『記憶の星暦盤』

戦後の日本、信州の山奥にひっそりと建てられた天文台。
人々はその建物を、いつしか「氷の城」と呼んだ。

学者・相馬輝朗（てるあき）と水沢敦史は、かつて同じ研究室で星を追い、夢を語り合った親友同士。
しかし戦場を経て帰還した輝朗の手には、一枚の煤けた鉛の円盤が握られていた。
　――『星暦盤（せいれきばん）』。
それは“人の記憶を喰らい、代わりに安らぎを与える”という、禁断の装置だった。

夜ごと、天文台には奇妙な音が響く。
観測機の影に潜む黒い獣。
夢の中で呼びかける声。
そして、かつて失った誰かの名が、雪の夜に再び囁かれる――。

「記憶を失う代わりに、苦しみが消えるのなら。あなたは、その選択を受け入れるか？」

友情、罪、救済、そして記憶。
誰もが忘れたい痛みを抱えて生きる昭和の時代に、“記憶を喰らう盤”は、静かに人々の心を侵していく。

星を読む者。
夢を記す者。
そして、記憶を封じる者。
それぞれの想いが交差するとき、運命の歯車はゆっくりと動き出す。

――これは、ひとつの盤に関わった人々の“星と記憶の物語”である。
　失われた時代に刻まれた痛みと祈りを、あなたの心に映すために。