- あらすじ
- 紙漉きの里に暮らす千代は、亡き兄・朔に言えなかった言葉を抱えたまま春を迎えていた。3月18日の「精霊(しょうりょう)の日」、山の社が一夜だけ開くという噂を聞いた千代は、半紙と筆を携え霧の鳥居をくぐる。
社で待っていた社守・榊は告げる。供物は「言の葉」だけ。紙に書き、息を吹きかけ、灯明にかざせ。嘘や他人を縛る言葉、己を傷つけるだけの言葉は燃えず、重く戻ってくるのだと。
正しい言葉を探して書けずにいた千代は、兄との最後のすれ違いを思い出す。「勝手にすれば」と突き放したのは、置いていかれるのが怖かったから。ようやく真の言葉を半紙に落とし、息を入れて灯に捧げると、文字は淡く光る“葉”となってほどけ、風に乗って社の奥へ流れていく。そこを通り過ぎたのは兄の声ではなく、兄の癖や温度のような気配だった。
榊は言う。言葉を供えた者はひとつ忘れるのだ、と。忘れるのは兄ではなく、自分を責め続ける棘の声。千代は参拝札を受け取り山を下り、里へ戻る。母の前で、千代は初めて自然に言える。
「ただいま。ありがとう」
春の境目はまだ冷たい。けれどその中に、確かに柔らかいものが混じっていた。 - Nコード
- N8472LV
- 作者名
- 星空子猫
- キーワード
- 精霊 言霊
- ジャンル
- ローファンタジー〔ファンタジー〕
- 掲載日
- 2026年 03月18日 19時00分
- 感想
- 0件
- レビュー
- 0件
- ブックマーク登録
- 0件
- 総合評価
- 0pt
- 評価ポイント
- 0pt
- 感想受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - レビュー受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 誤字報告受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 開示設定
- 開示中
- 文字数
- 6,030文字
設定
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の日にだけ開く社、供物は言の葉
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから
同一作者の作品
N8472LV|
作品情報|
短編|
ローファンタジー〔ファンタジー〕
紙漉きの里に暮らす千代は、亡き兄・朔に言えなかった言葉を抱えたまま春を迎えていた。3月18日の「精霊(しょうりょう)の日」、山の社が一夜だけ開くという噂を聞いた千代は、半紙と筆を携え霧の鳥居をくぐる。
社で待っていた社//
N7216LW|
作品情報|
短編|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
伯爵家に嫁いだエレノアには、前世の記憶があった。
前世で慣れ親しんだ文房具の知識と、この世界の魔法技術を組み合わせ、彼女は“魔法の文房具”を次々と発明していく。
複写できる羽根ペン。
改ざんを防ぐインク。
学//
N0273LW|
作品情報|
短編|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この短編で書きたかったのは、「地味=弱い」ではなく、「地味=余計に傷つけない強さ」だということです。
回復や疲労軽減、恐怖耐性みたいな支援は、派手に光らないぶん“効いて//
N3528LT|
作品情報|
完結済(全30エピソード)
|
異世界〔恋愛〕
乙女ゲームの“悪役令嬢”セシリアに転生した私が最初に気づいたのは、断罪イベントの恐ろしさ…ではなく、冤罪イベントの台本が穴だらけだという事実だった。
証拠の提出時刻がない、受領番号がない、閲覧記録もない。これで有罪にでき//
N7891LU|
作品情報|
短編|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
王立学園への入学を控えた公爵令嬢エステルが、鏡の前でつぶやきかけた“悪役台詞”。
それを聞いた母セレナは確信する。娘には、偶然を装った破滅ルートが用意されている。しかも目撃者の配置、衝突の導線、噂の育て方まで……やたら丁//
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。