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第二話:棍棒と逆さアワビ

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あらすじ
お花が「女」という尊厳を泥に溶かし、復讐の鬼へと変貌する転換点となるエピソードです。

第二話:棍棒と逆さアワビ(あらすじ)

源三郎の気まぐれな「情け」は、戸越の秩序(理屈)を乱した。名主・徳右衛門にとって、役人の目の前で面子を潰されたことは、村の支配体制を揺るがす重大な不祥事であった。その報復は、祝言の夜が明ける前に、迅速かつ凄惨に執行される。

逃げ場のない戸越の藪で、お花と伝次は「泥の三尊」に捕らえられた。連行されたのは名主屋敷の裏手、わざわざ井戸水を注ぎ込んで作られた人造の**「泥溜め」**。そこは、名主に逆らった者が人としての形を失うための処刑場だった。

お花は両足首を荒縄で括られ、泥溜めの上に張り出した大枝から**「逆さま」に吊るし上げられる。貸し与えられた白装束は重力に従って捲れ上がり、充血した彼女の顔は熟しすぎた果実のようにどす黒く染まる。その真下、泥濘に組み伏せられた伝次の目の前で、山割の権蔵**が愛用の太い棍棒を手に取った。

権蔵は、逆さまに揺れるお花の柔らかな肉を、棍棒の先端で執拗に突き上げ、蹂躙する。それは単なる暴力ではなく、伝次の目の前で彼のアワビ(妻)が村の共有物へと作り替えられていく「儀式」であった。産婆のお兼は吊るされたお花の髪を掴んで嘲笑い、帳付の佐兵衛は伝次の後頭部を泥に押し付け、妻の絶叫と、その肉体から滴り落ちる「絶望」を強制的に飲み込ませた。

塀の上では、源三郎が月明かりを背に、腰の**「差金(さしがね)」**で己の爪を掃除しながらその光景を眺めていた。伝次の必死の救いを求める叫びにも、源三郎は「二度と俺の前で泣き言を言うな」と冷たく突き放す。彼は助けるのではなく、この地獄が「公儀の理屈」にどう収まるかを測る、ただの冷徹な観測者でしかなかった。

夜が明ける頃、お花の瞳からは一切の光が消え失せていた。白装束はもはや茶褐色に汚れ、泥と脂にまみれた彼女の心は完全に粉砕された。だが、その死んだ瞳の奥底で、何かが静かに発火する。

源三郎は立ち上がり、汚れた差金を腰に戻して独りごちた。「……不味いな。どいつもこいつも、生臭くてかなわねえ」。

自らの長屋へと歩き出す源三郎の背後で、泥の中から這い上がろうとするお花の指先が、鬼の爪のように土を掻いた。戸越の泥を啜りきった女による、血塗られた逆襲の幕が上がろうとしていた。
Nコード
N8243LW
シリーズ
地獄の捕物帳
作者名
塩塚 蘭仮名
キーワード
R15 残酷な描写あり 春チャレンジ2026 ダーク 男主人公 和風 近世 群像劇 日常 青春 ハードボイルド 時代小説 サスペンス
ジャンル
歴史〔文芸〕
掲載日
2026年 03月08日 17時45分
最新掲載日
2026年 03月08日 17時45分
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