ホラー短編集

私の住む古いアパートでは、蛇口をひねるたび、誰かの記憶の「味」がした。上の階の笑い声、隣の老人の孤独。だが、ある日、空き室のはずの真下の部屋から、「恐怖」の味が流れ込んできた時、私は、この建物の本当の//

町の外れにある「覗き込んではいけない」と噂の古井戸。肝試しで井戸の底を覗き込んだ僕は、何も見えずに胸をなでおろした。だが、その夜、僕が家の蛇口から水を飲むとき、コップの水面に映っていたのは、井戸の底か//

終わりのない干ばつ。僕は、全財産をはたいて、最後の一滴の「水」を手に入れた。命を繋ぐその一滴を、飲もうとした瞬間、僕の脳内に、か細い声が響いた。「飲まないで。私は、滅びた世界の、最後の海なのです」。究//

最新のマッチングアプリが、僕に「完璧な恋人」を見つけてくれた。僕たちは、まるで一つの魂のように惹かれ合った。だが、彼女の、その異常なまでに僕を愛する理由を知った時、僕は気づく。このアプリは、恋人を「見//

砂漠で死にかけていた僕たちが見たのは、奇跡のオアシス都市。蜃気楼だと思ったその街は、確かに存在し、僕たちを救ってくれた。だが、その街の住人たちが、僕たちに決して「街の外」へ出ないように懇願する時、僕た//

大雨のあと、僕は不思議な水たまりを見つけた。空を映すその水面は、宇宙に繋がる「窓」だった。好奇心で、その向こう側を覗き込んだ僕。だが、僕がずっと見ていた「宇宙」の、想像を絶する正体を知った時、全ては手//

深夜のプールで一人、泳ぐのが俺の密かな楽しみだった。誰もいないはずのプールで、何かが俺の足に触れるまでは。監視カメラに映っていたのは、俺に手を伸ばす、水でできた「何か」。そして、このプールに隠された、//

「決して振り返ってはならない」と噂される、霧の深い吊り橋。肝試しに訪れた僕たちは、霧の中で、親切な声に導かれ、無事に出口へとたどり着いた。だが、友人が、声の主へ、禁じられた感謝の言葉を口にした時、僕た//

最新式の冷蔵庫。その自動製氷機が作る氷は、水晶のように透明で美しかった。だが、氷の中から、髪の毛、爪、布切れが見つかり始める。メーカーは「異常なし」と繰り返すばかり。僕たちが、屋上の貯水タンクの中に「//

僕の故郷の村には、川の神様に「捧げ物」をする古い風習があった。だが、未曾有の干ばつの年、村の長老は言った。「今年の捧げ物は、特別でなければならぬ」と。僕は、その「捧げ物」の、本当の意味を知ってしまう。

貧しい漁村に暮らす僕が、嵐の日に拾ったのは、一つだけ願いを叶えるという「人魚の涙」だった。「村を豊かにしてくれ」。僕の切なる願いは、最悪の形で叶えられた。海は、与えるために、まず、全てを奪っていくのだ//

僕が外に出ると、必ず、僕の頭上にだけ雨が降る。人々は僕を呪われた「雨男」と呼び、避けた。僕は運命を呪い、空に叫んだ。その時、僕を追い続ける、悲しい「何か」の正体を知ったんだ。これは、呪いではなかった。//

スランプに陥った作家の僕は、海から聞こえる、無数の物語の囁きに導かれる。そこは、全ての「書かれなかった物語」が眠る、言葉の海だった。僕は、最高のインスピレーションを得る。そして、二度と、そこから還るこ//