魔王変遷奇譚

「やぁ、初めまして――君」

　少女が言葉を紡ぐ。
　彼女はボクを見てはいない。しかし、それはボクに向けて言い放たれた言葉だと、理解出来てしまった。
　周りに人の気配はない。本と書架で構成されたこの空間には、彼女とボクしか居ないのだから。
　銀鈴の声が澱んだ空気を震わせる。
　その容姿からは想像も出来ないような大人びた声音に、ボクは言葉を失った。

「君に観てもらいたい物語があるんだーー」

　重厚な音を辺りに響かせ、閉じられた本がその表情を見せる。
　不思議な装丁だ。
　黒としか言いようがないほど、様々な色が混じった表紙。
　だが決して、古びたとか汚いなどの印象は覚えない。
　そんな不思議な本だった。

「これには神話と数々の伝承が綴られている。なぁに心配することはない。君はみるだけでいいんだ。ただ、みるだけ」

　彼女は机に載せた本を押し出し、向きを変えながら続ける。

「ーー世界の歴史。人々の暮らし。時に笑い、時に泣き、怒って、抗い、争って、殺し続けた……七人の記憶」