は 少女のために送るのだ それはとっておきの独奏歌 甘く切ない独奏歌

少年は踊る 夢の国で踊るのさ 可哀想と思うかい 悲しいことだと嘆くのかい ならこれを見てごらん これは一人の少年の夢の国でのお話さ

今日も少女は待っている 少年の帰りを待っている 隣に静かに寄り添って あなたの笑顔を待っている

今日も一人は紡ぎ出す 言葉を出さない歌にのせ 今日も少女に送るんだ 二人に言葉の影はなく それでも二人は語るんだ 二人だけの無言歌を

二人は歌う無言歌を 枯れた喉で紡ぎ出す 声出ぬ声で歌い出す 一人の少女は亡骸で 一人の少年は生きていて それでも二人は通じ会う 二人の歌で通じ会う これは二人の無言歌さ 二人だけの無言歌さ

これは少年少女のお話さ これは喜劇でもなければ 悲劇でもない ただ三人の歌が重なって 紡ぎ出すお話さ

人と人は繋がると 心の底で繋がると 僕はどこかで聞いたんだ 僕の耳で聞いたんだ 僕は今日も傾ける その証拠に傾ける