- あらすじ
- 魔王城最深部――玉座の間。
重厚な静寂が満ちるその部屋で、魔王≪ヒビキ・イ・テア≫は華やかな座に腰を沈めている。
視線の先には、深紅の巨大な両開きの扉。
しかし魔王の意識が捉えているのは、その扉の奥の存在である。
直接目にせずともわかる、明らかな【強者】。
有象無象とは格が違う誰かが、この部屋の目前まで迫っている。
ギギィ…と、扉が僅かに軋む。
ゆっくりと広がる扉の隙間から、冷たい風が流れ込む。
現れたのは、一人の男。
「よくぞここまでたどり着いた、勇者よ。」
重厚な威厳のある声で、魔王は勇者を労った。
毎度のことながら、よくこんな声がこの華奢な喉から出るものだと、自分でも感心する。
しかし、男は一切の動揺を見せない。静かに、魔王の言葉を受け止めた。
腰のベルトから下げた2本の短刀に、全身を覆う泥と返り血にまみれたボロ布。
男は、おとぎ話に出てくるような煌びやかな聖剣も、その栄光をたたえるかのような黄金の鎧も身に着けていない。
それでも魔王は、その男のことを【勇者】と呼んだ。
男の足元に倒れる魔王城直属の部下たち、彼らも例外なく【強者】の筈である。
それは、この男が紛れもなく【勇ましき者】であることを表していた。
テアは玉座から腰を上げ、ゆっくりと立ち上がり、二歩三歩と勇者の方へ歩み寄る。
その間も、男から視線を外すことはない。
「重ねて歓迎しよう。われこそが魔王、ヒビキ・イ・テアである。さあ、その双剣を抜き――」
テアが言葉を発したその直後、それを遮るように男が動く。
ぼろ布のローブをわずかに翻し、両の短剣の柄に手を当て、深く姿勢を沈み込ませた。
「──っ来るのか!?」
それまで綴っていた常套句を打ち止め、テアも両の手を構える。
練り上げられる魔力、震える空気。
周囲の誰もが今この瞬間にも始まりそうな、果てしない規模の戦いに身構える。
伝説の戦いが…今始まる!!
────はずであった。
次の瞬間、男はさらに重心を下げ走り出したかと思うと、目にもとまらぬ速さで廊下を逆戻りし始める。
ガシャーンという派手な音とともに、男は窓の一つから闇夜へと姿を消した…。
「……帰ってもうた……」
勇者は、魔王を目前にして帰宅していった。 - Nコード
- N5841LL
- 作者名
- 月猫
- キーワード
- R15 残酷な描写あり
- ジャンル
- ハイファンタジー〔ファンタジー〕
- 掲載日
- 2025年 12月08日 09時03分
- 最新掲載日
- 2025年 12月25日 22時10分
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連載(全7エピソード)
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
魔王城最深部――玉座の間。
重厚な静寂が満ちるその部屋で、魔王≪ヒビキ・イ・テア≫は華やかな座に腰を沈めている。
視線の先には、深紅の巨大な両開きの扉。
しかし魔王の意識が捉えているのは、その扉の奥の存在である//
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